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誰も知らない神の法則  作者: 駿河留守
青色の炎
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記憶③

「あれ?香波?」

「おー。キョウ君じゃないか」

 日が傾いた教室。部活が終わり忘れ物を取りに教室に戻ってくると静かな教室にひとり香波が座っていた。俺の席で。クラスは違うので一瞬教室を間違えたかと思ったが掲示に見覚えがあるので俺の教室だ。

「なんで俺の教室に?今日は彼氏と帰るんじゃなかったのか?」

 忘れ物は机の中に入っているはずだ。その忘れ物を持っていたのは香波だった。

「キョウ君がこの教室に戻ってくるかなって思って待ってたの」

「それがあったからか?」

「そう」

 香波が持っていた俺の忘れ物。香波との間で行っている交換日記。見られた恥ずかしい内容とかが書かれている。とくに太田に見つかる厄介だ。気持ち悪いくらい嫉妬してくる。まぁ、気にしないけど。尾崎は・・・・・・理解しないと思う。

「だからってこんな時間まで待つ必要なかっただろ」

「いやいや、重要だよ。見られたら困る人もいるし」

 それはおそらく彼氏だろう。その彼氏そっちのけでこうして俺と話していいのだろうか。後ろから襲われたりしないよな?

「そういえば、俺はまだ香波の彼氏が誰なのか知らないぞ」

 年上だとは聞いている。もし、部活の先輩だったらどうしよう。特にベンチ組で練習が思うようにできない先輩だったら背後から刺されてもおかしくない。刺されるとかは冗談だけど考えるだけで恐ろしい。

「知らなくていいじゃん。私の彼氏なんて」

 香波が笑顔で交換日記を俺に渡してくる。外見からでは特に変わった様子のない大学ノートだ。いろいろといじられるのが嫌だという香波の意見でこういう地味な表紙になった。内容はすごいけど。もちろん誰にも見せない。

「さぁ、帰ろ」

「あ、ああ」

 この時から感じていた違和感。

 以前だったら部活のある日は俺のことを待つということはなかった。そもそも、俺は香波が彼氏と帰っている姿を見たことがなかった。ひとりで寂しく帰っている姿しか見たことがない。友達付き合いがうまいというわけでもなく、孤立していることが多い奴だった。俺も友達作りがうまいというわけではない。現に今の俺とよくつるむ奴は変態か天然しかいない。個性があっていいかもしれないけど。

 そんな香波にできた彼氏。最初はうれしそうだった。報告は交換日記の中だった。その日はコメントの量も少なかった。いつも1ページを丸々埋めて来るのにその日は、「彼氏が出来ちゃった。・・・・・・ごめんね」とそれだけだった。最近、その彼氏とも会っていないのかもしれない。これはその時の俺の勘だ。そして、香波は彼氏と距離を置いているのかもしれない。そんな気はしていた。それはその当時の俺にとっては喜ばしいことだったかもしれない。

「帰ろうか」

 ふたりで帰る。これほどうれしいことはない。香波はなんだかんだ言っても俺のことを優先してくれる。今付き合っている彼氏とも別れるのは時間の問題だ。もし、別れても同じように俺と接してくれるのなら俺も腹をくくるつもりでいた。

 帰路での会話は覚える必要もないたわいのないことだ。それはいつものことだ。日が沈み暗くなっていくのに俺たちの足取りはゆっくりでもっと時間がほしいくらいだった。家は俺の方が近く香波の方が遠いが5分ほどしか変わらない。いつも送ろうとしていたが近いからいいと断られる。だから、最近はそれを言うこともなくなっていた。

 俺の家に近づいてくると歩く先に見覚えのあるノッポを見つけた。

「あれって尾崎君だよね?」

「ああ、尾崎だな」

 香波は尾崎のことを知っている。ちなみに太田のことも知っている。1年の時にクラスが同じだったからだ。

「尾崎」

「その声は国分だな」

 目を細めて確認しようとして顔を近づけてくる。

「やめろ!気持ち悪い!」

「ごめんごめん。実はメガネを落として探してるんだよ。目が悪いから探すのが難しいんだよ。暗くなったらさらに見つけにくくなる。ふたりも一緒に探してよ」

「・・・・・・・キョウ君」

 香波の言いたいこと。言わずとも分かる。

「私が指摘していいのかな?」

「大丈夫だ。俺はもう慣れた」

 こいつの天然ぶりには。

「尾崎君」

「なに?城野さん」

「メガネ。頭にかかったままだよ」

 尾崎が手探りで頭の上を探してその手が眼鏡にかかる。

「おお!あった!すごい!城野さんって探し物見つける天才だね!」

「いや、お前が劣りすぎてんだよ」

 というか落としてないじゃん。なんでそんなことになったのか。訊くだけ無駄な気がする。

 そこから3人で帰ることに。普通なら俺たち二人で帰っている状況を見るとこの間に入ろうとしてくるやつはいない。でも、尾崎は普通に俺といっしょに帰るためについてくる。そういうところを見るとこいつは大物なんだなと思う。

 そして、俺の家に前に到着する。

「じゃあ、香波。また明日」

「うん。また明日」

「尾崎もな」

「うん、また明日。国分の代わりに責任もって城野さんを送り届けるよ」

「あれ?家に近いのか?」

「まぁね」

「変なことするなよ」

 まぁ、尾崎に限ってそんなことをするはずもないけど。

「い、いいよ。家はすぐそこだし」

「旅行は最後の一里までって言うだろ。家に近くなってからこそ油断するもんだよ」

「いや、旅行じゃねーぞ」

 俺が突っ込んでも特に変わった様子もない。このマイペースさを俺にも分けてほしい。

「さぁ、城野さん帰ろう。日が暮れちゃうよ」

「う、うん」

 香波はその時なぜか動揺していた。

 それほど尾崎と帰るのが不安なのか?

「キョ、キョウ君」

「ん?なんだ?」

 その時の香波は何か重要なことを言おうとしていた。特に理由もないがその時から俺に備え付けられていた勘だ。だが、その当時の俺にはその勘からどうこうしようという思考まで到達せずとどまってしまった。

「お兄ちゃん?帰って来たの?」

 妹の文香が呼んでいる。玄関でずっと立っていて入る気配がないことに不審に思ったのだろう。さっさと入らないとまたいろいろと面倒なことを聞かれる。

「じゃあ、また明日な」

 俺は香波が言いたいことがあったことも忘れて自分の事を優先してしまった。

「う、うん。またね」

 その当時の俺には頭の回転力が足りなかった。経験と判断力がやはり劣っていた。その能力の低さがすべて罪になった。この時、俺は香波の意見を聞いていれば何も起きなかったかもしれない。事件はこの時点ですでに始まっていた。これに関しては俺には止める手段はなかったかもしれない。今、冷静に思えばそうだ。でも、これから発展することくらいは今この瞬間防ぐことはできたかもしれない。今の俺にはここでなんで何もしなかったのか。声を掛けなかったのか。後悔している。

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