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誰も知らない神の法則  作者: 駿河留守
覚悟の日
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日常と非日常

 目が覚めると知らない見覚えのない天井が見えた。周りを見渡すと白くて清潔な部屋でほのかに鼻を突く消毒の臭いが印象的な部屋。そこが病室であることはなんとなく分かった。体を起して周囲を見渡す。個室のようだ。外は明るくなっている。昼間のようだ。そんなに寝ていたのか。

 ベッドから降りようとすると何かが抵抗した。

「わぁ!」

 アキが寝ていた。丸椅子に座って頭をベッドにのせて気持ちよさそうに寝ていた。その笑顔は美嶋にそっくりだ。俺はアキの寝顔をいじる。黒髪のポニーテール。昔の美嶋もこんな髪型だった。本当にそっくりだ。

「・・・・・・・美嶋」

 そうだ。あいつはもういない。死んだ。守れなかった。

 悔しさで胸が破裂しそうだった。両手でシーツが破れるくらい握る。

 すると病室の扉がガラガラと開く。中に入ってきた人物を俺は目を限界まで見開いて見つめる。その瞬間、病室内に心地よい風が吹く。

「・・・・・・・ウソ・・・・・・だろ」

 そこにいたのは花の入った花瓶を持ったいつもの美嶋だった。

「・・・・・・教太?」

 俺は夢の中にでもいるのか?

 そんな気分だった。

「教太!」

 美嶋は持っていた花瓶をその場に落として俺の方に駆け寄って抱きついてくる。ほのかに香るシャンプーの香りと暖かさ。それは紛れもなく現実。本物の美嶋だ。夢じゃない。

「・・・・・・教太。教太!教太!教太!教太!教太!・・・・・・・・教太・・・・・・」

 美嶋は俺に抱きついて俺の名前を連呼する。頬に暖かな涙が流れる。なんで生きているのか不思議で仕方なかった。でも、生きていた。守れなかったと思っていた美嶋が生きていた。

 俺も美嶋に抱きつく。

「悪い。心配かけた」

「・・・・・・・・バカ」

 心地いいバカだ。

 俺も自然と涙がこぼれる。

 アキも目が覚めたようだった。でも、俺たちの様子をどう見たらいいのか分からずあたふたとしていた。

 美嶋はそんなことも気付かずに俺の胸の中で泣き続けた。

 しばらくこの状態にさせておこう。

 美嶋も怖かったはずだ。命を奪われそうになって。

 すると再び病室に人が入って来た。すっらとしたスーツ姿の男だった。黒髪で少しぼさついた髪にウルフとは違う敵意のない鋭い目つき。肩には野球のバットをしまい持ち運ぶケースを肩にかけている。

 俺たちを見て不快に思ったのか目線を外す。そして、目でアキを呼んだ。アキはそれに気づいたのか立ち上がってその男と共に病室から出て行った。

 俺と美嶋はふたりっきりになった。

「大丈夫か?」

 すると美嶋はようやく顔をあげる。目元の涙を裾でふき取って俺に笑顔を見せる。涙でむくんでしまっているがそれでも最高の笑顔だ。

「うん。教太も大丈夫?」

「俺は大丈夫だ」

 美嶋が泣いている間、体を少し動かしてみたがけがはそれほどひどくないようだ。アキの呼んだ魔術師の援軍が回復魔術でもしてくれたのだろう。もしかするとさっきの男がアキの言っていた援軍なのかもしれない。

