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いざ、出発!


 大事な家族、友達、同胞がとろけ溶かされて敵の一部にされるという屈辱。

 汚染魔物は魔族にとって悪魔そのもの。

 それなのに、汚染魔物を生み出す魔王――悪魔の母は魔族の胎から産まれてくる。

 いつ、どこで、誰が、魔王を産むのか誰にもわからない。

 その原理も。

 魔族にとって最大の天敵を生み出すモノが、自分たちの誰かから生まれてくる。

 魔族は世界中から嫌われて、そして数百年に一度生まれてくる魔王に怯え続けているのだ。

 ゲームの設定だとはわかっているけれど、あまりにも理不尽な話。

 でも、ゲームのストーリーは終わった。

 ストーリーが終わっても、登場人物たちの人生は続いていく。

 それじゃあ、私は魔族国に行って魔王が生まれてくるメカニズムを調べたい。

 もう二度と魔王が生まれてこないように、魔族国を復興しながら。

 別に今考えたわけではない。

 自分の力を試してみたい、という願望には、元々それも含まれている。

 だってそれってゲームの設定に挑むってことだもの。

 もうストーリーは終わったんだから、魔王だってもう生まれてこなくてもいいでしょ?

 魔族がこれ以上、苦しまなくてもいいでしょ?

 私は『覇者の集い』というゲームをスマホ時代からやっていたから、何十回と魔王を倒してきた。

 でもここは“現実”だもの。

 命懸けの戦いなんて、生涯で一度がちょうどいい。

 あの戦いをもう一度、なんて絶対に嫌だ。

 というよりも、魔王がまた生まれたら、魔族が本当に滅んでしまう。

 魔王誕生は約百年周期だと聞いているけれど、下手をしたら世界が滅びかねない危機が百年置きに来てたまるかよって。


「お、ルナーシャとアルカじゃないか? おーい!」

「アーカー! おーい! こっちこっちー! こっちの馬車だよー!」

「アーカー、エルワーズ! 久しぶり! 二人も一緒に来ることにしたんだ!」

「うん! 出世が見込めないからね」

「そーそー。それならレイス嬢と一緒に魔族国に行って功績を上げた方がいいだろ」

「「賢ーい」」


 両手を振る双子。

 その横には中型の荷馬車。

 レンタル馬車に載せていた私のバックをそちらに載せると、アルカが「え? レイスの荷物これだけ?」と驚く。


「ええ。実家にあまり帰っていなかったせいか、ほとんどなかったのよね。足りなければ向こうで揃えればいいかなって。あ、向こうっていうのは国境の町ディニーラのことよ」


 さすがに復興支援をすべき魔族国で物を買うなんて難しいでしょう。

 魔族国に入る前に、最低限の着替えなどは買っていこうと思っているけれど……まあ、最悪作ればいいわ。

 魔族国で旅をしたら素材はたくさん手に入った。

 そして、それらの素材はまだ[空間倉庫]に入れっぱなし。

 単純に貴族としての業務を優先させていて、売る機会がなかった。

 こういうのは冒険者協会なんかに持って行かないと買い取ってもらえないはずだし、一旦魔族国に持って行って使う使わないを選別しよう。


「うんうん! ディニーラなら色々なものが買えるよ! 王都ほどじゃないけど!」

「故郷へのお土産は買えたの? 二人とも」

「うん! おじいちゃんとおばあちゃに毛糸をたくさん買ったよ! あとお肉と、お肉とお肉とお肉!」

「お肉ばかりじゃない。ご祖父母にお肉のお土産って大丈夫なの?」

「だってディニーラは野菜がいっぱい採れる代わりに家畜が育たないんだもの! お肉は貴重品なんだよ!」


 むん、と頬を膨らませるルナーシャ。

 エルワーズが首を傾げ「なぜ辺境は家畜が育たないんですか?」と聞いてくる。

 そうか、そういうのも王都の人間は知らないか。


「辺境ディニーラは魔族国ととても近いせいで、土地や空気に含まれる魔力量が多いのよ。そういう物を敏感に感じ取る普通の家畜は魔力過多で奇形が生まれて育たない。かと言って魔族国で育つ種類の家畜では自然魔力量が少なすぎて成長せずに死んでしまう。だからディニーラでは家畜が育たず、お肉は近隣領地からの輸入に頼っているんですって」

「「へー」」

「そーだよ! だからわたしたち、お肉は誕生日にしか食べられない、すっごい贅沢品だったんだからー!」


 ふむ……それなら魔族国の家畜とアーレシュア王国の家畜をかけ合わせる、いわゆる“品種改良”にもチャレンジしてみてもいいかも?

 ああ、いやでも私が行くのは魔族国。

 ディニーラで育てるのなら双子にやってもらった方がいいか。

 なんなら魔族国で家畜を増やして、私がディニーラに出荷するような仕組みを作ればいっかぁ。


「なんだかご機嫌だね、レイス」

「え? ああ、なんだか自分で思っていたよりウキウキしているなって。やりたいことがどんどん出てくるの。魔族国に行くのが楽しみだわ」

「え? 怖い。なにをするつもりなの?」

「どういう意味かしらアルカ。私は普通に魔族国の復興を考えているのよ」


 アーカーとエルワーズの荷物も積み込み終わったら、引き続きアーカーが御者を務めてレンタル馬車を返却。

 いよいよ、私たちは魔族国へ向けて旅立った。



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