魔術のある日常③
吸い込まれたと思ったら地面にヘッドスライディングをするかのように滑り倒れた。
その地面は俺に知るただのコンクリート。石が転がっていて埃っぽい。ここはどこだ?
体を起すと目の前にアキがいた。
「大丈夫ですか?」
「・・・・・・・あ、ああ」
顔が近い。誰か押したら事故が起きる!アキが美嶋と同一人物だと知ってからどういった態度をとればいいのか困惑している。アキが美嶋だと意識してしまってなかなか会話できないでいる。その分、アキは美嶋とよく話している。ちなみに美嶋はアキが自分でいることを知らない。
「な、なんでアキがここに?」
一歩下がって立ち上がる。その際に服についた埃をとる。
周りを見渡せば、そこは見覚えのない廃工場だった。壁はトタンでできていて鉄筋の柱がむき出しの安易な作りになっている。天井は高く2階建ての建物に相当するだろう。天井には自然の力で動いている換気扇が回る。
「さっき説明した場所だ。たく、あの穴をくぐるのにどれだけ躊躇している」
呆れながら言われた。
「だってよ!」
「言い訳は聞かん」
なんか腹立つ。この風上はなんか人を上から押さえつけるような話し方をする。それが少し気にいらない。
「ケンカしないでください」
「アキナこいつは自分の力でもない力があるからでしゃばってる!その根性を叩き直す必要がある!」
「うるせーな!これは俺の力だ!どうせお前もこの力使えないんだろ!」
「関係ない!」
「いつまでケンカしとんや!」
ドスの利いた声で俺と風上は一旦静まる。声のした方には学ランみたいな黒いロングコートを着た身長は俺と同じくらいでオールバックの髪型をした男。目つきは例えるなら龍みたいな感じだ。生々しいのは腰に隠すように持っている銃。
「リュウガは黙っていろ!」
「はいはい。風也ちゃん落ち着いて。教太ちゃんが混乱してるわよ」
マジで混乱している。ここがどこなのか?そして、こいつらは誰だ?
風上を止めに来た金と茶色の境目のような長い髪の色をした少し幼さを残した顔立ちに大人のような雰囲気を持った女の人。特徴的なのはスカートが紐でできているということだ。ラテン系のダンサーがしていそうな紐だけのスカート。紐の隙間から見せる太ももがなんともエロい。そして、服装もお腹を出した大胆さ。エロい。
「風也ちゃんも初めて空間移動するときは入るのに抵抗したでしょ?」
「し、してなどいない」
「強がり」
「こら。国分教太。何を言った?」
別に何も言ってないよ。
「えっと、この俺の知らないお二人さんはアキと同じ魔術師で味方として判断していいんだよな?」
「そうですよ。あのちょっと強面な男の人が」
「俺はそうな風に見られてんのか?」
自覚症状ないのか?どう見てもどこかの番長にしか見えないぞ。
「リュウガ・フォーロンさんです」
「リュウと呼ぶやつが多いで」
「ちなみにアジア人の顔立ちですがイギリス生まれです」
「だから、中途半端な関西弁なんだ」
「うるさいで!」
そんなリュウを無視して次の紹介に映る。
「こちらの顔とスタイルの年齢が一致しない女の人が」
「どういうことよ?」
確かに顔だけ見たら俺と同じかしたくらいに見える。でも、体は大人だ。
「リン・エイリーさんです」
「よろしく。教太ちゃん」
「ちゃん付けが特徴です」
「分かりやすい特徴だ」
「私の個性ってそれだけ?」
リンさんの反論もリュウと同じように無視して話を進める。
「私の所属する魔術組織の一員ですので、教太さんのお仲間です。仲良く良くしてくださいね」
アキは笑顔で言う。俺の関わってきた人たちの中でも断トツで特殊な人物だ。だって、魔術を使うんだぞ。美嶋が聞いたら病院に連れて行かれそうだ。
「それでどこに入り口がある?」
「ああ、そうだったね。こっちだよ」
リンさんに続いて廃工場の奥に進む。
「ちなみに教太さん」
「なんだ?」
「リンさんは空間魔術を専門に扱う魔術師です」
「え。そうなのか?」
風上が少ないとか言っていたような気がしたがすぐに会えるなんておかしくないか?
