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誰も知らない神の法則  作者: 駿河留守
覚悟の日
21/163

無の空間③

 目の前が真っ白だ。ここはあの世だろうか?結構無理したからな。死んでもしまっていてもおかしくない。

 それにしても本当に真っ白だ。まるで無の空間みたいだ。・・・・・・つーか、見覚えがある。いや、絶対にあそこだろ。

 俺はベッドに寝かされていた。体を起して周囲を見渡す。体には痛みがない。それは心の中からだろう。根拠なしで確信する。ベッドの周りは応接間に向かい合うように置かれているソファー。そのソファーに挟まれるように置かれている机には花も飾られている。壁には絵画が飾られているが誰が描いたものか分からない。壁際にはティーセットの置かれた食器棚。近くの小さなテーブルにはコーヒーメーカも置いてある。

「・・・・・・ゴミクズはどこだ?」

「ここだ」

「わぁ!」

 ゴミクズはコーヒーカップを片手にベッドに座っていた。相変わらず、この空間において色がついているのはゴミクズと俺だけだ。コーヒーを飲んでいるつもりだろうが、カルピスにしか見えない。

 さて、最初に訊きたいことがあった。ここに来るとなんだか落ち着く。そして、言いたいことが鮮明に出てくる気がする。

「俺は死んだのか?」

「安心しろ。ちゃんと生きてる」

「・・・・・・・そうか」

「ついでにアゲハとかいう魔術師も生きてる」

 俺は勢いでゴミクズの胸ぐらを掴みかかる。

「どういうことだ!アゲハが生きてるって!アキは!アキはどうなった!」

 そのせいでゴミクズはコーヒーカップをベッドの上に落として真っ白なベッドの上に白い染みが出来た。

「お、落ち着け!あんな大技をほぼ直撃したのに生きているのが奇跡だ!戦意はないに等しい!というか気絶して動けないはずだ!」

 そ、そうなのか。

「危ないところだったな。もうすぐ、人を殺しちまうところだったな」

 俺はハッとする。必死で気にしていなかったけど、俺は人を殺そうとしていた。アゲハをこの手で・・・・・・・。

 そう考えると震えが止まらなくなってきた。

「大丈夫だ。お前は罪を重ねていない」

 ゴミクズは落ちたコーヒーカップを回収して食器棚の方にゆっくりと歩き出す。

「この戦闘は本当ならひとりくらい死者が出てもおかしくなかった。お前かアキか向こうの魔術師か」

 ゴミクズは食器棚から新しいコーヒーカップを取り出してコーヒーメーカからコーヒーを入れる。カルピスにしか見えない。

「向こうが本気じゃなかったことと、アキの魔力不足とお前の力の伝承が中途半端だったことが理由だろう。運が良かっただけだ」

 ゴミクズはソファーに深く腰を掛ける。足を組んでコーヒーを飲む。俺もベッドから降りてゴミクズの正面に座る。

 するとゴミクズはコーヒーカップをテーブルに置いた。

「さて、答え合わせだ」

「なんの?」

「この力についてだ。神の法則に等しいこの力をお前は理解してんだろ?そうじゃなかったら、あんな大技を使えない。いや、あれは技じゃないか。魔力によるものじゃないからな」

 やっぱりこいつは分かっているみたいだ。

 正しいかどうかは証明されたものだ。だから、迷いなく言える。

「この力は触れたものを消すものじゃない。破壊するものだ」

「どんなふうに?」

「物体を原子か分子レベルまで破壊する。それも無条件でだ。アゲハを吹き飛ばした爆発もただの自然現象にすぎない」

「どんな自然現象だ?」

「水素爆発」

 ゴミクズは薄く笑う。何がおもしろいのか分からないが俺は続ける。

「アゲハの水の檻の中に閉じ込められて水を消した時におかしいと思った。もし、この力が消すだけなら水の檻が両手を中心に縮むはずだ。だが、中に空気が発生した。しかも、その空気で呼吸が出来た。つまり、酸素が混ざっていたことになる。だから、俺はその時点で水の分子を破壊したんだと思った。そして、水分子は酸素の他に水素でできてる。水素は酸素と反応すると爆発的反応する。それを使ってアゲハに攻撃した」

 それでも倒せる自信がなかった。だから、あの天窓に大量の水素を集めた。攻撃の軌道かえずに水の槍を正面で受けていたのは水素を増やすためだ。水素は最も軽い気体で必ず上に行く。火災報知機が正常に動いていたあのショッピングセンターなら煙は自然と地番高い天窓のところに集まる。さらにさっきの状況はアゲハの作った結界によって空気すらも外に出れない状況だった。アキの作った煙幕が外に漏れていないところを見て確信した。そして、水素爆発から自分の身を守る必要があった。だから、最後は噴水の上に立った。水の中なら大丈夫だと思ったからだ。最後に水素爆発を起こすためには熱が必要だった。だから、アキに頼んでオカマから奪ったライターを俺の掛け声と共に投げ込んでもらった。これが一連の流れだ。

 このことをゴミクズに話す。

「なるほど。で、神の法則とはどんなものか分かったか?」

「ああ」

 自信を持って言える。それは俺の住む世界では当たり前に使われていることだ。

「神の法則は化学だ。俺が魔術を知らないようにアキたちは化学を知らない。魔術師たちは化学によって起こる当たり前なことを詳しく知らない。すべて、魔力のせいだと思っている。これが神の法則だ」