 するとそのふたりが病室に戻ってきた。

 アキは美嶋に近寄る。

「美嶋さん。先生に教太さんのことを言いに行きましょう」

 そうアキが言うと美嶋は頷いて立ち上がる。

「また後で」

「ああ」

「では」

 最後にアキも一言言って出て行った。アキの目元にも涙が見えた。俺はいろんな人に心配をかけたみたいだ。

 二人が病室を出ていくとスーツの男はカードをポケットから取り出して扉に向かって十字架を打ち付ける。

「お前!」

 焦った。また閉じ込められたのではないかと思ったからだ。

「安心しろ。外から人が入れないようにしただけだ」

 見た目と違って意外と渋い声をしている。年は20そこそこ。だが、声だけ聞くと熟練に聞こえる。なんの熟練なのかはさておいて。

「国分教太。君に話がある。他人に聞かれると厄介だからな。簡単な結界を張らせてもらった」

 もう結界怖いです。

 スーツの男は丸椅子に腰かける。

「自己紹介をしておこう。俺は風上風也。君が呼ぶアキと同じ魔術師だ。もちろん味方だ。だから、肩の力を抜け」

 いや無理だって。今までどれだけ緊迫したところにいたと思ってんだよ。もう、俺からすればアキ以外の魔術師は敵にしか見えないんだよ。

スーツの男は俺の緊張をほぐそうとしたのかバットケースをベッドに立てかけてネクタイを緩める。

「俺もこういう堅苦しいのは苦手でね。君はどうだ?」

「・・・・・・着たことないから知らない」

「そうか」

「・・・・・・・・・・・」

 空気が重い。何か話さないと・・・・・・。

「俺ってどのくらい寝てた?」

 まぁ、大体わかるけど。

「三日」

「え?そんなに?」

「二人とも心配してたぞ」

 なんかすごく悪い。

 ・・・・・・なんだ?このどうでもいい会話は?

「お前本当に何?」

 俺から質問する。

「援軍だ。呼ばれてこっちの世界に来た。正直、この世界の常識が分からん。あいつはどうしてあんなに溶け込めるのか不思議で仕方ない」

「あいつってアキのことですか?」

「・・・・・・君はそう呼んでいるみたいだな」

「君は?」

 そうだ。俺はアキのちゃんとした名前を聞いていない。

「そうだな。まずはそこから話そう」

 少し真剣な話になりそうだ。

「さっき君に抱きついて泣いてた子の名前は?」

「・・・・・・・美嶋秋奈」

 そうだよ。なんであいつ生きてんだ?

「アキの本名は美嶋秋奈だ」

「・・・・・・・・え?」

「漢字も一字一句同じだ」

「どういうことだ?」

 風上はネクタイを完全に外した。

「君はウルフとの戦闘でおかしいと思わなかったのか?こちらの美嶋秋奈が結界で封鎖された建物の中にいたことを」

 そうだ。確かに不思議だった。あの時はそんなこと考えている場合じゃなかった。

「あのふたりは同一人物だ」

「・・・・・・は?」

「君のいる世界と俺のいる世界は途中まで歴史が同じだと聞かされていなかったか?」

「ああ」

 そんなことアキが言っていたような・・・・・・・。うろ覚えだ。

「普通なら途中で歴史が変わるとそこに誕生するべき人は誕生しない。例えば、とある大きな戦争がきっかけで出会うはずだった男女が戦争が起きなくて出会わなかった。ここですでに生まれるはずの子供がいなかったことになってしまう。そして、それ以降の生まれてくるはずの子孫が存在しないことになる。運命によって人をつなぐ運命の木の構造が変わってきてしまう。それが異世界だ」

