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誰も知らない神の法則  作者: 駿河留守
覚悟の日
11/163

日常⑥

 弁当3つに紙パックのジュースを二本購入して近くの公園に俺たちは向かった。現金は12円しかなかったが、スイカを持っていてよかったと安堵する。住宅地のど真ん中にある児童公園は無人である。この時間ともなるとよい子はみな家に帰っている。コンビニが近いくらいで特に何もないので暴走族のような怖い人たちもいない平和な公園。街灯の真下のベンチに腰掛ける。隣にその子も座る。

 袋の中から弁当を取り出す。

「それは私のですね」

「そうだな」

 たらこスパゲッティ。俺はたらこを食べたことがないので買うことに抵抗がある。こいつはそのことをしっかり分かってるのだろうか?

 俺は弁当を持っている手を引いて弁当を渡すのを止めた。

「あのそれ私のですよね?」

「ああ、そうだ。でも、まさかただで食べれると思ったのか?」

 そう。俺はこの子に訊きたいことが山のようにある。

「そうですよね。分かりました」

 おお、理解が早い。

「体で払えばいいんですね」

「いや、何言ってるの?」

 こんな児童公園のベンチで。

「大丈夫です。初めてですけど大丈夫です。いつかは失うものなんです!」

「だから、何言ってんだ!」

「そして、私はあなたを一生許さない」

「許さないなら抵抗しろ!」

「・・・・・・男の人相手に一人では無理です。でも、頑張ります」

 何でそこ目線を外す?

 一体何をがんばる?

 このままだと話はややこしくなりそうなので弁当を渡す。

「訊きたいことがあるだけだ。それに答えてくれるなら食べていい?」

「何が知りたいんですか?バストサイズ?」

「そっちの話から離れろ!」

「ウエストもですか?」

「いい加減にしろ」

 軽くその子の頭を叩く。何か収拾つかなくなってきたので。

「それで私に訊きたいことってなんですか?」

 口調からして上機嫌。弁当を開けて興奮している。何がすごいのかよく分からない。ただのスパゲッティだぞ。この子の行動すべてが分からない。意味が分からない。こんな認知が不安定な存在は初めてだ。普段ならそいつがどんな奴なのか大体分かる。それでそいつと話すか無視するかを決める。いい奴そうなら受け入れる。それ以外はスルー。絡んで来れば、その時の状況下でいい奴と判断できれば受け入れる。これがあのゴミクズが言っていた白い無地の心なのだろうか?

フォークで麺を絡めて頬張る。

「う~!」

 おいしいという意味だろう。たぶん。

 俺も自分の弁当に向き合う。から揚げをひとつ一口で食べてから聞く。

「そういえば、名前訊いてなかった」

「わ、私ですか?」

 口いっぱいに含んでいた麺を呑み込んでからしばらく考え込んでから答えた。

「ミスターアキとでも呼んでください」

「・・・・・・・・お前男なのか?」

 なら、ドン引きだ。二度と口を利かないことにする。

「・・・・・・・・訂正します。ミセスアキと呼んでください」

 分かったことその1。こいつはバカだ。

「それでアキはどこから来たんだ?」

「さっそく無視ですか・・・・・・・」

 だからどうした?

「それでどこから来たんだ?さっさと答えろ」

「・・・・・・・いや、言えないです」

「何でだよ?」

「一般の方を巻き込みたくないというか・・・・・これを知るといろいろと面倒事になったりとか・・・・・・とんでもない運命を背負うことになったりとか・・・・・・」

 弁当を食べて何かをごまかす。

 教えたくないのならそれでいい。正直、この子がどこから来たのかなんてどうでもいい。俺の知りたいことは少し別のことだ。

「そういえば、お前が俺に背負わせた運命って何?」

「運命?」

「ああ、何かそのバックからカード取り出して十字架を打ち付けたら魔法陣みたいなものが出て」

「ちょっと持ってて!」

 すごく慌てた様子で俺に食べかけの弁当を渡してバックの中をあさる。何をそんなに焦っているのかさっぱりだ。から揚げがひとつ余ってるな。食べるか?残念。両手がふさがっている。

「・・・・・・嘘。・・・・・・・使用済みになってる」

 顔を真っ青にしたアキはバックからあのカードを取り出した。冷汗もすごい。何をそんなに焦っているのだろうか?

「あなた!」

「は、はい!」

 急に俺に近づく。何かあったら間違ってキスしてしまいそうな距離だ。でも、この距離はどこかの誰かといっしょな気がする。

「名前は?」

「こ、国分教太です」

 なぜか敬語になってしまった。

「そう。教太さん。これを十字架に打ち込んだ時にその場にいた人とは別の人に会いませんでしたか?」

「別の人?」

 あの場にいたのは俺とアキとウルフとアゲハだ。

「ああ、何か気付いたら真っ白な部屋にそこに人がいた」

「その人の特徴はなんですか!」

 さらに迫るように追及してくる。だんだん、アキの顔も俺の顔の方に近づく。マジでこのままだと事故が起こる。気になるのは俺だけなのか?

