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誰も知らない神の法則  作者: 駿河留守
覚悟の日
22/163

運命①

「きょ・・・・・・・さん。・・・・・・・・・・た・・・・・・ん。教・・・・・さん。教太さん!」

 声ははっきりと聞き取れると俺の視界が明るくなる。目の前には泣き顔のアキがいた。ぼろぼろと涙を流し続けるアキ。涙が俺の頬にも流れてくる。

 俺は完全に倒壊した噴水近くに寝かされていた。周りはまるで洪水でもあったかのように水浸しになっている。

「悪い。心配かけた」

 起き上ろうとしたが全身が痛い。やっぱりあの爆発はただでは俺もすまないようだ。

「アキは大丈夫か?」

 そういえば、顔色が少しよくなっている。

「私は大丈夫です。これを使ったので」

 取り出したのは手のひらサイズの小さなビン。

「魔力を少量ですが、補給する薬です。とりあえず、教太さんに治癒魔術をしたのでしばらくすれば動けるようになります」

「そうか。ありがとう」

 そう言って俺はアキの頭を撫でる。アキは少し照れくさそうに目線を俺から外す。あまり、人に言われたことがないかもしれない。ひたすら目の前の敵を倒すことだけを考えていた魔女だったのだから。

「そういえば、アゲハは?」

 俺がそう聞くと目元の涙をぬぐって少し真剣な眼差しになる。

「アゲハは生きています」

 アキの向く方向を見るために体を起す。まだ、体が痛むがアキの補助を受けながら起き上って体をひねり振り向くと縄で縛られたアゲハはそこにいた。気絶いている状態だ。全身に赤いやけどの跡があるが、見る限りあまり重症のように見えない。

「アゲハはとっさに背中の羽で防御しにいったみたいですね。でも、間に合わず、教太さんの攻撃を直撃した。彼女自身にも治癒魔術が施されていたみたいなので一命を取り留めたのだと思います」

「・・・・・・そうか」

 アキと同じ優秀な魔術師なんだな。心の中で敬礼でもしておこう。

「それよりもすごいです!」

 アキが顔を限界まで近づいてくる。

「あの技はあの人が使っていたわざとまったく一緒でしたよ!少し発動の仕方こそ違いましたが、それでも威力は全く変わりありません。すごいですよ!教太さん!」

「そ、そうか。ありがとう」

 威力も何も水素集めて火でも起こせば簡単に使えるものだ。あとは屋内限定だな。水素は空気よりも軽いから屋外だと集めることが出来ない。

「それにしてもおかしいですよね。なんで物理結界で防げたんでしょうね」

 やっぱり疑問に思っている。

「結界は?」

「一瞬で破れました。柱の裏に隠れていたので難を逃れました」

 そうか。危なかった。銃弾を十発当たっただけで破れる結界では少し心配だったがアキに怪我がなくてよかった。

 それにしてもアキはあの水素爆発が自然の現象ではなく魔術として見ている。これが世界観の違いというものだろう。

「なぁ。俺たち勝ったんだよな?」

 しばらく、実感がなかった。でも、アキは自信を持って答える。

「はい。最初は全くと言っていいほど勝ち目がなかったのに勝ったんですよ。しかも、死者が出ていない。最高の終わり方ですよ」

 そうか。最高の終わり方か・・・・・・。

 でも、まだ何か引っかかる。ゴミクズが言っていたようにこの後まだ何かが起きる。人生を左右する運命ってなんだ?もし、起こるとしたらなんだ?アゲハは完全に動けないようになっている。ウルフも気絶している。何も心配なことなんてない。

「アキ」

「はい?」

「外にはすぐに出れるか?」

「アゲハが完全に倒していないので結界はまだ発動したままなのでまだ外に出ることまできません。一部の結界はさっきの攻撃の衝撃で破壊されました。ですが、アゲハの魔力の総量も限界が近づいています。そのうち、生命活動に魔力を回ると思うので結界は解除されます。それでも早く出たのなら陣を直接壊しに行くしかないですね。ただ、これだけ暴れて陣が壊れていないということはかなり入り組んだところに隠してあるので見つけるのは容易じゃないですよ」

 そこにまともに動けない俺がいると確かにアゲハの魔力切れを待つしかないみたいだな。でも、本当にこれだけか?

