運命④
死んだのか?
俺は死んだのか?
全身に走る痛み。骨にひびく鈍痛。傷による激痛。それも少しずつ和らいでいく。頭を強く打っているせいかもしれない。ボーっとする。俺が見たのはなんだ?美嶋だったものが真っ黒な灰になっていた。力を手に入れてもたったひとりの孤独な女の子を助けることもできなかった。神に近い力を手に入れても及ばないこの悔しさにいら立ちを隠せない。無に等しい俺は何か才能がほしかった。でも、その才能をうまく使えないとこんなにイライラするのを知った。才能を持つことが幸福とは限らないことを俺は初めて知った。
いくら力が強くてもウルフは俺を真剣に相手をしていない。この力を目の前にしてもウルフは全く動じていなかった。冷静だった。俺にはこの力を使いこなす才能がないのか?無だから・・・・・・・・・・。
その時だ。
「遺言いいですか?」
アキの声だった。
遺言ってなんだ?
「彼を殺さないでください」
彼。つまり、俺のことだ。なんだよその言い方はまるで俺だけ助けてほしいと言っているみたいじゃないか。何を言っているんだ。俺はアキを守りたくてこの力を使っているんだ。そのアキが死んだら意味がない。すべてが無駄になる!
『そう思うなら立てよ』
言われなくても立つよ!
感覚のない手足を無理やり動かして立ち上がろうとする。アキの治癒魔術はとっくに切れている。俺にけがを治す手段はない。それでも俺は立つ。
「さて、死ねよ」
そのウルフの声が聞こえた瞬間、俺は叫ぶ。
「待てよ!」
炎の陽炎のせいなのか俺の目がかすんでいるだけなのか分からない。ウルフの姿がしっかりと見えない。でも、アキが杖を握っている。もう魔術が使えるだけの魔力は残っていないのに。俺ならまだ戦える。
「なんだよ。死にぞこないが」
ウルフがめんどくさそうに言う。時間を稼げば、援軍が・・・・・・・・。
「教太さん」
アキが俺の名を呼ぶ。
「・・・・・・大丈夫です」
なんだよ?なんの大丈夫だよ?俺だけが大丈夫なのか?嫌だよ。アキも美嶋みたいになることなんて嫌だぞ。
「そこで大人しくしてろよ」
ウルフはアキの方を見る。俺のことは無視のようだ。もう、攻撃できないと思っているのだろう。だったら油断している今がチャンスじゃないのか?動けよ。俺の体!
「行くぞ!魔女!」
ウルフは床を蹴ってアキに向かって炎の灯る鉄パイプで殴りにかかる。アキは一歩も動かないでただのその攻撃を正面で受けた。爆炎が上がり熱を帯びた爆風が俺を襲う。立ち上がった俺はその場にひざから崩れる。近くの瓦礫に掴んで倒れ込むことはなかった。
爆炎の起きたほうを見ると鉄パイプを振り下ろしたウルフが立っていた。やりきった顔をしていたが、ウルフはすぐに異変に気付いた。
「・・・・・・・手応えがない?」
どういうことだ?
俺から見てもアキが当たらなかったはずがない。
「自然の炎!ナチュラル・フレア!」
ウルフの起こした炎の向こう側から先が槍のように尖った炎がウルフ向かって伸びてきた。そして、炎の中から杖でウルフに攻撃するアキが出てきた。アキは生きていた。
ウルフはとっさに鉄パイプで杖の軌道を変える。杖はウルフの顔の横ぎりぎりを通る。交わされた。だが、アキの杖の先の炎が爆発してウルフの顔面を襲う。
「あああああああああああ!」
ウルフは顔を押さえてその場でもがく。
アキは苦しそう呼吸をしていた。顔色も悪い。かなり無理をしているのが分かった。
でも、なんで。
疑問が多く浮かぶ。なんでウルフの攻撃をあんな至近距離で交わした?あんな炎を起こす魔力は一体どこにあったんだ?