「特徴は・・・・・」

 確か俺みたいに髪が短くて黒髪で細身で・・・・・・そうだ。

「ゴミクズだった」

「どんな特徴ですか!」

 いや、全世界があいつの特徴をゴミクズと言って納得するだろう。たぶん。

「その人の名前は聞いてないですか!」

 アキから預かっていた弁当を地面に落として俺はベンチから地面に落下する。そして、アキは馬乗りするかのように俺に跨って迫る。これだとなんの事情も知らない人が通ったら勘違いされる。早く答えないと。

 確か自分のことを神だとほざいていた。・・・・・・・そうだ。

「ゴミクズだった」

「どんな名前ですか!」

 そんな名前です。俺が勝手につけただけだろうけど。

「ちょっと待ってください」

 馬乗り状態から解放された俺は体を起して木の下でぶつぶつと何かをつぶやくアキを眺めた。

 いつの間にか俺の弁当も地面に散乱している。片づけないとカラスとか猫が寄ってきて大変だ。

「あの教太さん」

「なんだ?」

「あなたにいろいろと教えないといけないことがあります」

「いろいろなことは?」

 落ちた食料を大方袋に入れて再びベンチに座り、飲みかけのリンゴジュースを飲みきる。その隣にアキが座る。

「まず、何から話せばいいのでしょうね」

 悩んでいるようだ。なら、こっちから聞いてやろう。

「ウルフとアゲハは何者だ?」

「・・・・・あの人たちは私の持っているあるものを奪うために組織に雇われた傭兵だと思います」

「傭兵って・・・・・」

 まさかこんな平和で豊かな国である日本でそんな物騒な単語をリアルで聞くことになるとは・・・・・・。いやいや、待て待て。こいつの言っていることが 100%事実とは限らない。

「それでアキが持っていたある物って何だ?」

「これです」

 バックから取り出したのはさっきのカードだ。さっき使用済みとか言っていた。

「そのカードがどうした?」

「これは、あ~」

 手元が狂ったのかカードを落としてしまった。それで踏んづけてしまった。

「とても重要なものなのです」

「踏みつけたものを重要なものですって言って信用するか?」

「実はこれ自体にはもう価値は微塵もありません」

「どこが重要なものだ!」

 話がかみ合わないぞ。

「このカードの中にはすごく重要なものが仕舞ってありました」

「そんなペラペラなカードに?何を?」

「魔術です」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 中二病?

 うん、そうだな。それが一番手取り早い。こいつは重度の中二病なんだ。

「教太さんもすでに体験されていますよね?魔術?」

「・・・・・・・・そういえば」

 ウルフから撃たれた銃弾の爆発。結界のようなガラス。コンクリートの壁を抵抗もなく破壊した俺。・・・・・・・あれ?魔術だらけじゃね?

「そうですね。まず、魔術の話から始めましょう。最初に基礎中の基礎、魔術という概念からお話ししましょう」

「その前にいいか?」

「何ですか?」

「アキは魔術師とかなのか?」

「はい」

 即答!

「魔術というのは魔力という力によって魔力をいろいろな形に変える物です。そうですね。例えば、日常に必要な火を起こしたり、水不足なったら水を作ったり、利用方法は様々です」

 アキはバックの中からカードとキーホルダーサイズの十字架を取り出した。

「魔術を発動させるのに必要なのは魔方陣とこの十字架と術者本人の魔力です。魔力は目に見えず、通常の状態ではなんの効力も持ちません。そのために魔方陣というフィルターに魔力を流し込むことによって魔術が発動します。ですが、魔力は安易に流すことはできません。そこでこの十字架を使います。これは魔石と言われる石でできています。これは人の持つ魔力を好きなように流すことが出来る便利な道具です。・・・・・・・大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃないです」

