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誰も知らない神の法則  作者: 駿河留守
青色の炎
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青影③

 こんな大きな建物だと人がいなくなるとこの静けさに恐怖を覚える。もしかしたら、この土地に憑りついている幽霊が夜な夜なこの建物を徘徊していたり、考えるだけで鳥肌が止まらない。

「何震えてるんっすか?」

「うるさい」

「少し静かに。ばれたら元も子のないよ」

「分かってるわよ」

 今の私は雷恥と火輪と共に大型ショッピングモールの一角に隠れ潜んでいる。

 霧也に連絡を受けたからだ。

「なんでこんな時間まで職場にいないといけないのよ」

 早く帰って貯め録りしたドラマを見たい。こっちの生活にも慣れてきた。魔術の世界とは違い娯楽も多くて何より平和だ。霧也が気に入るのも分からなくもない。ただ、お金がないと何もできないという不便さもある。だからこうして就職してお金を稼ぎ生活をしているのだ。雷恥も火輪も同じだ。

「まぁまぁ」

 雷恥に言われても何も解決にはならない。

 でも、霧也の個人的頼みみたいだし。それに私たちがこちらの世界に派遣された仕事内容がようやくできるというわけだ。でも、

「あんたたち武器は?」

「持ってきてないっす」

「同じく」

「まぁ、今日突然言われたしね。取りに戻っていたら逃しちゃうしね」

 この建物のどこかに魔術師がいるかもしれないという情報を霧也から貰った。敵は人のいない時間帯を狙っているという。そうなると、ここが人がいなくなる時間と言うのは営業が終了した数時間後。つまり今と言うことだ。時間的に迎えそうだと言っていたが拒否した。霧也の力を借りずとも私たちでどうにかできると思っていた。でも、まさかこのふたり武器を携帯していないなんて思っていなかった。

 溜息が出る。

「じゃあ、探知掛けるっすよ」

 雷恥がこの建物の地図の乗ったパンフレットの上に簡易の探知魔術を描く。魔力を流す十字架を私の物を借りる。

 探知魔術は特に陣に小物を必要としない珍しい魔術である。だが、その発動条件は何かの地図の上であるということが前提である。型番等を円の周囲に記して雷恥が魔力を流すとぼんやり陣が青く光り陣が地図の中に埋まるように消える。そして、魔力がある位置を示す。3つ固まっているのは私たちのものだ。

「いないっすね」

「みたいですね」

 まだ、来ていないのだろうか?

「とにかく、見回るわよ」

 私が物陰から抜けた瞬間だ。

「氷華さん!反応があったっす!下っす!」

 雷恥がそういうと私はすかさず吹き抜けのから下の階を覗くとボンと青い光が見えた瞬間、オレンジ色の小さな炎が灯る。その炎の影で逃げる人影が見えた。火災報知の音が建物中に響く。

 どこから出てきたの?探知しても何も引っかからなかった。

 そんなことよりも逃がすわけにはいかない。

「あんたらは火を消しな!私は魔術師を追う!」

「氷華さん!ひとりで大丈夫ですか!」

「私を誰だと思ってるの?」

 すぐに走る。2階の吹き抜けから1階の魔術師の姿が見える。

「逃げ足速いわね」

 カードと十字架を取り出す。

「止まりなさい!」

 右手のひらでカードを持ち十字架を打ちつける。五芒星の陣の中心から氷の銛が出てくる。私は氷の銛を構えて発射する。銛は魔術師の走る方向の先に突き刺さり大きな結晶を作り進路を阻む。破壊し来ると思っていたが立ち止まり引き返す。

 好都合。エスカレータの手すりを滑るように1階降りて魔術師の前に立ちふさがる。

 全身を黒いマントで覆っていて体格も分からない。顔にもフードをかぶっていてどんな顔をした奴なのか分からない。

「逃がさないわよ」

「さすが機関出身者。あれほどの氷の壁で僕の逃げ口を防ぐなんてね」

「あなた誰なの?」

「教えるとでも思ったのかい?」

 魔術師はマント中で何かごそごそと手を動かしたその瞬間、背後に何か迫っていることに気付いた。

 体をひねらせて交わそうとしてけど気付いたのが遅かった。右腕が肩から吹き飛ばされる。宙を舞った私の右腕は床に叩きつけられる。

「なかなかの反応速度だね」

 私は右肩を押さえて痛みに耐える。痛みで立つことがままならずひざから崩れる。その痛みにこらえながら敵の使った魔術を分析する。

「・・・・・今のは熱カッターね」

 すると少し驚いたように魔術師は言う。

「さすがだね」

 熱カッターは火属性魔術でも中級レベルの魔術。目に見えない攻撃。火属性は主に熱を操る魔術だ。その一環で炎が起こるだけで実際は熱魔術と言ってもいい。その熱を一カ所に集めて高温にして物を焼切る。制御が難しいことからあまり好まれて使われないが、こういう急襲の攻撃には適している。

