魔術のない日常②
俺は蒼井の言うようにバスに乗って駅前近くまで戻ってきた。その後、家には向かわずに美嶋の家に向かう。気付いたら向かっていた。あいつだけが俺のことを待っていてくれるからだ。暗く街灯だけが不気味に光る道を俺がひとりとぼとぼと歩く。
あのショッピングセンターの一件があったせいか夜の人の数が激減した。俺は家に帰らず、よく夜の街を出歩いていたので分かる。明らかに人の数が少ない。そのせいか少し不安にもなる。
不安なことは俺の力にもある。
俺はあのショッピングセンターで瀕死のウルフと戦った時の記憶があいまいなのだ。アキに寄れば、俺の力の持ち主と全く同じ力を使っていたという。この力は俺が今使っている破壊の他にも創造することもできるらしい。それは自然界に存在する風や雷や水が中心らしい。俺はそんな属性魔術みたいなことをまだ一度も使っていない。この神の法則に等しいこの力にはまだ解いていない法則があるのかもしれない。ゴミクズは正解だと言っていた。完全に理解していると言っていた。考え方は間違っていないらしい。このスカスカな俺の脳みそで考えるだけ考える必要があるようだ。自分を理解することは大切なのだ。
そんなことを考えながら美嶋のボロアパートに到着。明かりがついているので美嶋はいるようだ。
ノックをする。しばらく待っても返事がない。
「あれ?」
俺はドアを開ける。カギはかかっていない。
中を覗くと確かに人の気配はする。もしかして、美嶋の親が帰ってきているのか?
「おじゃまします」
この決まり文句を美嶋の家にで久々に使った。すると奥から出てきたのは。
「教太さん?」
「アキ・・・・・・だよな?」
「はいそうですよ」
今は普段の美嶋同様に髪を下している。電気明りによって髪の色が茶色に見えて見分けがつかなかった。
「つーか、なんで美嶋の家に?」
「いろいろありまして」
「そうだ。いろいろあった」
「あれ?風上もいるのか?ってことはここがお前らの拠点?」
「そんなわけないだろ」
「そうかもしれません」
どっちだよ。
「ここの家主の美嶋は?」
「買い物に出かけました」
無防備だな。
「改めて聞くぞ、ここがお前らの拠点か?」
「・・・・・・・そうだな」
渋々風上が認めた。そうかそうか。
「どうやって廃工場からここに来た?」
「リンさんの空間魔術を使ってですよ」
「どうして俺もいっしょに連れて行かなかった!」
ここまで戻ってくるのにどれだけの労力と金を消費したと思ってるんだ!
「アキにおごらせた君が悪い」
「ほとんどお前らのせいだろ!」
あの後、アキがしっかりお金を持っていた。だから、普通にファミレスから出ることが出来た。魔術師の中で一番常識的で適応力の高いアキ。感謝します。
「それと美嶋には魔術を一切関わらせないって約束しただろ。なんでそんな美嶋も家に魔術師がいるんだよ!」
俺は置いて行かれたことよりも美嶋と魔術の関わりそうなところに腹が立った。アキと美嶋は同一人物。美嶋にアキと同じような魔女に等しい魔力を持っているかもしれない。でも、美嶋は関係ない。
「安心しろ。ここを拠点にしているのは一時的なものだ」
「実は私たちの拠点に使っていた建物が取り壊されていて。使われてない廃ビルだったんですけど」
最近、再開発とかで古い建物が壊し始めているからな。だったらそれでいいんだけどな。
「国分教太」
「なんだ?」
「こちらの美嶋秋奈が魔術と無関係でいるのは難しいと言える」
「どういうことだ?」
「彼女は一度魔術を目にしている。そこに生まれる疑問を解決するために彼女自身が魔術と関わろうとしてくる」
「だから、それを防ぐように俺は頼んでんだろ!」
「君が思っているより魔術は人を吸い寄せる。人がいてこその魔術だ。一度魔術に関わってしまえば回避できない」
俺は思わず風上の胸ぐらに掴みかかる。怒りだ。どうしようもない怒りだ。確かに運命は簡単に変えることはできない。それはこの力を受け入れた俺が一番分かっている。でも、美嶋はまだ引き返せるところにいるはずだ。
そういいたことはある。だが、言葉が出てこない。
「方法ならあることはない」
「何?」
「俺たちを全員殺してこの世界の魔術の痕跡をすべて壊せばいい。君の力ならできるはずだ」
そんなことできるわけないだろ!
「君はいろいろ覚悟がまだ足りないようだな。少なくとも俺はアキナと約束したひとつは守れないでいる」
そうだ。こいつはアキにもう生命転生術を使わせないことを約束していたと言っていた。でも、アキは使ってしまった。
「約束が絶対守れるとは限らない。だが、俺は少なくとも君が言った約束のひとつは絶対に叶えてやるつもりでいる」
「それって?」
「君を強くする。それは俺の目的と一致する。アキナは俺が守る!」
風上の覚悟と意志は強いものだ。こいつはアキを守るためなら命を投げる覚悟がある。一度もらった命を最後までアキに使うという覚悟は尊敬する。でも、それは。
「俺もいっしょだ!アキは守る!美嶋も守る!絶対にこの力で血は流させはしない!」
俺は風上の胸ぐらを離す。
意志の固い。それは俺に魔術という概念を教えてくれた時に感じていた。こいつはアキを守るためならどんな手も使う。それが人を裏切ることになっても風上はアキを守り続ける。そのくらいの覚悟が必要だということだ。
「あ・・・・・・・あの」
アキが赤面して涙目でこちらを見ている。
というかすごく恥ずかしいことを言っていたような気がする。俺たちの目的がアキを守ることをアキ自身は知らない。それを風上と二人で熱く語っていたところを見られたことがすごく恥ずかしい。
「ふたりとも・・・・・・・」
「いや、アキナ・・・・・・」
必死にごまかそうとしている風上を見てなんか笑いそうになる。普段はクールで冷静な風上が顔を赤くしてごまかそうとしてるのがすごくおかしい。
「君は何がおかしい!」
「八つ当たりするな!」
「ふたりともありがとう!」
アキが俺と風上に覆いかぶさるように抱きついてきた。
その目からは涙が溢れていた。
これは風上から聞いた話だ。魔女だったアキは敵に恐れられていたが逆に味方からも嫌われていた。その恵まれた才能と力。味方が多く嫉妬した。そのために味方の援護等がなくひとりで戦場に出て戦っていた。魔女の部隊は魔女を倒せば勝てるという概念もあった。アキは誰からも守られることはなかった。でも、今はこうして守ってくれる味方がいることがすごくうれしかったのだろう。
俺と風上はただお互いに困った顔をするしかなかった。




