日常①
俺はこの世界で無に等しい。そんな俺を必要とする人物はいるのだろうか?
この地球上には何十億人という人が生きている。そんな中に生きるちっぽけな俺は本当に必要なのかと考えさせられる。
「おい、教太?」
「何だ?」
ブレザーのボタンをすべて外して髪の毛をスーパーサ○ヤ人みたいにツンツンヘアーの不良が俺に話しかけてきた。そいつの片手には銃を持っている。と言ってもおもちゃだ。今、俺はこいつとゲームセンターにいてシューティングゲームをしている。協力して攻略していくタイプのものだ。ちょっとしたバグがあってそれがすごく面白いゲームだ。
「何ボーっとしてんだ?」
「眠くなってきた」
「俺との決着がついとらん!」
不良少年Aが銃をゲームの画面に向かって構える。
俺はそいつより早く銃を画面の向こうに撃つと不良少年Aの画面がコンティニュー画面になった。
「何!!」
「やっぱりお前と俺じゃあ相手にならないな」
「くそー!」
不良少年Aは財布を取り出してコインを入れる。
このシューティングゲームは迫りくるゾンビをひたすら撃ち続けるゲームなのだが隠れる場所を自分で変えることが出来る。角度によっては味方の隠れているところにも銃弾が飛んでいく。その銃に当たるとダメージが入ってHPがゼロになるとゲームオーバーとなるそういうゲームだ。要するに迫りくるゾンビをけん制しつつ味方を撃ち殺すゲームに目的が変わってしまったゲームなのだ。
しかも、武器もハンドガン、マシンガン、ショットガン、バズーカ、火炎放射、グレネードと種類が豊富。いかに相手プレイヤーを殺すか素早い判断が必要だ。
運営側もそっちの方がおもしろそうだということでバグの修正は行っていない。
ちなみに不良少年Aとの戦績は13勝1敗と俺が勝ち越しいる。
「勝負だ!」
「バン。終了~」
俺の効果音と共にバズーカが不良少年Aの隠れていた木箱を直撃して少年Aのプレイヤーキャラクターが吹き飛んだ。
俺はあくびを懲らしめながら銃を元の場所においてゲームセンターの出口を目指す。
「教太!まだ、途中だぞ!」
そういうと不良少年Aも銃を元の場所に戻して俺の後に続いた。
「何で途中でやめたんだよ!」
「飽きたから」
「逃げる気か!」
「お前みたいな雑魚から逃げるわけないだろ」
「誰が雑魚だ!」
怒った顔は迫力ある。お~。怖い怖い。
不良少年Aは平均的な身長なので俺と変わらない。もしそれで背がもっと高かったら俺も怯えていたかもしれない。ビクビク。
「教太。お前さっきから俺のこと不良少年Aって呼んでないか?」
「呼んでるよ」
「ひでーよ!俺はお前のことちゃんと名前で呼んでるのによ!」
いちいちうるさい奴だ。不良のくせに細かい奴だ。
「なら呼んでやるよ。オカマ君」
「その呼び方をするな!」
この不良少年Aは岡真広という。広だけ取ると、ほらオカマだろ?
「なら、俺もお前のことをこう呼んでやるし!」
「どう呼ぶんだ?」
「・・・・・・・・・・教太君」
「はい、よくできました」
俺の名前は国分教太。どう組み替えてもオカマみたいな変な呼び方にできない。このオカマはバカなのだ。え?もう知ってる?よく御存じで。人類全員こいつが最強のバカ不良であることを知っているだろう。バカなのに不良とかもう救いようないだろ?
「教太。これからどうする?」
「学校行く」
「え?今から行くのかよ。めんどくさい」
「俺は一応卒業したからな」
「俺だって卒業したい!」
「出席も点数も足りないお前がどうやって卒業するんだ?」
「気合!」
それで卒業できるのなら苦労しない。
「で、お前は結局どうするんだ?」
「・・・・・・帰る!」
そういうとオカマは学校がある方とは逆の方角へ走り去っていった。
たぶん、しばらくこの辺にいるだろう。不良少年だが、友達思いでまめな奴なのだ。そして、寂しがり屋だ。
「さて、行くか」
まるで足枷でもついているかのように重い足取りで俺は学校に向かう。
俺は不良少年じゃない。学力もそこそこで運動もできる方だろう。だが、学校にはあまり行く気になれない。昼下がりの商店街は専業主婦やジジババばかりで俺のような学生はいない。俺は一人とぼとぼと歩く。
この広い世界で俺は必要とされているのだろうか?
学校の奴は俺のことが必要なのだろうか?
結論は一つだ。行く必要なんてないのだ。