「魔武は持っていないようだね。機関出身者は魔武を中心とした魔術師だと訊いていたけど。それだと魔術が発動できないね」

 私はカードを床に落として十字架を打ち付けようとする。

「オッと!さえないよ」

 十字架を持つ左手を蹴りあげる。その勢いに負けて十字架を手放す。はるか遠くに飛ばされる。

「これで丸腰だね」

「何が目的?いったいどんな大型魔術を発動しようとしてるわけ?」

 訊きだす。

「何でもいいじゃないか。これから殺される君には関係ない。それよりも傷が痛そうだね。顔が引きずっているよ。今すぐ僕が・・・・・解放・・・・・」

 魔術師は何か気付いたようだ。さすがにもう騙せないか。

「なんで右腕を切り飛ばしたのに血が一滴も流れていない?」

「気付くのが遅い!」

 私は左手を切り飛ばされた右手に向けて掲げる。カタカタと小刻み動き出す右腕は私の左手に吸い込まれるように飛んでくる。

「熱カッター!」

 横切りで熱カッターを仕掛けてくる。私は床に伏せて交わす。

「まだまだ!」

 今度は縦に熱カッターで攻撃を仕掛けてくる。その時、私の右腕が私の元にやってくる。手と手を合わせるように左手で右手を掴む。私は熱カッターの攻撃を左足を軸にして回転するように交わす。熱カッターが私の背中ぎりぎりのところを通ったのが熱で分かった。その回転の勢いのままに私は攻撃を仕掛ける。切り離された右腕が氷になり形を変えていく。そして、魔術師が視界に入った時私の右腕は剣に変わる。私が大きく右足で前に踏み込むと武器の存在に気づいた魔術師は後退するがマントの一部を私が切り裂いた。魔術師は大きく一歩下がる。

「やはり魔武を持っていたか」

「魔武はどうしたと言われた時はビビったわよ」

 氷の剣。左氷刀ではない。これはただの氷の魔武に過ぎない。でも、特性は左氷刀に非常に似ている。それにもう一つおまけの能力を兼ね備えている。

「まさか右腕にして隠し持っていたとはね」

 私は右腕がない。ないとこちらの世界で仕事を探すのは困難だと霧也に言われた。そこで悪魔術じゃない多機能な右腕を探した。でも、見つからなかった。そこでかつて機関で魔武の製造をしていた職人の元を訪れて右腕の代わりになるような魔武はないかと頼んだら特注で作ってくれた。それがこれだ。

「結構高かったのよ」

 そいつは頼んだ優秀な魔武は作ってくれるけど値段がバカにならない。

「さて。どうする?」

 氷の魔武の刃を覆うように氷の刃が出来ていく。

 左氷刀のような太刀じゃない。普通の剣。でも、氷を纏えばいつも使っている左氷刀だ。

「氷だということは分かってる。相性としては僕の方が有利だ」

 魔術師は両手から炎の渦を纏う。確かに相性は悪いかもしれない。でも、私たち機関の魔術師たちは常に属性での不利な条件下で戦うことを想定して訓練を受けている。属性魔術に長けている相手にわざわざ不利な属性でかかってくるようなバカはどこにもいない。霧也の場合は雷属性の魔武を隠し持つことで対応している。私の場合は・・・・・・。

「行くわよ」

 剣を大きく横に振る。すると無数の氷の刃が出現。

「行け!」

 私の掛け声とともに氷の刃が一斉に魔術師を襲う。

「甘い!物量で勝てると思ったのか!」

 魔術師は氷の刃を炎で溶かし破壊する。

「まだまだ!」

 魔術師の周りをぐるぐるとまわりながら氷の刃を作り攻撃のタイミングを与えない。

 さすが、中級の魔術を使うだけあってなかなか崩れない。あいつの使っている火属性魔術もレベル的には高いものじゃない。でも、魔力の総量が多い、つまりランクがそれなりに高い魔術師と言うことか。

