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誰も知らない神の法則  作者: 駿河留守
覚悟の日
24/163

運命③

 あの女の子には見覚えがあった。気付いたら暗い部屋の布団の中で寝かされていた。そこで教太さんの膝の上で気持ちよさそうに寝ていた女の子だ。教太さんの彼女さんだろうか?関係は知らない。でも、その女の子がなんでこんなところにいるのか。それが不思議で仕方なかった。ここはアゲハの結界で特定の人物しか入れない状態になっている。なのになんでいるのか分からない。炎の向こうで今にも倒れそうな足取りで手を伸ばして助けを求めている。

「逃げろ!美嶋!」

 え?・・・・・・・・・私?

 教太さんが叫ぶとあの子は振り返りウルフを見ると恐怖できれいな顔が涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 ウルフは火魔術をその子に向かって攻撃する。あの至近距離の攻撃は魔女だったころの私でも防げない。助けることはできない。

 建物を破壊するような大きな爆炎がウルフにより発生する。距離があった私たちの方にも爆風が襲う。炎の高温の熱を含んだ爆風に私たちに迫る。教太さんだけでも守ろうと教太さんを覆いかぶさるように抱きしめる。だけど、爆風は強く吹き飛ばされる。魔術の技術はあっても筋力等は遥かに劣る私は教太さんを離してしまった。

 体が床に叩きつけられる。私にはもう物理結界も治癒魔術もない。全身に走る痛みが私の行動を不能にする。

「大丈夫か?」

 教太さんが私に近寄ってゆっくりと体を起してくれた。頭がボーっとする。全身に力が入らない。魔力が尽きかけている。そんなことより。

「それよりさっき人いましたよね」

 私のお言葉を聞いた教太さんはすぐさまウルフとあの子がいたほうを見る。火の手が一番強いところだ。そこに向かって教太さんは叫ぶ。

「美嶋!」

 あの女の子の名前は美嶋というらしい。偶然なのだろうか。もし、そうだったらあの子が死んじゃった原因は・・・・・。

「美嶋!」

「ちょっと!教太さん!」

 もう、あの攻撃で生きている望みはゼロ。行ってもつらい現実を目の当たりにするだけ。だから、行っちゃだめですよ。私が教太さんの腕を掴んでも教太さんはそれを振り払って躊躇することなく火の中に入って行ってしまった。

 私はよろよろと立ち上がる。火が強すぎて空気が薄く。苦しくなってきた。

 教太さんが入っていた炎の手の向こうに影を見えた。ひとつは教太さん。もうひとつは。

「美嶋!」

「ああ?」

 教太さんの呼んだ人は違う人物が返事をする。それはウルフ。顔には返り血がべっとりとついていて狩りを終えたばかりのオオカミのようだった。

 火の海の中に立つその様に私自身も恐怖を覚えた。魔女をやっていた頃は怖いものなんてなかった。実際にさっきまでウルフなんて怖くなかった。でも、怖くて足が震えた。

 逃げないと・・・・・・・・。

「教太さ!」

 教太さんを呼ぼうと声が途中で詰まる。私が見たものはウルフが踏みつけている丸焦げになった何か。それは考える間もない。さっきの女の子だ。あんな寝顔のかわいくてこの件でまったくかかわりのないあの子しかない。

「あれ?魔女じゃん」

 ウルフが私を見てキョトンとした。

 もしかして・・・・・・・。

「そうか、道理で手ごたえないはずだ。ただの似てるだけだったのか」

 私と間違えて殺した?魔女である私と間違えた?

 私が殺した。私が・・・・・・・。私が・・・・・・・。

「結界の中にいたからてっきりそうかと思ったが・・・・・というかなんで中にいるんだ?まぁ、いっか」

 そう。なんであの子がこの中にいるのか?それはなんとなく予想がついた。この結界は術者が対象の人物の名前と顔が一致していれば入ることが出来る。だとしたら、あの子と私は・・・・・・・。

「結構好みだったんだけどな。あの恐怖で怯える顔を見ると鳥肌が立つ」

 教太さんの様子がおかしい。

「お?どうした?お怒りみたいだな?」

 教太さんから殺気を感じた。今までウルフにもアゲハにも出していなかった殺気をここに来て初めて感じた。

「その子の特徴は?」

「なんだって?」

「その子の特徴はと訊いてんだよ!」

 その瞬間、両手に教術が発動する。今までとは比べ物にならないほどの強力な物だった。発動と同時に突風が吹く。周辺の炎が揺れる。ウルフも少しひるむ。

「確かな茶髪で肩にかからない程度の髪の長さだな。スタイルが少し幼稚なところが惜しいところだったな。顔は美人だったのに」

 ウルフは完全にあの子を殺したことに何も感じていない。そのことに教太さんは怒っている。怒りに任せて力を使っていけない。その先に待つ運命はいいことなんて何もない。それは私が一番知っている。

「まぁ、いいか」

 でも、それに反してウルフがさらに挑発する。教太さんは怒りを抑えることが出来ず飛び掛かる。

「そこから離れろ!」

 教術によって発生した黒い靄を宿した拳でウルフに襲いかかる。ウルフは折れた刀で薙ぎ払おうとする。でも、靄の中に入った刀は表面からぼろぼろと崩れ出した。しかも、さっきよりも早く。そのことに気付いたウルフは腕を引いて教太さんの攻撃を体をひねって交わす。その足はまだあの子を踏みつけている。攻撃がほぼ空振りに終わった教太さんは勢いのせいで床に転ぶ。まだ、足の痛みで立つことも限界なはず。それでも教太さんは立つ。

