魔術のある日常⑤
人の名前。親に付けられた名前。最初に受ける愛情だ。
だが、人によってはそれが鎖になっているものもいる。親に付けられず、その名前ですべての象徴にされてしまった者もいる。
風上風也。これは明らかに何か縛られている名前だ。
まるで最初から風使いであることを分からせるような名前だ。
最初に名前を聞いたときに偽名ではないかと思ったが、誰もが風上や風也と呼ぶからどちらも間違ってはいないようだ。でも、その縛られた感じがするのは事実だ。
「風上」
「なんだ?何か見つけたのか?」
「・・・・・・いや」
俺は親に教太という名前を付けられた。どういう理由で付けられたのか知らない。でも、それなりに愛情があったに違いないと思う。
あのふたりの自己紹介を聞いてから風上風也という名前が少し気がかりになった。
「なぁ、アキ」
「はい?」
「風上って強いのか?」
「強いですよ。さっきのリンさんやリュウさんと同等のレベルの魔術が使えます。それに武器を組み合わせた攻撃はランクなんて壁を超えるものです。それにちょっと特殊な訓練を受けているので」
特殊な訓練ってなんだ?
「あのさ、もしかして風上の使う属性魔術って風か?」
まさかじゃなくてもきっとそうだろう。魔術師がみんな使う魔術によって名前が決まるのかと思っていたがリンさんもリュウもアキもそうでもないみたいだ。風上だけがおかしい。
「そうですね。素人の教太さんにも分かりますよね」
「あってたか」
「はい。今の組織に入る前に風也さんは別の組織にいました」
「どんな?」
「それは・・・・・・・」
「アキナ」
風上に呼び止められて肩をびくつかせる。
「それ以上しゃべるな」
いつもアキに話しかける風上ではなかった。俺に向けられたものでなくても俺でもその恐怖を感じた。アキはそれから黙り込んでしまった。過去の詮索は嫌いだ。俺自身もあまり好きじゃない。俺が嫌なことを人にやるほど悪い奴じゃない。
「とりあえず、探すぞ」
俺たちが決められた地域は異次元の入り口付近の森の中の捜索だ。隠れるならこの辺だろうということだ。敵を見つけたら信号弾を撃って離れた味方と集結して全員で飛び掛かるというものだ。
信号弾は普通の銃の銃口がデカいものだ。だが、このタイプの銃はこっちの世界でもある。ウルフといい、リュウといい銃に関してほぼ変わらないようだ。
「で、どうやって見つける?」
「なるべく固まって動くぞ。アキや君は弱い。距離があっては助けに行くものタイムロスというものがある。敵が未知数以上なるべきかたまって動くことにする」
日が沈みかけてオレンジ色に染まる森。
「日が沈んだら引き上げるぞ」
夜になれば、視界が悪くなる。敵の奇襲に対応しにくい。アキや風上は戦いのプロかもしれないが俺はそうじゃない。魔術に会って1週間しかたってない。ゴミクズによって恐怖等が緩和されていて戦いやすい状態にはなっている。
そういえば、あのショッピングセンター以来ゴミクズのいるあの無の部屋に行っていない。まだ、あいつは寝ているのだろうか?
そんなどうでもいいことを考えながら足場の悪い森を進む。
すると信号弾が上がった。
「行くぞ!」
風上はまるで風みたいに飛んで行った。吹き荒れる強い風に落ち葉が巻き上げられる。視界が悪くなる。全身落ち葉だらけになる。
「教太さん行きますよ」
「ああ。・・・・・・大丈夫か?」
アキが全身に落ち葉が引っ付いてミノムシみたいになっている。
「大丈夫です」
「いや、大丈夫じゃないだろ」
アキは信号弾の撃たれた方に走っていく。俺もその後を追う。
場所は近そうだ。緊張感が俺の体を固くする。これから始まるのはあの命の駆け引きだ。死ぬか生きるか。俺が選んだのは生きるだ。それは俺も味方も同じだ。誰も死んではいけない。そして、アキの苦しまない環境を俺が作る。そう決めた。
するとアキが突然と止まった俺はそれに気づかずにアキに特攻してしまった。俺がアキに覆いかぶさるように倒れた。
「何をやっている?」
「ああ、悪い!アキ」
「だ、大丈夫ですよ」
笑ってごまかされた。何か恥ずかしい。
「そうだ!敵は!」
「いないぞ」
「はい?」
風上の見る方には泣きじゃくるリンさんとそれを励ますリュウがいた。
「蛇!蛇がいた!」
「大丈夫やって。俺が今追い払ったから」
「絶対近くにいる!」
ん?この角度なら少し屈めばその紐のスカートの中が見えるんじゃないか?
少し腰を下ろして屈む。
「何してるんですか?」
杖で軽くたたかれた。
くそ。もう少しで見えるところだったのに。
「たく。蛇ごときで俺たちを呼び出しやがって」
まったくだ。俺のちょっとした覚悟を返してほしい。
この場にいる全員が呆れた顔をしていた。でも、蛇が怖いというのは女の子みたいなことを魔術師も言うのだなと思った。やはり、人間離れしたことが出来ると言っても元は人間なんだなと思う。アキも見た目は普通の女の子だ。もう大して魔力が残ってないんだから普通の女の子として過ごせばいいのに俺は思う。でも、口に出せない。彼女も俺と同じように俺を守るために戦おうとしている。
『何かいる』
ゴミクズの声がした。
俺はとっさに後ろを振り返る。だが、そこにはオレンジ色に染まる木々しかない。だが、ゴミクズに言われた瞬間俺も人の気配を感じた。肉眼で確認することはできなかった。
「どうしました?」
「・・・・・・・・いや、何でもない」
気のせいかもしれない。それにしても久々にゴミクズの声を訊いた。