 こうしながら、まずは敵の情報を多く入手する。

 破壊し、溶かした氷から発する蒸気。その蒸気で当たりの視界が悪くなる。

「しつこい!」

 迫ってくる氷の刃を破壊していく。その氷の刃を破壊した瞬間だった。火災報知機が建物中に鳴り響いた。

「何!」

 そして、建物中に設置されたスプリンクラーから滝のように水が噴き出る。

「なんだ?」

「知らないでしょ?こちらの世界の建物火災を自動で消すシステムよ。魔術の世界にはないものね。私も最初は驚いたわよ。なんでも自動でやるんだもの。魔力で動いていないものが」

「でも、この程度で僕の炎が消えるとでも思ったのかい?」

「思ってないわよ。中級クラスの魔術師だもの。この程度の水で火は消せない」

「なら、なぜ?」

「氷属性は水と土属性と相性がいいのは知ってるわよね」

「常識だ」

「なぜ、水属性が氷属性に弱いか知ってる?」

「それは水が凍らされて氷にされて逆に利用されるからだ」

 魔術師が少し足を動かしてぱちゃりと音がして足元を見る。スプリンクラーの水は止まっている。でも、もう十分だ。

「こ、これは!」

「ようこそ!私の距離に!」

 床一面水浸しになっている。

 水浸しにする私の利点はこれ。

 魔武を床に突き刺す。すると魔武を中心に床の水がすべて凍る。魔術師の足元も凍る。

「しまった!」

 これであいつは安定な足場を失った。

 私は魔武を引き抜いて床に向かって剣を叩きつけると。すると氷の結晶が床から生えていきそのまま術師に向かって襲い掛かる。足場が安定しない魔術師は炎を氷の結晶に向けることが出来ず、滑りながら攻撃を回避する。だが、止まることが出来ず通路に置いてあったベンチに掴んで止まる。

「隙だらけ!」

 氷の上を滑りながら剣を構えて魔術師の元に突っ込む。氷の魔術師である私には氷上の戦いは常に自分の戦場としてきた。相手は思うように動けないけど私は自由に動ける。これが私の不利な状況での戦い方だ。

「まだだ!」

 魔術師は自分の足元に向かって炎をぶつける。その衝撃で氷は剥がれて蒸気をあげて溶ける。滑っていた私の足元の氷も溶ける。

「これでどうだい?」

 それも計算済み。私がそんなことまで頭が回らないとでも思ったわけ?

 魔術師は蒸気で視界がない等しい状態だった。私の攻撃がどこから来るか分からず身構えるがここは不味いとすぐに蒸気の中から出てきた。

「どこだ!」

「後ろ」

「何!」

 私は魔術師の背後に回っていた。溶けたのは魔術師の周辺数メートル。まだ、外側は凍ったままだ。そして、魔術師は正面から滑って攻撃してきた私の姿を最後に見ている。そうなると回避するなら自然と後ろに下がる。そこまで滑って移動した。

 魔術師のおかげで氷の禿げたところに足をしっかり踏み込む剣を振り上げて攻撃を仕掛ける。おかげで早く強い斬撃をお見舞いできる。魔術師は両手の火を瞬間的に強くして床に衝撃を与えて自分の移動する軌道を変える。それでも私の剣の斬撃を食らう。背中から左肩にかけて斬れる。その感触は、

「浅い!」

 魔術師は私の横をすり抜けて転がる。転がった先はまだ凍っている場所。転がりながら滑り壁に当たり手を壁にいて立ち上がり炎の灯る両手を構える。今度はゆっくりと足者の氷を溶かす。表情から傷は浅くてもダメージは入っているみたいだ。片手しかない私の欠点。それは攻撃を加えた後の追撃が出来ないということ。今も斬られた瞬間隙が出来た。もともと、私の剣術の型は二刀流。どうしても癖で追撃をするために一撃目が浅く入ってしまう。

