属性戦士①
信頼というものはお互いのことを知ることで深まるものだ。
俺と美嶋の信頼関係はお互いのことを語らずも知っていることから今のような関係になっている。俺は美嶋がどんな苦労をしてきて今のような不良になってしまったのか知っている。逆に美嶋も俺がどうして不良をしているのか知っている。お互いを知ることで分からないことも分かってくる。
今の俺にはそれが足りない。アキにも風上にも。
特に風上だ。あいつは分からないことが多い。
異世界から入り口付近での魔術師探しも5日目に突入した。一向に手掛かりがないままだった。それでも入り口を使った形跡がある以上こちらに魔術師が来ていることは確かだ。よって、捜索を止めるわけにはいかない。
「で、なんで二人だけ?」
いつものように閉鎖したショッピングセンターに集まっているには俺と風上だけだ。
「リンさんたちは?」
「入り口の向こう側の捜索を今日から始めるらしい。リン以外の空間魔術を使う魔術師もこちらにやって来たようだから安全を確認して入り口がどこに繋がっているか確かめるために今日の捜索は抜けるそうだ。ちなみにリュウガもそれに同行している」
まぁ、いつまでも放置していたら誰かに使われる可能性もあるよな。魔術師の潜入を防ぐには必要だろう。
「アキナは?」
「美嶋と買い物だ。今日の捜索は別にしなくていいって言っておいた」
そう、アキはもっと女の子として楽しむべきだ。こんな魔術師みたいなことはこれからなるべき避けるべきだ。
風上も納得してくれたようだ。
「なら、今日はふたりだな」
「そうだな」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
気まずい。でも、退院してから魔術のことを教わるときは大抵二人っきりだった。あの時は俺も魔術のことを知るので必死でそんなことを気にしたこともなかった。
「とにかく、行くぞ」
「あ、ああ。ってどうやっていつものところまで行くんだ?」
いつもはリンさんが繋いでくれた穴をくぐって一瞬で目的地まで行くことが出来たが今はそのリンさんがいない。
「仕方ない」
風上は肩にかけていたバットケースを肩からおろしてチャックを開けると出ていた黒塗りの棒。夕日の光に当たり輝いているように見える黒い棒。それは先端に向けてゆっくり弧を描いている。それはパッと見ただの棒にしか見えなかった。
「我が魔力を糧に」
そう風上が呟くと棒を中心に風が吹き荒れる。竜巻のように風上を覆う。でも、建物全体を破壊するような風ではない。そして、黒塗りの棒から抜き出されたのは銀色に輝く刃。刀だった。風上が剣を振り下ろすと再び風が強く吹く。
それが風上の使う武器だとすぐに分かった。
それは刀であることは間違いない。でも、長さがない。短刀というものだろう。柄に近い刃には魔術を使うためには必要不可欠の陣が彫られている。風上が前に言っていた魔武というものだろう。
「スゲー」
思わす口に出してしまった。
「でも、それでどうやって目的地まで行くんだ?」
「空間魔術ほどではないがすぐに行ける。来い」
言われて風上に近寄る。すると俺の足を刈ってこけさせて風上に抱え込まれた。
「何するんだよ!」
「これの方が安全だ?」
「安全?」
何か危険なにおいがする。
「行くぞ」
風上の持つ刀の風が強まる。そして、その刀を地面に突き刺す。次の瞬間、ジェット噴射のごとく風が爆発するかのように吹き荒れて俺たちをはるか上空に吹き飛ばす。
「おわわわわわー!」
気付けば、空の上。
「なぜだー!」
「暴れるな!」
すると風上は空中で体をひねらせて目的地の方を向く。そして、剣先を後ろ側に向けるとジェット噴射ですごいスピードで目的地に飛んでいく。
「ああああああああああ!」
ミサイルにしがみついている気分だ。
「これどうやって止まるんだ!」
「運任せ」
「絶対死ぬだろ!」