 さっぱりなんですけど。要はそのカードと十字架と魔力というものさえあれば魔術が使えるわけだな。

「理解できるか!」

 飲みかけのリンゴジュースのパックを握りつぶす。

「私の世界では常識なんですよ。でも、さすがにいきなり信じろとは言いません。とりあえず、知っておいた方がいいです」

 信じるかは任させるということか。

「なら、何か見せてくれよ。その魔術というものを。今ここで」

「・・・・・・・分かりました」

 そういうとアキはバックの中から果物ナイフサイズのナイフを取り出した。

「・・・・・・・・はい?」

「大人しくしてください」

 ナイフをこっちに向けてきた。

「いやいやいやいやいやいや!ちょっと待て!」

「なんで?」

「それこっちのセリフ!なんでナイフをこっちに向ける!」

「斬り付けるためです」

「さらっと恐ろしいことを言うな!」

「大丈夫です。痛いのは最初だけです」

「それはどういう意味だ!体が冷たくなって意識がなくなって痛みがなくなるとかそういう意味か!」

「考えすぎですよ」

「ナイフを持ちながら笑顔で言うことでもないだろ!」

 距離を数メートルおく。アキの体格から見る限り全力で逃げれば逃げ切れそうだ。この距離をなるべく保とう。常に腰を低くして逃げれるようにする。

するとアキはため息をついた。

「分かりました。自分で斬り付けますよ」

 アキは自分でナイフを手首に近づける。

「早まるなー!」

 ナイフを持つアキの手を掴んで斬り付けを阻止する。

「もうなんですか!話が進まないですよ!」

「いや、そもそもなんで魔術が使えるか証明するためにナイフがいるの?そこよーく考えてみよう」

「回復魔術が一番身近で分かりやすいかなと思ったからです。でも、回復魔術は怪我してないと意味ないので怪我をさせようかと」

「それを最初に言え!」

 殺されると思ったじゃないか!

「でも、教太さんにいきなり斬りつけるのはよくないですよね?」

「当たり前だろ!」

「では、仕方ないですね」

 アキは右手の甲にナイフをあてる。顔が明らかに引きずっている。少し目が涙目になっている。怖いのかよ・・・・・・。

 目をつぶって傷をつけようとしている。見ていられない。

「分かったよ!俺がけがすればいいんだろ!」

 何だよ。この展開は。

「行きま~す」

「切り替え早いな!そして軽いな!」

 アキは俺の手の甲に軽く切り傷を作る。ジーンと痛みが手の甲に集中して、赤い血がにじみ出る。

「では、回復魔法を」

 アキはカードと十字架を取り出した。俺の右手をベンチの上においてカードを俺の手の甲の上において軽く十字架を打ち付ける。するとあの時と同じ青く光る線の円が出てきて中に三角の魔法陣らしきものが描かれている。

 しばらく、青い光が輝いていると少しずつ弱くなって最終的には消えた。

「はい、終了です」

 アキがカードをどけると俺の手の甲にあった傷が跡形もなく消えていた。手の甲を直接触るとまだほんのり痛みが残っているが治っている。

「これが魔術?」

「はい。一番レベルの低いものですけど」

 それにしても便利なものだ。これならいくら傷つけても簡単に治る。魔術とは便利なものだ。

「とりあえず、魔術というものを信じてやる」

「ありがとうございます」

「それでウルフとアゲハが狙っていた魔術って何?」

 ここでアキはさっきの重要なものが仕舞ってあったカードを取り出した。

「彼らはこの中の魔術式を狙っていたんです。かなり強力な魔術です。それは世界を破壊することもできれば、創造することもできます」

「そんなすごい魔術なのか?その魔術が使用済みってどういうことだ?」

「この魔術は転生魔術というもので、とある人物の魔力を他人に移す物でした」

「そのとある人物って最強だったのか?」

「はい、国をひとつ軽く滅ぼすことが出来ます」

「すご」

「その人物がこの間、亡くなってその強力な魔力と魔術を伝承させるためにこのカードに一度仕舞ったんです」

「そこにさっき奴らが現れたと」

 なるほど、そのとんでもチート級の魔術を守るために必死になっていたわけか・・・・・。

「ちょっと待てよ」

「どうしたんですか?」

 こいつさっきこの魔術は転生魔術と言ってその中にあった魔力を他人に移すものだと言った。それをアキは俺に使ったよな?つまり、俺の中にその最強の魔力と魔術があるってことなのか?運命ってそういうことなのか?

「あのさ」

「はい」

「俺ってもしかして知らない間に最強になった?」

「はい。少なくとも襲ってきたウルフやアゲハなんて敵じゃないですよ」

 マジかよ。

「でも、その魔力がその人に定着するとは限らないです。魔力を持っていてもうまく使えこなせない場合もあります。ちなみに私は無理でした」

 つまり、あっさり使えるものでもないと。

「魔力の転生は簡単にできます。教太さんの中にある魔力も回収しようと思えば回収できます。それを狙ってウルフとアゲハが襲ってくるかもしれません」

 アキは袋の中から余っていた弁当を取り出した。

「できれば教太さんから回収したいです。でも、回収するための装備を持ち合わせていないので、援軍が来るまで私が安全を保障します」

 ベンチに座って唐揚げ弁当を食べ始めた。

 俺の中に転生してしまった最強の力。今まで無に等しかった俺についた個性。何かうれしかった。こんなちっぽけな世界で人とは違う力を持っていることがうれしかった。もしかするとウルフの銃弾を消し去ったのも、ビルを破壊したのも最強の力であるとしたら、俺は使いこなせている。うれしくて笑い出しそうだ。それはそれを押さえるのに必死だった。

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