 それにあの魔術師はそれなりに戦闘経験を積んでいるようだ。

「あなた名前は?」

「言う必要あるように見える?」

「見えないわ。でも、優秀な魔術師のことは知りたいと思うのは自然よ」

「誰が優秀だって?」

 その魔術師の反論には怒りが含まれていた。優秀と言った瞬間、魔術師の表情は見れなかった。でも、雰囲気が一瞬で変わった。

「僕は優秀じゃない。間違えないでほしいね。すべては魔力の量、技術、ランク、レベル!そして、才能!すべてに左右される魔術。そんな世界で僕が受けてきた羞恥。すべては僕の才能の低さだ!」

 絶望している。1か月前の私のように霧也を魔女に奪われて嫉妬して絶望して悪魔に手を伸ばした自分を見ている気がした。

「あなたは一体何の魔術を発動しようとしているわけ?教えなさい!」

「嫌だね!僕は見返すんだ!才能に恵まれた魔術師を!教術師を!それが終わるまで僕は終わらない!終わるわけにはいかない!」

 魔術師は両手の炎を消す。

 まだ、周りの氷は完全に溶け切っていない。何をしているのか分からない。何か企んでいるのは分かった。剣を構えて警戒を強める。

「ここで使うしかないみたいだね。僕の計画を邪魔されないためだ。仕方ないことだよね?」

 よく見ると魔術師の顔色が悪く青白くなっていて汗の量もすごい。魔力切れが近い。レベルの高い中級魔術を使うことが出来る技量はある。だが、魔力の総量ランクが低いということか。能力があってもそれだけの能力を生かすことが出来ないということか。

 その辛そうな表情でも私に対する殺気は変わらない。逆に強くなる。

「食らえ!」

 魔術師がカードを十字架で打ち付けると手のひらサイズの小さな炎が灯り私に向かって投げつけてくる。でも、その炎を見た瞬間訳が分からなかった。その色は熱の色を象徴するようなオレンジ色ではない。その逆の冷たさ象徴するような青色だった。

 青い火の大きさは小さく今にも消えてしまいそうだ。

 この程度だったら氷属性の魔武でも風圧で消し飛ばすことが出来る。かなり大きな陣を作っているということは強力な魔術であることは間違いない。ここで逃がすわけにはいかない。

 剣で青い小さな炎を消し飛ばす。弱い炎は私に到達する前に剣に斬られて消える。

「今のは何よ?」

「そうかそうか。まだ、君たちが僕がどんな魔術の陣を作っているか気付いていないようだ」

「何を言っているの?」

 その時剣を持つ左手に私の使う魔術には感じられることのない熱を感じだ。慌てて見てみると剣の刃に青い炎が灯っていた。いや、違う。燃えていた。私の剣が。

「何よ!これ!」

 剣を振り回して消そうとしても消える気配がない。おかしい。氷属性の魔武だが剣の素材のほとんどは鉄だ。なんでその鉄がこうも簡単に燃えているのか分からない。

 振り回しても消えない。逆に炎はじっくりと剣全体に広がっていく。そして、初めの方に燃えていた剣先は青い炎によって燃えかすになっていく。

「くそ!」

 私は渋々剣を捨てる。これで私も丸腰になった。でも、魔術師の姿はどこにも見えなかった。すでに近くの出口のある方に走り込み角を曲がり見えなくなった。

「逃がしたか・・・・・」

「氷華さん!」

 雷恥と火輪がやって来た。

「火は?」

「消したっす。氷華さんは?」

「逃がしたわ。右手もやられた」

 目の前で燃え続ける剣をふたりも見る。

「これは何っすか?」

「私も訊きたいわよ。火輪。あなた火属性を使う魔術師でしょ。この炎は何?」

 すると火輪は燃える私の剣をじっくり見るように近寄りしゃがみ込む。

「見たことない炎です。でも、空気の量が多いと炎は青くなります」

 じゃあ、やっぱりただの火属性魔術なのだろうか?でも、あんた小さな炎でこの剣を丸々焼き尽くすようなことがはたしてできるのだろうか?

「おかしいです」

「何が?」

「なんでこの炎は他のところに引火しないのでしょうか?床に引火してもおかしくないのに、床は焦げてすらいないですよ?」

 一体どうなってるの?あいつは使うのは仕方がないと言っていた。これは普通の魔術じゃない。

「魔女に聞いてみるしかないようね」

 頼るのはあまり好まない。特に霧也のそばにいる女には。

 でも、私の知識では分からない。ここは知識量の多い魔女に聞いた方が手っ取り早い。

 剣を燃やす炎はその後、剣を消し積みになるまで燃え続けて消えた。

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