無の空間②
「よお。また会ったな」
ゴミクズは白いソファーに腰かけていた。この空間はアキと初めて会った時、初めて魔術を目にした時にやって来た空間だ。でも、違うところがある。
「なんでソファーにテーブルがある普通の部屋になってんだ?」
色は相変わらず白色だが。色があるとしたら床はフローリングの色で壁もログハウスみたいな木製だろう。ソファーの色は元々白なのだろう。
「まぁ、座れよ」
ゴミクズが正面のソファーに指す。何か企んでいるようだが、何かこのソファーに仕掛けがあるような雰囲気ではなかった。ゴミクズは白いマグカップの中にあるカルピスみたいな白い液体を飲むのに集中していた。
座ったがフカフカですわり心地のいいただのソファーだった。
しばらく、沈黙が続く。ゴミクズは相変わらず、マグカップの飲み物に夢中だった。なので俺から切り出す。
「ここはどこだ?」
「変化のないつまらない質問だな」
殴りたいと思った。
「ここはお前が前に来た心の中だ」
「前に来たときはこんな部屋なかったぞ」
「俺が作った」
「人の心の中で何してやがる」
人に勝手に心をいじくられるのはいい気分じゃない。何か俺の抱えている傷まですべてが覗かれているようで気味が悪い。
「別にいいだろ。減るものじゃないし」
「心はすり減るものだ」
所詮、ゴミクズだ。脳みそもゴミクズだ。
「さて、お前は思っている疑問をひとつ解決してやろう」
「疑問?」
「恐怖のことだ」
こいつ本当に俺の心が見えているようだ。これだと俺がアゲハの格好を見て興奮したこと知ってるのか?マジで覗いているのか?
「お前に恐怖がないのは俺が怖く感じないからだ」
「どういう意味だよ」
「ここはお前の心だ。動揺はすぐに分かる。だが、その動揺を一気に振り払う大きな安心があるせいでお前の恐怖は打ち消された」
「・・・・・・つまりお前のせいか」
「そういうこと」
恐怖がなく冷静でいられるのはお前がここに住んでいるからか。ありがたいのかありがたくないのか。
「それより教太。俺に何か訊きたいことがあったんじゃないか?」
「聞きたいこと?」
たくさんありすぎて訳が分からない。全部、吐いてしまってもいいのか?
3日はくだらなくなるぞ。予想だけど。
「教太の知りたいことはなんでも知ってる。どんな女が好みなのかとか」
「一発殴っておく」
「お前の好みはアゲハみたいなお姉さんだろ」
「歯食いしばれ!!!」
そしてここから出て行け!
「でも、お前の聞きたいことはそんな小さいことじゃないはずだ。何が知りたい?お前は何が知りたい。自分の口で言ってみろ」
小さいことでもないと抵抗しようとしたが、急に雰囲気が変わり真面目そうな雰囲気になった。マグカップを机の上において足と腕で組んでゴミクズは俺の質問を待つ。
俺の聞きたいことはなんだ。たくさんあるぞ。まず、アキは本当に何もなのか?魔力ってなんだ?魔術ってものはなんだ?俺が襲われる理由はなんだ?ウルフとアゲハどこから来た?運命ってなんだ?心の中ってなんだ?ゴミクズは何者だ?
いや、こんなことじゃない。こんな細かいことじゃない。俺の知りたいことは、今一番俺が知りたいことは・・・・・・・。
「俺には力がある。チート級の魔術が俺に伝承されたと訊いた」
ゴミクズは黙って訊く。
「今、俺はとある女の子といっしょにとあるところに閉じ込められた。戦力的にも人数的にもあっちが上だ。勝ち目はほぼないに等しい」
だが、俺の予想が正しければ。
「俺も戦力になればきっと勝てる。少なくとも頭数では同等な立場になれる」
「だからなんだ?」
「だから・・・・・」
俺は思い出す。あの裏路地で起きたことだ。ウルフの銃から放たれた銃弾を俺は消した。鉄筋コンクリートの壁を抵抗もなく壊して相手の足を止めた。それがアキの話したチート級の魔術があると抵抗もなく受け入れてしまった理由なのかもしれない。だから・・・・・・。
「俺の中にあるその力の使い方を俺に教えてくれ!」
「それだよ。俺が待っていたのはそれだよ。国分教太」
ゴミクズが立ち上がった。そして、目の前の机に座り込んで俺に睨みつける。
「何?」
「教太。お前は迷ってるな?」
「なんで?」
「力が本物どうか、ウルフにかなうかどうか不安なんだろ?」
「・・・・・・・・・・」
答えられない。確かにあの時、ウルフの銃弾を防ぐことが出来た。でも、あの刀を俺は防ぐことが出来るのだろうか?そもそも、俺の力はなんだ?
