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誰も知らない神の法則  作者: 駿河留守
覚悟の日
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日常②

 暖かな五月晴れの空を見上げながら商店街を抜けて少し道に沿って少し坂道を上ると俺の高校はある。学力は市内下から数えたほうが早いくらいバカな高校だ。そこが俺の高校だ。公立高校の受験の滑り止めの私立高校なのでバカな奴はすごくバカだがそこそこ頭のいい奴もいる。俺はおそらく、そのそこそこ頭のいい奴の部類に入るのだろう。だが、今はバカな奴の部類だろう。授業にまともに参加していない時点でダメな奴だということは認知している。

「あれ?教太じゃない?」

 下も向きながら歩いていたので目の前を歩いていた女子高生に気付かなかった。

 明らかに校則違反の茶髪のセミロングに若干未発達の胸にほっそりとした見た目は美少女、中身は性悪女の美嶋秋奈だ。小学校がいっしょでは結構仲が良かった方だった。高校でまたいっしょになってこうしてつるんでいる。

「あんたも今登校?」

「違う」

「嘘つくな」

 俺は不良じゃないので今から登校とかありえない。

「じゃあ、何でこんな時間にこんなところにいるのよ?」

「優秀だから」

「どこがよ」

 美嶋も見ての通り不良少女である。小学校の頃はきれいな黒髪を腰あたりまで伸ばしていた。男子になかなか人気の高いマドンナ的な女子だったのだが、中学の時にいったい何があったのか俺は知らない。別に知りたくもない。人の過去を詮索することはあまり好きじゃない。もし、俺はそんな立場なら嫌だと思うからだ。

 美嶋と共に学校の校門をくぐるとそこにはジャージ姿の体育会系の生徒指導の先生がいた。確か野澤とかいう先生だったはずだ。

「国分!美嶋!貴様らまた遅刻か!」

 耳に響く良く通る声があまり好きではない。

「この不良どもが。先生の仕事をこれ以上増やすな」

「俺は不良じゃないです」

「午後に登校してくるような奴が不良じゃないとか頭おかしいのか?」

「先生静かにした方がいいわよ。他のクラスは授業中よ」

「何で美嶋に注意されないといけないんだ!」


『野澤!うるせー!』


 校舎から生徒の苦情である。いい気味だ。

「保健室行ってきま~す」

「こら!国分!」

「同じく~」

「美嶋も!お前ら待て!」


『『『野澤!うるせー!』』』


 いろんな角度からの苦情が野澤を襲う。声が通り過ぎて授業の妨害になっていたようだ。バカだな。

「ねぇ、教太」

 俺の顔を覗き込むように美嶋が話しかける。顔が近い。何か事故でもあったらキスしてしまいそうな距離だ。美嶋は何かとスキンシップの多い奴だ。と言っても俺みたいな仲がそれなりいい奴にしかそういう風に接しない。オカマとよく一緒に行動するがオカマには全く近づかない。というか触れただけで蹴り飛ばされる。それを見ているのはなかなかおもしろい。

 オカマは美嶋に気があるようだが、美嶋は全く気に留めていない。

「今日はこの後どうする?」

「保健室で寝て帰る」

「・・・・・・何のために学校来たのよ」

 その質問は答えない。答えられないというのが正しいかもしれない。何で来たくない学校に来たのか俺も不思議で仕方ない。いつも昼ごろに来て遅刻届を出して保健室で寝て帰るという生活を繰り返している。学校にきたらまず保健室に行くのが習慣になっている。

「そういう美嶋は何で学校に来るんだ?」

「な、何って別に何でもいいでしょ」

 そっぽを向く。訳の分からない奴。

 保健室は職員室のある本館の一階の角にある。保健室の周りは上の階に行く階段があるが保健室の周りは理事長室と事務局しかないので利用する生徒はいない。よってこの学校の中において最も静かな場所なのだ。