俺の代わりにウルフが聞いた。
「どういうことだ?なんで攻撃が外れた!確かに当たったはずだぞ!」
するとアキは答える。
「陽炎って知ってますか?火属性の魔術を使うなら知ってますよね?」
「火属性の中で最も簡単に少ない魔力で発動できる魔術だ」
「そうですよ。熱による光の屈折で相手の距離感覚を狂わせる。と言っても術者と相手が動かないことが大前提の本来なら戦場では需要生は低いんですよね。発動していることがすぐにばれますし」
使用する魔力の少ない魔術を使ったのか。
「この炎が密集する地帯では発動してもばれません。それにウルフの使う火魔術は見栄えは強力ですが、近接用は自分の被害を抑えるために威力を小さくしています。それでもし陽炎で攻撃が外れても爆風で倒れない自信がありました」
自信。アキには合って俺にはないものだ。
「そして、私が使ったナチュラル・フレアは陽炎と同じ消費する魔力の小さい火魔術です。周囲の火を糧にして攻撃する魔術です。通常なら大量の火がないと威力は大したことないんでけど、誰かさんのおかげで火はたくさんあるので」
アキは笑顔で話した。
これが魔女の実力。力はなくとも自信と知識で相手を圧倒する。本来ならこの自信と知識に力もある。アキが魔女と呼ばれるのも分かる気がする。彼女には敵わない。
ウルフは右目を押さえながら熱で先端が溶け落ちたパイプを握る。
「だが、所詮低能な魔術。その程度で俺を倒せるとでも思ったか?」
「思いましたよ。いくら低能で使い道がない無能さんでも利用価値はあると私は思ってます」
無って俺のことも言っているのか?
無に等しい俺にも利用価値はあるのか?
「私は魔女ですよ。どんな魔術でも使う。上級だろうが下級だろうがその場に応じて使いこなす。それがあなたたちが知る魔女じゃないんですか?」
もう、アキには敵わない。いくら力が半減されているとはいえ、知識で圧倒している。すごい・・・・・・・・。
「ハハハ。・・・・・・・・・・・アハハハハ!」
突然ウルフが高々と笑い出した。
「何がおもしろいんですか?」
「確かに魔女。お前の状況に応じた魔術の使い分けには頭が上がらない。・・・・・でもよ」
ウルフが立ち上がった。押さえていた手を離した。アキの顔が青ざめる。俺もその顔を見て吐き気に襲われる。
ウルフの顔右半分の皮が焼け落ちて筋肉がむき出しになっている。血が絶えず流れ続ける。
「やはり甘くなったな」
ウルフが床を蹴りアキに迫る。魔術は使っていない。鉄パイプでアキの横腹を狙う。アキは杖でその攻撃防ぐ。だが、がら空きになった反対側の脇腹をウルフに蹴り飛ばされる。アキは床に叩きつけられて動かなくなった。
ウルフは倒れたアキに近づいて前髪を鷲掴み顔の様子を窺う。
「きれいな顔してるな。でも、魔女ってのはもっと顔を見て誰もが怯えるような顔でないといけないよな?そうだ。俺みたいに顔を焼いてやるよ。顔の作りをぐちゃぐちゃにして魔女っぽくしてやるよ。もう、女の顔としては生きていけないようにしてやるよ」
その笑いは悪魔そのものだった。アキはもう抵抗する力は使い果たしてしまったのか、震えて大量の涙が溢れる。
動かないとアキが・・・・・・・アキが・・・・・・・・。
動けよ!なんで動かないんだよ!早く・・・・・・早く・・・・・・動いてくれよ。
『見てられねーよ』
目の前にゴミクズが見えた。でも、白い無の部屋じゃない。炎で包まれるショッピングセンターの中だ。
「なんで?」
『うるせー。見てられないんだよ。みっともないお前もあいつも・・・・・・』
ゴミクズはアキの方を見る。アキやウルフには見えていないのか?
『少し体を貸せ』
「はぁ?」
『俺がやる』
その瞬間、目の前が真っ暗になった。まるで意識が奥底に落とされたようなそんな感触だ。