「ウルフ!」

 教太さんは左手で右手首を掴む。それは無敵の槍を発動するときの構え。私も知っている構えだった。

「待って教太さん!」

 西洋の重装兵もっているようなランスの形をした黒い靄を従えて教太さんはウルフに向かって突っ込む。ウルフはようやくその場から離れる。その見え見えな攻撃はウルフに簡単によけられて背中ががら空きになった教太さんにウルフは思い切り蹴りこむ。

「教太さん!」

 近くの店の中に飛ばされる。その店は服屋だったらしく、衣類がクッションになって床への衝撃はなかったみたいだった。でも、ウルフの攻撃は響いたようだった。教太さんはしばらく立ち上がれそうにもなかった。

「さて、あいつは後もまわしにして」

 ウルフがこっちも見た。

「魔女を始末するか」

 私はもうまともな魔術を使う魔力はない。身体能力はウルフが圧倒的に高い。それにウルフは武器を失ったもののまだ魔術を使える魔力は残っているはず。そんな状況で戦えるのか不安だった。でも、外には援軍がいつでも突入できる準備が出来ているはず。時間を稼げばきっと大丈夫。それに教太さんをあの子みたいにしてはいけない。私のせいでもう人が死ぬのはごめんだった。

 ウルフは近くに落ちていた金属製のパイプを拾った。

「これはいいな」

 ウルフはポケットから十字架とカードを取り出す。鉄パイプにカードを乗せて十字架を打ち付ける。すると刀と同じようにパイプに炎が灯る。

「なかなかいいな」

 あれだけの魔力を残していることを今知る。逃げ切れかどうか心配だった。杖を構える。十字架と同じ効力を持つこの杖は多少の魔術攻撃でも耐えるようになっている。でも、杖がもっても私がもたないかもしれない。

「そろそろ、死んでくれよ」

 ウルフが一歩私に向かって歩み寄る。私は一歩下がってしまう。ウルフが次に踏み込もうとすると教太さんが再び両手に教術を発動した状態で突っ込んできた。ウルフは気付いていたのか教太さんの拳の攻撃を簡単に交わして炎が灯っているパイプで教太さんの腹部を殴る。小さな爆炎が発生する。教太さんのお腹部分の服が燃えてやけどのした肌が見えた。別のお店の中に飛ばされる。砂埃が上がる。

「教太さん!」

 死んだりしないよね?嫌よ?死ぬのは嫌よ。

「おい、魔女。次はお前だぞ」

 炎の帯びたパイプを私に向ける。考えれば突破口があるはず。教太さんもうまく力が伝承していない中、アゲハを倒した。神の法則であるあの教術を理解して使いこなした。私も魔女と呼ばれるだけの魔術の知識がある。

 自然と杖を握る手に力が入る。

 ウルフがパイプに宿している魔術は火属性の装備魔術。剣のような近接用の武器に装備させて敵に攻撃が当たると炎が強くなる。そして、術者の指示によって鞭のように炎が伸びてくる。簡易魔術で威力は大したことはない。剣の技術次第ではかなりの効果を発揮する。

 教太さんとの立ち回りを見て剣の腕はありそう。しかも、自信満々。だったら、これで行けるかもしれない。バックの中から魔術カードを取り出して床に落とす。カードに裏表はない。杖で打ち付ければいい。

 あとは時間を少し稼ぐしかない。

「ウルフ」

「なんだ?」

「遺言いいですか?」

「・・・・・おおいいぜ」

 少し驚いているようだった。それもそうだ。魔女と恐れられていた私が負けを宣言しているようなものだ。

「彼を殺さないでください」

「ああ、あいつか?そうだな。あいつが無抵抗で伝承した力を渡してくれるのなら殺さないでおこう。だが」

「だが?」

「お前は死んでもらう」

 ウルフの目線が今までのケロッとしたものから鋭いものになった。

「お前に殺された俺の仲間は何人いると思う?俺も数えたくない。その仲間のためにもお前を殺す。そのために俺はこの仕事を引き受けた。魔女が関わっているかもしれないと誰も受けようとしなかった仕事だ」

 引き受けた。仕事を?

 ウルフは傭兵。雇われた兵士。そういえば、ウルフとアゲハは一体誰の指令を受けて私たちを追いかけているの?

「その仕事の依頼主は?」

「さぁ?やばいこと知ると俺らも始末されるかもしれないから余計な詮索はしない。それが常識という奴だ」

 傭兵の立場は私もよく分からない。依頼主によっては簡単に裏切ったりする。戦場ではどういう扱いをすればいいのか戸惑う立場だ。だから、私が今まで殺してきた人たちが傭兵なのか分からない。

「さて、死ねよ」

 パイプにさらに大きな炎が灯る。

 来る。もう、準備は整っています。

「待てよ!」

 ウルフの背後から声が聞こえた。砂埃と炎の熱による陽炎で姿がぼやける。でも、立っていた。もう、立てないはずなのに。彼はただの普通の高校生のはずなのに彼は立っている。

「・・・・・・教太さん」

 もう、終わらせなければならない。教太さんのためにも。

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