「この中」
廃工場が稼働していた当時事務所に使っていたであろう小さな小屋があった。工場と同じさびだらけのトタン板でできている。窓のガラスは割れているが段ボールで中が見えないようになっている。
リンさんが扉を開けると中には異様な光景が広がっていた。
事務局だった。部屋にはまだ机やいす、ロッカーやパソコンといったものも残っていた。だが、そんな俺が見るような当たり前な物の中に異常なものがある。そっちに目が自然と目が行く。
例えるならブラックホールだ。半径1メートルはあるだろう大きな穴がある。その穴は黒ではなく少し紫を帯びていてゆっくりと回転している。それはさっきみたいに壁から発生したものではなく、何もない空間に発生している。同じように空気が吸い込まれている。
「これが?」
「時空間魔術の類です。これってかなり高レベルですよね?」
「そうね。ランクはA。少なくともBね」
リンさんが落ちていた紙切れを拾ってねじれた空間とそうでない空間の境目に拾った紙を近づける。すると紙は雑巾を絞ったようにねじれていきバラバラに破れた。
「教太ちゃん。この空間との境目には近づいちゃダメだよ。さっきの紙みたいになっちゃうから」
「わ、分かりました」
俺の目の前に広がる非日常。本当にゲームの中にいるみたいだ。
「リン。これはどこに繋がっている?」
「さぁ?まだ調査中。変に入って傭兵の本拠地のど真ん中に行きたくないし」
「それに厄介なことがまだあるんや」
「厄介なこと?」
「この入り口はウルフたちの使ったものじゃないんですよね」
え?
「ちょっと待て!聞いてないぞ!」
風上も驚いていた。
「私もさっき聞いて驚きました」
つまり、こんな異様な非日常な空間がもうひとつ存在するのかよ。俺の知る日常の裏に言ったどれだけの非日常が存在するのか。考えるだけで鳥肌が立つ。
「一応、他に入り口がないかとサーチ掛けたらここ以外にあと3カ所で反応があった。その一つがこれよ」
まだ二つもあるのかよ。
「一応、私が全部見てきたけど、2つがまだ使われていなかったわ。人の通った形跡がなかったから」
ここを合わせて異次元への入り口は4つ。そのうち二つは未使用でひとつはウルフとアゲハが使っている。ということは残る一つはまさか・・・・・・・。
「もしかしてさ。残ったひとつは使われてたのか?」
「そうよ。通った人数は3人。で、使われた入口がこれ」
リンさんが指をさした。
「もしかしたら、まだここにいて俺たちを狙ってるとか?」
「可能性はあるで」
俺は周りを警戒する。物影に天井。隠れるところは少ない。人影も見当たらない。
「近くに潜伏しているのか?」
「そのための俺たちやで。そのこっちに来た魔術師を撃退するのが俺たちの課せられた命令のひとつや」
リュウは腰に隠してあった拳銃を取り出す。黒く輝く銃。そのボディには龍の彫刻が彫られている。戦闘態勢はばっちりのようだ。
「でも、相手の数は分かっているものの戦力は未知数ですよ。どんな魔術やどんな武器を持っているか分かりません」
「とりあえず、作戦会議をするで。ここだと敵が潜んでいるかもしれないで。どこか場所を変えへんか?」
「そうですね」
そういって全員工場の出口に向かう。俺は異次元の入り口のある事務局から最後に出る。その穴はさっき場所を移動したものとは違う。ずっと、眺めていると吸い込まれて二度と戻れそうにない。あいつらはそんなこの穴を通ってきている。それは相当の覚悟が必要だ。俺もこの力を守る覚悟とアキたちを守る覚悟を決めなければならない。迷いは死につながる。風上の言っていた言葉だ。