「望め。そうすれば、お前が思うような力が使える」
「・・・・・・望む」
「俺は教太の覚悟を聞いてる。お前には自分の力への迷いはあるが、目の前の人を守ろうとすることに対しての迷いは決してないはずだ。だから、望め」
望み。アキを助ける望み。そういえば、前にこの空間に来た時もそうだった。アキを守りたいから覚悟を受け入れた。その望みが魔術かもしれないあれを使える要因になったのかもしれない。
「そうだ。少し力のヒントを与える」
「ヒント?」
「お前の力で物は消せない。見えないだけだ」
なぜ、ヒントだけなんだ。それはともかく。
「もっと、分かりやすく頼む」
「やだ」
殴りたい。
ゴミクズは爆笑しながらものと位置に戻る。
そういえば、ここから出入りする方法ってあるのか?
俺の心の中らしいから出入りは自由なような気がするのだが。
「じゃあ、そろそろ」
「ちょっと待て!」
なんかここから出されそうだったので立ち上がって引き留める。ここだけは聞いておきたい。
「アキが俺の力は伝承されたと訊いた。これはお前の力なのか?」
もし、そうならこいつは神でもゴミクズでもない。ただの死人だ。
しばらく、沈黙が続く。この白い空間は音もしない。本当に無の空間だ。それは俺自身だ。無で特徴がなくて必要とされている気がしない邪魔な存在だともっていた。だが、そんな俺の象徴している空間にゴミクズはいる。
「そうだな。元は俺の力だ」
「そうか・・・・・・・・」
つまり、
「俺って呪われてるの?」
「呪われてねーよ!」
ゴミクズが全力で否定する。
「じゃあ、お前はなんだよ?幽霊か?」
「神だ」
「そうか。ゴミクズか」
「力与えないぞ」
「冗談だって」
ごまかす。だけど、本当にこいつがアキの言うチート並みの力を持つ魔術師なのならなんで死んでしまってなぜ俺の中にいる。疑問ばかりが残る。
「難しいこと考えるな。そんなスカスカの脳みそで考えても時間の無駄だ」
「そうだな。所詮ゴミクズだな」
「ゴミから離れろ」
ともあれ、魔術の詳しいことはこいつからのちに詳しく訊くとしよう。今はアキと逃げることを真剣に考えよう。どんな風に魔術を使うのかをすでに説明されている。すでに俺の中に魔力があるとすれば、魔法陣と魔力を流しやすくする十字架あればいいんだったよな。
「さて、行くか。出口はどこだ?」
「そこの扉だ」
ログハウスの部屋たった一つの扉。何の変哲もない普通の扉だ。
「教太」
ゴミクズに呼び止められて振り返る。
「この力は未だにどんな法則性なのか誰も知らない。俺しか知らない。もし、お前がこの神の法則に等しいこの力の意味を理解できれば、お前の力は俺が使っていた時と同じようになれるはずだ」
何を言っているんだ?
法則性が誰も知らないとはどういうことだ?
つまり、望むだけではいけないということか?
「だけど、今のお前ならこの法則が分からなくても行けるだろう。貴様の望みは迷いがない時、強く太い」
ゴミクズが薄く笑った。強く望めばいいということか。難しいことは後回しにすればいいということか。
「いろいろ、ありがとうな。もう行くから」
「そうだ。最後に言うけどよ」
俺がドアノブに手を掛けて振り返る。ゴミクズがソファーから立ち上がって俺 の元にやってくる。
「俺は魔術師じゃねーから」
「・・・・・・・・・・・はい!?」
「じゃーなー」
ゴミクズが俺を蹴り飛ばす。扉が開き部屋の外に出る。そこはまるでそこのない崖のように落ちていく。俺の視界が少しずつ何もかもが真っ白になっていく。扉の向こうのゴミクズも白く消えていく。
「最後にとんでもないこと言ってんじゃねー!!」
そこで一旦意識が飛んだ。