「・・・・・・・・・・」

「あのなんでそんな難しそうな顔をしているんですか?」

「ああ・・・・・・いや。なんでもない」

 所詮、ゴミクズの言ったことだ。信憑性はない。

 ・・・・・・・いや、そうでもないぞ。あいつに言われて強く望んだら力が使えた。あいつのヒントで俺は神の法則を知ることが出来て力を思うように使うことが出来た。だとしたら本当にこの後何が起こるんだ。

「・・・・・・・・教太さん」

 アキに声を掛けられるが俺は聞こえない。

 アゲハは無理だ。あの爆発を完全に防いだとは考えられない。それに今は気絶して拘束されている。魔力の残量も少ない。残りで考えられるのが・・・・・・・・。

「アキ。肩を貸してくれないか?」

「え?」

「確認したいことがある」

 アキは俺の考えが読み取れないのか首をかしげながらも俺が立つのを手伝ってくれた。全身の痛みはだいぶ和らいだが、右足の痛みはまだまだ抜けない。骨までいっているのだろう。大きな怪我は治癒魔術で治せないらしい。そんな右足をかばいながら俺とアキは進む。

「あの急にどうしたんですか?」

 アキには伝えるべきだろう。だが、俺もアキも限界だ。

「俺の予想が正しければ、まだ終わってない」

「ど、どういうことですか?」

 あのゴミクズが言うことが正しければ・・・・・・・。

 すると突然、目の前で爆炎をあげて爆発が起きた。さっきウルフと戦っていた吹き抜け付近だ。

「なんで!」

 爆炎の中、人影が見えた。もう、誰だか分かる。こんな火を使うのはあいつしかいない。

「なんでウルフが!」

「逃げるぞ、アキ」

「え?」

「援軍が外にいるんだろ。アゲハの結界が解除され次第突入してくるだろ?」

「は、はい!そうです!」

 ならそれで逃げ続けるしかない。かっこ悪いが今はそうするしかない。ウルフも俺たちの攻撃でただでは済んでないはずだ。少なくとも銃はない。遠距離から攻撃されることはない。だが、足取りは明らかにこっちの方が悪い。どこかに身をひそめるしかない。

「行くぞ」

「は、はい!」

 爆炎が上がる方とは逆方向を向いて逃げるように歩き出す。だが、俺はすぐに足が止まった。その声が聞こえた瞬間。

「教太」

 聞き覚えのある女の子の声だ。その時、俺の脳裏に浮かんだのは茶髪に肩にちょうどかからない程度のセミロングのきれいな髪に大きな瞳を持つ美人さんだ。いつも不機嫌そうな顔をして俺だけに笑顔を見せてやたらとくっ付いてくるそいつ。

「美嶋?」

 そんな気がした。

 爆炎の中からゆらゆらと歩いてくる影がある。俺たちはウルフだと思った。

「教太さん!下がって!」

 アキは杖を構えて俺の前に立つ。

 だが、俺は下がらずにずっとその影を見ていた。その影はウルフではなかった。私服に着替えた美嶋だった。Tシャツにチェックのミニスカート。いつもの美嶋だった。服装はいつもの美嶋だった。でも、その白い服には赤い液体がべったりと付着している。そして、スカートの下からは血が滴り垂れている。足は引きずっていてもう気力だけで動いているように見えた。

「美嶋!」

 俺の声を訊いて美嶋の目には涙が溢れる。安心したような表情になった。そして、俺の手を取ろうと手を伸ばしてきた。

「教・・・・・・太。助けて」

 その瞬間、美嶋の背後にあるものが落ちてきた。そして、美嶋よりも一回り大きな影が現れた。俺は目を大きく開いてそれを確認した。青髪にオオカミのように殺気に満ちた目をした。ウルフだった。その手には俺が折った刀を持っていた。そして、その折れた刀に炎が灯る。豪炎というべき炎が灯った刀を大きく振りかぶる。その矛先は美嶋だった。