「・・・・・・・・・・正解だ」

 ゴミクズは安心したかのようにコーヒーを飲む。

「ただし少し違う。確かにアキは化学を知らないかもしれない。だが、現に魔力を使う者で化学を知っている奴が目の前にいるだろ?」

 確かにそうだ。こいつはおそらく知っている。もしかして、本当に神なのか?いや、こんなゴミクズが神をやっているような世界嫌だな。

「俺の世界では別に化学が存在しないわけじゃない」

「そうなのか?」

「主流になっていないだけでひっそりと存在する。俺の世界とお前の世界は途中まで同じ時間だったんだ。化学があってもおかしくない」

「ちょっと待て。途中まで同じとはどういうことだ?」

「パラレルワールド。訊いたことないか?」

 ゲームやSFの世界でならよく出てくる単語。簡単に行ってしまえば異世界のことだ。

「お前の世界と俺の世界では歴史は途中までいっしょだった。ひとつの発見で二つに分かれた」

「ひとつの発見?」

「魔石の発見」

 アキが言っていた魔術の生誕の大きな原因になったものだ。

「お前の世界ではその魔石が見つからなかった。だから代わりに機械が発明された」

 アキがチラッと言っていた。革命がなんとか。

「ちょっと待てよ。そっちの世界に化学があるならこっちの世界にも魔術があるのか?」

「たぶんあると思うぞ」

 マジかよ。

「だがそれは誰も知らない。俺の世界で化学を知らないようにお前の世界でも魔術は神の法則だ。だが」

 ゴミクズはコーヒーカップを机の上において立ち上がり机の上りしゃがんで俺の顔を覗き込む。

 そして、俺の額に向かって指差す。

「お前は知った。誰も知らない神の法則を。俺と同じだ」

 ゴミクズは俺の隣に座る。

「今の俺とお前は一心同体だ。お前の感じる恐怖は俺が緩和してる。お前はこれで自分の意識でお前は戦えるはずだ」

「一心同体・・・・・・。女の子がよかった」

「それは俺だって同じだ。アキとがよかったよ」

 だけど、アキは魔術師だから合わなかった。

「さて、そろそろ戻れ。アキが心配してる」

「戻れって、入り方も分からないのに」

「お前の意識で入ってくる必要はない。必要になったら俺が呼ぶ」

 なんとも理不尽だ。

「最後に訊いていいか?」

「おお」

 俺は立ち上がりゴミクズを見下す。さっきから上からばかりだったので見下げてやった。ゴミクズは少し気分を損ねたのかコーヒーカップのカルピスを飲む。

「お前はなんで化学を知っている」

 コーヒーカップを持つ手が止まった。

 神の法則を簡単に分かってしまったらそれは神の法則にならない。だが、こいつは知っている。魔術が常識の世界で化学を知っている。それはなんでだ?

白い空間で音もない無の時間が続く。

「それはな・・・・・・・・・・」

 コーヒーカップの中身を飲みきって机に置いて立ち上がる。

「俺は神だからだ」

「・・・・・・・・嘘つけ」

 これは冗談ではない。本当に嘘をついているように見えたからだ。なんか違和感のある薄い笑顔でそんなことを言われても俺は信じない。

「本当のことを言え。お前はなんで神の法則を知っている?」

 ゴミクズは一旦下を見て俺から表情を隠す。そして、次に顔をあげると俺の狩人のような鋭い目でにらみつける。少しひるむが俺は睨み返す。しばらくにらみ合いが続く。

 するとゴミクズが目線を外してため息をつく。

「やっぱりお前でよかった」

「どういう意味だ?」

「・・・・・・お前は強い。そもそも、こんな無の心を持っている奴だからただ者じゃないとは思っていたが」

「いいから言えよ」

「言えないね」

「おおおい!」

 もったいぶっといてなんだよそれは!

「いずれ分かるし、そのうち教えてやるよ」

「今教えろ。さもないとゴミクズから産業廃棄物って名前するぞ」

「勝手にしろ」

 投げやりになった。

「それにお前はこれから人生を左右する運命が待ってる。俺のことなんて気にしてる場合じゃない」

「人生を左右する運命ってなんだよ、産業廃棄物」

「すまん。それはやめてください」

 本気で嫌みたいだったようだ。さすがにかわいそうになったのでこれからはゴミクズと呼ぼう。

「つーか、なんで分かるの?」

「言っただろ。俺はお前の運命が分かるって」

 そういえば、ここに最初に来たときに言っていた。

「これから起こることは俺でもお前を抑えることが出来ないかもしれない」

「どういうことだ?」

「次に起こることは恐怖は俺でも抑えられない。もし、無理なら俺の出番だ」

「出番?」

「まぁ、いいから戻れ。これ以上女を泣かすな」

 アキが泣いているのか。それはあんな爆発が起きて俺が無事じゃないかもしれないと思っているだろう。こいつの言うとおりにしよう。アゲハも本当に生きているか気になるところだし。

 出るときはひとつだけあるドアから出れるはずだ。あった。

「気をつけろ」

「何を?」

 しばらく、黙ってからゴミクズは言う。

「もし、お前に強い意志があるなら逆に俺を抑え込め。そうすれば、俺も素直に引く」

 さっきから何を言っているのかさっぱりだ。

「いいから行け」

「分かったよ」

 俺はドアを開けて部屋を出る。すると今度は崖ではなかった。だが、一歩外に出ると周囲がさらに真っ白になっていく。俺の体もドアの向こうからいているゴミクズも白くなって最終的には消えてしまった。体がふわふわして漂っているようだ。すると声が聞こえた。

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