「こんちわー」

「どーも」

 ほぼ毎日変わらないあいさつを交わして保健室に入ると部屋は明かりがついていなかったので暗かった。カーテンが開いているから日の光が入って真っ暗ではなく薄暗かった。窓が少し開いてて風でカーテンがひらひらと揺れる。

「静ちゃん?」

 保健室の先生、通称静ちゃん。若い新人の先生だ。いつも白衣を着て暇そうに座っているのだが、今日はいない。

「なんでいないのかしら?」

「さぁ~?」

 異様な静けさが保健室を支配する。カーテンで仕切られた向こう側にはベッドが二つ置いてある。そこで俺は2時間くらい睡眠をとった後帰宅する。いつもならそうなのだが今日は違う。いつもいる静ちゃんがいない。

 俺は目的もなく保健室をブラブラと歩く。美嶋は近くにあった丸椅子に座って携帯をいじる。

 で、急に美嶋が口を開いた。

「ねぇ、教太」

「何?」

 俺は意味もなく掃除道具箱を開けたりした。中身はほうきとちりとりとバケツが入っている普通の掃除道具箱だ。閉める。

「もし、魔法とか使えたらどれにする?1、時間を操れる魔法。2、別の世界に行ける魔法。3、人を殺すことが出来る魔法。4、空を飛ぶことができる魔法。どれがいい?」

「・・・・・・なぜ今それを聞く?」

「今じゃなきゃダメな理由でもあるの?」

「いや、ないけど」

 ベッドの上に寝転がって寝る態勢に入る。そうしながら、美嶋の質問に答える。

「2かな。こんな何もないつまらない世界は嫌だね」

「へぇ~」

 何か企んでいる悪魔の笑み的なものを感じて俺は体を起す。

「今の質問に何か企みでもあるのか?」

「別に。ちょっとした心理テストよ。私が今作った」

「今作ったのかよ」

 女の子は心理テストとか好きだとは聞くけど、自分で作る奴は始めて聞く。

「では、結果を発表するわよ」

「どうせ、お前が適当に作ったものだろ。当たる可能性はゼロだろ」

「うるさい」

 なんで怒られないといけないんだ?

「まずは1は過去を引きずっているバカ。誰に知られたくないことが過去にある人ね」

 何か本格だな。少し真面目に聞いてやろう。

「3は周囲に誰か殺したいくらいウザい奴がいる奴。4は現実を全く見ないただのバカね」

「お前将来それ系の仕事にでも就けば?」

「2は頭がおかしい奴」

「前言撤回。やっぱりなるな。何で俺が頭の狂った人なんだ?誰がどこから見ても善良な一般市民だろうが」

「狂ってる」

「うるさい!」

 俺はベッドで横になる。

 くすくすと笑う美嶋。ただ俺をからかっただけか?

 女というものはよく分からない。

「ちなみにあたしは何番を選ぶか分かるかしら?」

「・・・・・・・・1か?」

「正解」

 横目で美嶋の様子を見る。

 笑ってはいたが、目はどこか悲しげに見えた。過去を詮索するのは好きじゃない。

 でも、分かってしまう。美嶋といっしょにいるあいつの傷が見たくもないのに見えてしまう。

 小学校の頃に一度だけ美嶋の家に行ったことがあった。住宅地にひとつかなり目立つ大きな家に美嶋は住んでいた。親が俺たちの地元ではそれなりに名の知れた会社の社長で美嶋は社長令嬢だった。しかし、2年ほど前に会社の事業が失敗した。さらにそこに税金の未納税が発覚して借金大きく脹れあがった。会社は倒産して社長は妻と娘を置いて夜逃げした。そんなニュースは俺の耳にも入って来た。

 3年ぶりに再会して再び美嶋の家に行くとぼろぼろで今にも崩壊しそうな古いアパートに住んでいた。彼女が今の状況に至ってしまったのは何となく分かってしまう。ここからは俺の予想。家庭の環境の激変は関係ない学校の友好関係にも影響する。それによるいじめとかでもあったのだろう。少しでも昔の威厳を守ろうと髪の毛を染める。逆に敵を増やしてしまった。孤独になる。ドラマとかでもあるよくある展開だ。

「寝る」

「・・・・・・・そう。お休み」

 寂しそうに言う。

 こいつは自分の過去を誰かに知ってほしいのか?