すごいスピードで目的地の廃工場が大きくなっていく。このままだと俺たち人間ミサイルが工場を破壊することになる。やだ、死にたくない。
だが、心配はなかった。風上が今度はさっきと逆に剣先を向けて風を出す。ブレーキをかけて廃工場近くの森の中に入っていく。スピードが落ちて地面が見えてきたころに風上は俺を離す。
「え?」
俺は受け身も取らずに地面に叩きつけられる。風上は華麗に着地する。
「何するんだよ!」
「すぐについただろ」
そういって刀を鞘に納めてバットケースにしまう。
「死ぬかと思ったぞ!」
「死なない程度に落とした」
「今落としたって言っただろ!」
怪我はしていないところをちゃんと分かって俺のことを落としたのだろう。それでもムカつく。こう偉そうにしているところとか。
「・・・・・・・・・・」
「どうした?」
風上が木々の間から顔を出す廃工場を見つめる。いつものように学校帰りにここに寄っているのでオレンジ色に染まる工場。その工場の周りには不気味にカラスが集まってきている。ただでさえ不気味な廃工場をさらに不気味にする。
「妙だ」
「何が?」
「今日は組織の魔術師が多く異次元の穴を調べに集まっているはずだが、工場に人の気配がない」
何を根拠に言っているのか分からない。でも、あんなにカラスが集まっているところを見ると何か異常な気がする。俺が最初に工場を訪れたときはあんなにカラスは飛んでいなかった。
「行ってみるぞ」
「待てよ」
俺も慌てて後を追う。
風上がバットケースから刀を取り出す。どうも、嘘をついているようには思えない。
すると突然風上が言いだした。
「君は帰れ」
「・・・・・・・・・はい?」
「聞こえなかったのか?君は帰れ。今日の捜索は休みだ」
「何言ってんだよ!」
ここまで連れてきておいて何を言っているんだよ!帰るのすごく大変なんだぞ!
風上は木の陰に隠れて周りの様子を窺う。
「敵がいるかもしれない。君がいると邪魔だ」
「なんだと!」
前から気に入らなかった。こいつはなんでもひとりでやろうとしやがる。
「お前は一体なんだよ!何のために俺に魔術を教えてくれたんだよ!」
「アキナを守るための道具になると思っただけだ。それ以外の感情はない」
「敵がいるとするぞ。相手がとんでもない人数でスゲーランク高かったらどうするんだよ!」
「その時はその時だ」
なんでケロッとしている。いくら人がいてもいくら相手が強くても関係ないってか?
「お前俺のこと信用してないだろ」
「それがどうした?」
「なんで?」
すると風上は大きくため息をすると嫌そうな顔をして言った。
「俺には師がいた。俺に剣を教えてくれて生きる術を教わった親みたいな存在だ。その師はある人物から大怪我を負い、その怪我からの感染症で死んだ。ある人物の名はシン・エルズーラン。貴様の力の持ち主だ」
「・・・・・・・え?」
「君は俺にとって敵だ。そんな敵に魔術を教えただけでもありがたいと思え。ちなみに俺の師がシンに殺されたことをアキナは知らない。話したら問答無用で殺す」
俺は風上のことをまだよく知らない。知っていることと言ったら、アキのおかげで生き返ってアキのために命を張る魔術師ということだ。
「もしかしたら、俺が激情して君を殺すかもしれない。だから、帰れ」
「風上は俺を信用しない。でも、俺は信用する。俺と同じ目的を持つ仲間だと思ってる」
「俺は思ってない。敵を味方にしていいことなんてない」
そうかもしれない。いつどちらが裏切ってもおかしくない。
信頼関係はお互いの腹を割る必要がある。切り出すのは俺だ。
「これは美嶋にも話したことないことだ」
「ん?」
「俺が不良モドキみたいなことをやってるのは知ってるだろ?」
「ああ」
よかった。聞いてくれた。
「俺には家族がいるんだが、家族ごっこみたいなんだ。母さんと父さんと妹がいるんだけど、会話することがなくてなまるで俺だけ他人の家いるみたいなんだ。中学の時、俺はある人物を・・・・・大怪我をさせてしまった。それからだ。家族は俺のことを怖がるようになった。おかしいと思わなかったのか。俺が病院に入院した時に家族が誰も見舞いこなかっただろ。俺は家族がいない。誰もいない」