「逃げろ!美嶋!」

 俺の声を訊いて美嶋は振り返る。一体どんな風ウルフが見えたのだろう。その表情は恐怖でいっぱいいっぱいになっていた。

「・・・・・・・・助けて」

 その弱々しい声が聞こえたとともにウルフの刀が振り下ろされる。建物全体が大きく揺れるような大きな爆炎が起こり距離があった俺たちの方にも爆風が襲う。高温の熱を含んだ爆風に体が焼かれそうだった。それから俺を守るようにアキが覆いかぶさるように抱きしめる。だが、爆風は強く俺たちは吹き飛ばされてしまった。

 アキから離れて俺は床に強くたたきつけられる。しばらく動けなかったが、体が軽くなる。治癒魔術のおかげだろう。

 自力で立ち上がろうとする。周りは火の海になっていた。明るくて清潔感のあふれるショッピングセンターの面影はなく、当たりで火の手が回り火災報知が動いてスプリンクラーで火を消そうとするが消すことのできない。

「アキ?」

 アキは俺の後方に倒れていた。

「大丈夫か?」

 俺が近寄るとゆっくりと体を起す。顔色がまた悪くなってきた。やっぱり、魔力に限界は近いようだ。いくら少し回復しても俺のために使っている以上ぎりぎりを保っている。

「それよりさっき人いましたよね」

 そうだ!

「美嶋!」

 美嶋のいたところはいわば爆心地。火の手が最も強い場所だ。

「美嶋!」

「ちょっと!教太さん!」

 だが、俺は躊躇することなく突っ込んでいく。アキが止めにかかるが俺はそれを振り切って火の中に突っ込んでいく。服の裾が少し焦げたがそれでも俺は進む。そして、火の手の向こうに影を見えた。

「美嶋!」

「ああ?」

 返事をしたのはウルフだった。ウルフは顔には返り血がべっとりとついている。それ一体誰のものなのか?そして、俺はウルフが踏みつけているものを見ようとしても見ることが出来ない。見るべきものなのか?俺がただ現実から逃げたいだけかもしれない。だが、受け入れるしかない。だって、現実はもう戻せない。

 それは真っ黒の炭になってしまって一体何なのか分からない。分からない。分かりたくない。

 我慢できずに嘔吐する。その嘔吐は恐怖のせいなのか、それとももっと別の物なのか。

「教太さ!」

 アキもウルフの踏んでいるものを見て途中で言葉が詰まる。

「あれ?魔女じゃん」

 ウルフはキョトンとした。

「そうか、道理で手ごたえないはずだ。ただの似てるだけだったのか」

 人を殺したのにその軽い口調に怒りが湧き上がる。

 でも、俺も最初はアキに似ていると思った。

「結界の中にいたからてっきりそうかと思ったが・・・・・というかなんで中にいるんだ?まぁ、いっか」

 そうだ。どうやって入って来た。このショッピングセンターは俺とアキとウルフとアゲハしか入れない状態になっていたはずだ。

「結構好みだったんだけどな。あの恐怖で怯える顔を見ると鳥肌が立つ」

 両手に力がこもる。

「お?どうした?お怒りみたいだな?」

 ああ、そうだ。怒ってるよ。俺は。

「その子の特徴は?」

「なんだって?」

「その子の特徴はと訊いてんだよ!」

 その瞬間、両手にあの靄が現れる。その力が発動すると俺を中心に突風が吹く。周辺の炎が揺れるが消えることはない。ウルフも少しひるんだ。

「確かな茶髪で肩にかからない程度の髪の長さだな。スタイルが少し幼稚なところが惜しいところだったな。顔は美人だったのに」

 美嶋。そうだ。今、ウルフが踏みつけているものは美嶋だ。さっき俺に助けを求めていた美嶋だ。血を流して体を引きずりながら俺に助けを求めた。あいつには味方がいない。相談できる相手が俺しかいない。だから、俺に最後助けを求めた。

 その美嶋をウルフは殺した。全くこの件に関係のない美嶋を殺した。

「まぁ、いいか」

 そのどうでもいいような口調を聞いた瞬間、我慢してきた俺の理性が吹き飛んだ。

「そこから離れろ!」

 俺はウルフに飛び掛かる。

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