 それで誰かに慰めてでもほしいのか?

 バカバカしい。そんなもので何とかなる世の中なら俺は苦労していない。それは弱さだ。美嶋は俺のように頼れる人物が目の前にいると若干甘える。だが、普段は強い。母親の仕事が忙しくて誰もいない家でひとりバイトで生活費を稼ぎながら生活している。弱音は吐かない。正直尊敬する。そんな強靭な精神は俺はない。俺はただ嫌なことから逃げるだけだ。ここはそんな逃げてばかりの俺の隠れ家だ。

「って何してる!」

 俺はシーツを引っ張ると転がるように美嶋がベッドから落下した。

「痛っ。頭から落ちたじゃない」

 涙目になっている。

「何で俺のベッドに寝ている。隣のベッドが空いてるだろ!」

「薄暗いところ怖い」

「子供か!」

 美嶋は再びベッドの上までよじ登ってくる。美嶋は誘っているのか胸元を見せてくる。

「ないものを見せても無駄だぞ」

「それはどういう意味よ!」

「やばい!つい、本音が」

「どうせあたしの胸は小さくて色気がないですよ!」

「ち、小さくてもいいじゃないか!そういうのはロリコン党の方々が好きだと思いますよ!」

「それはあたしがガキって意味でしょうが!」

 美嶋は枕を俺に向かって投げつけてくる。俺は交わす。所詮女の腕力で投げる枕は勢いがない。男同士のまくら投げは戦争だぞ。

「さっきの質問の答えを撤回するわ。あたしはやっぱり3の人を殺せる魔法が使いたいわ」

「大丈夫だって美嶋。少しずつであるが胸は成長している!」

「何であんたが知ってるのよ!」

「触ったから」

「いつ!」

「昨日、お前が隣で寝ている隙に」

「死ねー!」

「待て待て!」

 俺は保健室から逃げ出す。美嶋は掃除用具入れからデッキブラシを取り出して俺の後を追う。鬼の形相で追いかけてくる。運動能力は俺の方が高いのだが、逃げ切れる気がしない。

「待て!話し合えばわかる!」

「話し合いで解決できないところまで来ていること自覚しなさい!バカ!」

 美嶋が俺にめがけてデッキブラシをやり投げの選手みたいに投げる。俺は全力で走りながら後方を向いてそれを確認して前を向くとそこには、

「こら!国分!美嶋!静かにしろ!」

 野澤がいた。目の前で全力で走っている俺は急に止まれない。俺のタックルが野澤の腹部を直撃。そして、美嶋の投げたデッキブラシが野澤の顔面を直撃した。

「「・・・・・・・・あ」」

 俺たちは追う身、追われる身であることが声が合った。

 それからしばらく廊下に仰向けに倒れた野澤のふたりで眺めていて自分たちが今の何をやっているのかを思い出す。

「・・・・・さらば!」

「待ちなさい!」

「テメーら!俺のこんなことしておいてただじゃすまないぞ!」

 こうして俺と美嶋と野澤の3人で授業中の学校中を逃げ回った。その後、体育会系の野澤にあっさり捕まるも野澤も生徒と一緒になって騒ぎながら学校中を走り回ったことで俺たちといっしょに怒られた。いつも偉そうにしている野澤がぺこぺこと謝る姿を美嶋といっしょにこらえていた。

 俺は学校が嫌いだが、こうやってバカみたいにはしゃげるのなら楽しい。

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