腹を割るつもりでも半分嘘で半分本当のことだ。
なぜ、あの時勢いに任せてしまったのか後悔もある。それ以来、俺が学校に行かなくても入院しようとも家族はなんとも思わない。ただの他人の事なのだ。
「それを俺に話してどうする?」
「俺はお前を信用したい」
お前がアキを守るために俺を利用しているなら俺も利用してやるよ。
「だから、俺の最も知られたくないことを話した」
これは俺の過去の汚名だ。誰も知られずにひっそりと閉まっておきたい。
「だからといって俺はお前の過去を聞く気はない」
これは俺からの一方的な信頼関係の形成だ。風上の過去は聞く気はない。
「怪我させた相手は何をした?」
「・・・・・・・・・・・」
「どうした?」
言うべきなのだろうか。俺が怪我させた相手にはれっきとした殴られる原因があった。それはひとりの女の子をめぐる話だ。話せばその女の子にも迷惑が掛かる。だから、俺が悪者になることでその場を収めた。現場を知っているのは怪我をした奴と俺とその女の子だけだ。
言うべきだ。アキを守るために。
俺が人を守りたいという強い信念を持ったのはそのころからだった。言うべきだ。
「もう、いい」
風上に止められた。
「君の苦しそうな顔を見るほど、俺も悪趣味じゃない。信用しよう。君はシンとは違う。だが、ひとつ訊こう。怪我させたことに後悔しているか?」
「当たり前だ」
やりすぎたと思っている。反省している。誰も聞き入れてくれなかったけど。
「ならよかった。行くぞ」
風上が工場に向かって歩き出す。
「君が覚悟をもって自分のことを話してくれた。だから、俺のことも少し話そう。君はいいと言ったが俺にも礼儀というものがあるのでな」
風上は立ちどまって剣を渡してきた。
「これを抜いてみろ」
そう言われて俺は風上から刀を受け取る。これが思ったより重量があり、落としそうになった。黒塗りの棒にはちゃんと柄と鞘の境目が見えた。遠くだとただの棒にしか見えない。その柄を持って刀を抜こうとしてもびくともしない。
「あれ?」
力いっぱい刀を抜こうとしたがびくともしない。
「なんだよ。これ?」
「これは右風刀という契約系の魔武だ。契約系は武器の他にも召喚獣とかになる。術者の魔力のみを認証して発動する。この魔武も俺でないと抜くことはできない。もし仮に抜かれている状態で君に渡すとする」
俺は風上に刀を返す。風上は軽々と剣を抜く。銀色に輝く刃。それを俺は目に焼き付ける。そして、それを風上は俺に渡してくる。すると刀の刃が黒く炭のようになっていく。
「な、なんだ?」
刀を風上に返すと刀はゆっくりと刃に戻っていく。
「俺が以外が触れると刀の攻撃力がなくなり、この刀に埋め込まれている魔術も使えない」
俺も一応風上から魔武の事は聞いている。でも、契約系の魔武の違いが分からない。
「契約系ってどう違うんだ?」
「術者の一部を契約料として払い強力な魔術を発動するためのものだ。俺の場合は魔力だ。中には命を契約料に使うものいる。大きな違いは普通の魔武よりも汎用性が高い。この右風刀は風を使った攻撃もできれば、さっき使った移動もできる。これが契約系の違いだ」
そうなのか。知らなかった。魔術には俺の知らないことが多い。
「じゃあ、みんな契約系の魔武を使えばいいじゃないか」
「そういかない。この契約系の魔武はとある機関のみで生産されていた。その機関は一つの属性魔術を徹底的に学ばせて優秀な兵士にして国に売る。その機関には多くの子供がいた。そして、売り物にならない子供を多く殺した。そして、機関出身者には必ず属性魔術が名前に刻まれている」
「それって・・・・・・・」
やっと分かった。風上はやはり縛られていた。風に。魔術に。
「俺の名前は風上風也。機関出身者だ」