 ・・・・・・・なんか複雑だ。でも、それは要するにパラレルワールドだ。

「しかし、そんな異世界での運命を全く変わらず、偶然的にも異世界同士でありながら同じ人物がいた。見た目も血縁も全く同じ。それはもう奇跡だ」

「・・・・・・・あの」

 手をあげる。

「どうした?」

「もっと分かりやすく頼む」

「ばか?」

 このバカは心地よくない。いい訳がない。

「要するに異世界同士では全く同じ人物は生まれないということだ。これは絶対だ。だが、現にいま存在する」

「もしかして、美嶋が結界に入れたのは!」

 俺もようやくわかった。美嶋がなんであのショッピングセンターに入れたのか。

「あの結界の対象はアゲハ、ウルフ、国分教太そして美嶋秋奈だ」

 アゲハはアキを対象にしたつもりだった。でも、容姿も髪の色以外はまったく同じ美嶋もその結界の対象になってしまった。

「本当に偶然だ。全く同じ人物がいて、それも出会ってしまうとはね」

 そうか。ウルフも最初は美嶋のことをアキだと思った。それでアキを見たときにキョトンとしていたのか。納得がいく。

 でも、疑問はまだ残る。

「その美嶋はなんで生きてるんだ?俺の前で殺されたはずだぞ?」

「・・・・・・・生き返ったんだ」

「は?」

「生命転生術を使ったんだ」

 訊いたことがある単語だ。

「この生命転生魔術は」

「死人に術者の寿命を半分与えていきからせることが出来る魔術」

「なんだ知ってるのか?」

「副作用もあって術者の魔力もその死人に半分流れる」

「よく知ってるな」

「アキが前にも使ったことがあるって言ってた」

 それが原因でウルフとアゲハ相手にこんなに苦労した。でも、アキはそれを使ったことに後悔はないと言っていた。

「その生命転生魔術をアキは美嶋に使ったのか?」

「ああ、俺たちが駆け付けたときは君よりもむしろ彼女の方が気掛かりだった。あの魔術は体に大きな傷跡をできる。術者と対象にした死体をつなぐための管だ。それを体に刺す。かなりの痛みを伴う。すでに魔力が限界値に達している時点でそれを使うことは命がけだ」

 風上の拳に力がこもる。これで確証した。こいつはアキの仲間だ。アキのことをすごく思っている。

「もう、二度と使わせないと約束したのに。もう、彼女の前では死体は見させないと俺は約束したのに・・・・・・・」

「そうなのか・・・・・・・」

 やっぱり俺は何も守れていなかった。アキが生命転生に走ったのは俺のせいだ。俺がそうあおった。ぼんやりしていてよく覚えてないが俺はアキに美嶋を生き返らせるように言った。直接言っていない。でも、言ったに等しい。

「生命転生は俺だけで十分なのに」

「・・・・・・・俺だけってもしかして」

「前にアキナが転生魔術を使ったのは俺だ」

 俺は硬直する。ただ、なんて声を掛ければいいのか分からない。ただ黙っていた。

「俺は当初はアキナのいる魔術組織には加担していなかった。だが、再び与えてもらった命を彼女ために使う。俺はそのためにこの組織にいる。そこでだ」

「あ・・・・・・ああ」

「国分教太。君は俺たちの組織に加入するんだ」

「え?」

 それはアキたちと同じ魔術師たちと混ざれということか?

「君はもう引き返せないところまで来てしまっている。最強の力を完全ではないがものにしている。これは異常事態だ。他の魔術組織も君を狙ってやってくる。今のアキナには君を守る力は残されていない。だから、逆に守るんだ」

 俺は何も言えなかった。そんなこと分かっている。アキを守らないといけないくらい。

 この風上と同じだ。俺もアキの命を削ってもらって人を助けてもらった。もう、アキにあんなことをさせてはならない。覚悟を決めるしかない。

「約束を二ついいか?」

「聞こう」

「まず、こっちの美嶋秋奈には魔術に全く関係ない。今後一切関わらせないことを約束してくれ。あんたみたいに美嶋をさせたくない」

 もう、美嶋のあんな恐怖に支配された顔を見たくない。美嶋はただ俺の横で笑っていればいい。

「分かった」

「最後に」

 今度は風上の方を見てしっかりとした口調で言う。

「俺を強くしてくれ」

 俺はとんでもない運命に飛び込んだ。引き返せるところは随所にあった。でも、俺は引き返さなかった。たったふたりの女の子を守りたくて。俺はとてつもない覚悟を受け入れた。それはどこにも文句の言いようのない覚悟の日だった。

一部はこれにて終了です

二部目を只今作成中です。あげれるのはいつになるか分かりません。

でも、楽しみにしていてください。

別に楽しみにしてない方々は感想に「別に楽しみしてねーよ!」とコメントしてください。

ここまで読んでくださってありがとうございます!m(_ _)m


9月15日にここまでの誤字脱字の見直し完了しました。

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