魔族国の街道を敷くぞ!(2)
「まあ、私の魔力が多いのは王家の血を引いているからだと思うわ」
そういうことにしてくれ。
『覇王の集い』の中でもケビン以上に魔力が豊富だったし、聖魔法以外のすべての魔法属性を持っていたのはレイスだけだった。
主人公以外の女キャラがレイスしかいなかった、っていうのもあるのだろうけれど、曲がりなりにも乙女ゲームとして女キャラがパーティーメンバーに選ばれるにはそのくらいの“性能”が必要だったのは仕方ないんじゃない?
乙女ゲームを名乗るなんておこがましいタイトルと内容なきはしないでもないけどな、『覇王の集い』。
「そうか、一応君も王家の血筋だったな」
「忘れていたのですか」
「い、いやいや。この国に来た理由もちゃんと覚えている。ただ、まあ、その……」
「あまり令嬢らしくないというか……」
なぜ目を逸らすんだい?
その顔、どういう感情だい?
言ってみろよ。
怒らないから言ってみろよ、なあ?
「時間ももったいないですから、さっさと石畳みを敷いて道を作ってしまいましょう。石畳みの用意をお願いしますね」
「「は、はぁい」」
荷馬車に載せていた宝箱ふうの[空間倉庫]の蓋を開けてもらう。
そこに手を突っ込み、[空間倉庫]の中から魔族国の大地に大穴を空けていた魔王の召喚した大岩を一つ取り出す。
魔王は私たちと戦った時、自動防衛機能で汚染魔物たちを呼び戻し、そいつらを喰うことで無尽蔵に魔力を使い放題。
魔族国全土を範囲に入れた広域大魔法を連発してくれやがった。
だから魔族国の南側の海岸沿いで戦ったのに、アーレシュア国境の町ディニール付近にまで大岩が落下して街道が破壊し尽くされているのだ。
私たちが魔王と戦ったから。
でも、魔王を倒さなければ、世界中に被害が及ぶ。
だからこそ、魔王討伐戦に参加していた“私”が壊れてしまった魔族国を少しでも元に戻してより安全で清潔な住みよい土地にしたい。
採集した広域大魔法攻撃の残滓である巨大岩を、水魔法の刃で石畳みにできる大きさにカット!
そのまま風魔法で敷き詰めていけば、中心の町アガレスに続く街道は完成!
「「………………」」
「なに? その反応。時間がもったいないからこのままディニール方面にも道を伸ばして行くわよ。途中で石畳みの素材にできそうな石や岩があったらすぐ教えてね」
「「はぁい」」
なんなのこの二人の反応。
なんでなにか諦めたみたいな顔しているの?
だいたい、いくらなんでも作りながら徒歩の移動は時間がかかるから馬車で一緒に来てくれるようにお願いしたのよ?
ちゃんとテンポよく進んでくれないと今日中に終わらないじゃない。
帰りには街灯も設置する。
魔力が豊富なこの国で、自然魔力を取り込み自動的に陽が沈んだら点灯し、火が出たら自動で消灯する感じのやつを。
……まだ現物作ってないけど。
なんか灯篭みたいな形のやつなら、素材岩でも作れると思うし。
◇◆◇◆◇
「という感じで丸二日かかってしまったのよ。予定では昨日ディニールについているはずだったのに。思いの外地面に石が落ちていなかったのよね」
「そっか。それは仕方ないよ。こっちも二日で小麦粉だけは作れたんだけど、野菜は今日種を蒔こうと思っていてね。収穫にはあと一週間くらい必要かも。あまり急速に魔力で育てると、味や栄養素が落ちるから」
「味と栄養素は重要ね」
なぜか虚無の顔をしているアーカーとエルワーズを横に置き、アーレシュア王国から連れてきた馬をアルカに預ける。
普通の馬に魔族国に満ちる魔力は強すぎて、体調を悪くさせてしまうからね。
そして国境の町ディニールで、アルカから小麦粉を受け取る。
この小麦粉でパンでも焼いて配るとしましょうか。
「でも街道ができたなら、野菜や果物を僕たちから運ぶこともできるようになったってことだよね。ルナーシャが戻ってきたらすぐに出発しそうだな。家はできた?」
「家を作るよりも先にディニールに来たのよ。途中に村の残骸を見つけたから、帰りはそこに寄って復興できそうならそこに家を建てようかと思っているの。ディニールに一番近い村を再興できたら、物流の基点に使えるでしょう?」
「いいね。場所が決まったら教えて。会いにいくから」
「ええ、もちろん」
「ところで、お茶飲んでいかない?」
「お気持ちだけで十分よ。早く帰って次は自分の家を建てたいの」
「そう……。家ができたら、今度こそ呼んでね」
「ええ。それはもちろん」
アルカが手を握ってくる。
びっくりして振り返ると、ずいぶん真剣で必死な眼差し。
あ、これ……本気か?
これ、あれでしょう?
アルカ唯一の“攻略可能キャラ”のレイス。
それに対する、アルカからのアプローチ。
でも、アルカのレイスへのアプローチって学園に通っている頃に行われるはず。
それがなかったから、私はてっきりアルカからの攻略はないのかなー、と安心しきっていたのに。
まあ、学園に通っている頃のアルカは不慣れな都会、意味不明な貴族社会、暴走するルナーシャのお守り、学ぶべきことは山のようでゲームのような余裕が皆無だった。
それを見て『あ、これ、やばい』と思ったから、可能な限りゲームシナリオに関わらずに静かに生きようかな、という選択肢を捨てて二人に寄り添うことにしたのだ。
役目を終えて、故郷に帰ってきたから余裕が生まれた?
いや、だとしても――。
「せっかく故郷に帰ってきたのだから、これからは自分の幸せも考えてね」
「っ」
その手をゆっくり外して、会話の流れも無視して“お断り”を入れておく。
ストーリーは終わっているのだから、今更“攻略”なんてやめてよね。
私はその気がまったくないんだから。




