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族王ディブレ・グロイズ


 と言っても、魔族の寿命は人間の数十倍とかなんとか。

 現在の族王ディブレもすでに六百年以上生きている設定だと、前世の設定表かゲーム内豆知識かなにかで読んだ記憶がある。

 実際はどうかわからないけれどね。


「ようこそ」

「……!? 族王ディブレ様――」


 驚いた。

 要塞の入り口に立っていたのは族王ディブレ・グロイズ本人!

 そしてなんか若返っている!


「以前お会いした時とお姿が……」

「これは失礼。魔力を使って肉体を若返らせました。老人の姿では国中を巡ることが難しかったものでして」


 しれっとすごいことを言っている。

 魔王討伐の旅の時に会った族王ディブレ・グロイズはゲームと同じ老人だった。

 しわしわの顔、ヨボヨボの体。

 魔王討伐を聖女と聖人であるルナーシャとアルカに涙を流しながら依頼した、族王という王の立場でありながら人の子に縋るしかなく情けがないと目元を覆って苦しむ老人の。

 でも今は、二十歳も後半くらいの若々しい青年の姿にしか見えない。


「魔力を使えば、若返ることができるのですか?」

「はい。族王となった者に口伝で伝えられた秘術です。我々魔族は寿命が長く、しかし百年に一度魔王が同胞の胎から産まれてくるため、死とは隣り合わせ。魔族を守るために族王には死なぬ限りは幾度でも魔族を維持するためにいくつもの秘術を持ち合わせているのです」

「そう、なのですね。驚きましたわ」


 だからこそ魔族の王は特別なのか。

 というよりも、『覇王の集い』はタイトル通り攻略対象がなにかしらの“覇王”の要素を持っている。

 たとえばここにいるアーカーとエルワーズ。

 ルナーシャに攻略対象でありながら攻略されなかった二人だが、きちんと攻略されて魔王討伐の旅に同行していれば『剣聖』と『賢者』になっていた。

 族王であるディブレも当然、運営がアレでなければ攻略対象として『族王』らしい活躍をしていたことだろう。

 っていうか、その活躍の痕跡? じゃないの? この若返りは。

 運営め、やっぱり一応はディブレを攻略対象にする予定があったんだな。

 悪魔の角のようなものを持つ美貌の人外なんて、人外好きにはたまらんだろうに。

 変な意地なんかはらずさっさと実装すればよかったのに。


「しかし、それならばなぜ魔王がいた時に若返りをしなかったのですか?」

「若返りの秘術は膨大な魔力を用います。魔王と汚染魔物が存在している状態で秘術を用いれば、当面の間魔法を一つも使えません。戦う以前の話でした」

「では、まさかディブレ様は今――」

「魔法の一つも使えません。ですから部下に各地を巡る空間移動についてきてもらっております。秘術は効果こそ凄まじいですが、同時に対価も凄まじいのです」

「そうなのですね」


 まあ、それはそうか。

 魔族でありながら、当分とはいえ魔法をまったく使えなくなるのは対価としてかなり怖いことだろう。

 汚染魔物は魔力を吸うから、魔法を使えたとて、という感じだがそれでも“あるのに使えない”のと“まったくない”のでは汚染魔物と対峙した時の対応はかなり変わる。

 まったく魔力がないのなら、汚染魔物にとって餌としての意味がない。

 しかし魔力があって使えない状況なら、身体強化で逃げるという選択肢さえ使えない。

 族王――魔族を統べる者がただ食われるしかない状況に陥るわけにはいかなかった、ということ。


「しかし、あなた方は約束通り魔王を倒してくださった。傷ついた我が国の民を救うためにならば、魔法が使えずとも若い体が必要なのです。一つでも多くの村や町の安否を確認する“体力”! それが今の私には必要でした」


 部下がいれば安全に多くの町や村を巡り、安否確認ができる。

 なるほど、それで若返ったのね。

 ディブレの近くにいる魔族の部下はみな若い。

 なのに、みんな疲れた顔をしている。

 おそらく数人が魔力を使い切るまで[転移魔法]で村や町を安否確認に連れまわされているのだろう。

 なるほどね……これが“体力”か。


「しかし、[転移魔法]を使う部下の方々は大変にお疲れのご様子」

「お恥ずかしながら、我が魔力が使えませんので……。彼らには申し訳ないとは思っているのですが」

「それならちょうどいいものがありますわ。城に案内していただいても? 魔物肉をたくさん狩ってきましたので、晩餐にみなで食しましょう」

「魔物肉を……!?」

「ええ、たくさんありますから」


 ということで、ディブレとその部下とともに中心街にある城に連れて行ってもらい、庭で魔物肉の調理を始める。

 調理といっても丸焼きにして皿に盛り、塩を別の皿に盛って手渡す。

 ナイフでザクザク丸焼きにした肉の表面を切り取り、浮かせて今度は弱火でじっくり自動回転させながら焼く。

 表面だけでも五十キロくらいになっているから、残りはゆっくり弱火で焼いていけばいいかなって。

 なにしろ――道中で私たちを襲ってきたのは通常魔物の中でも大型に部類される十メートル級のエンダーグランドボア。

 その牙と突進力は山をも削り、汚染魔物も産まれたての弱い個体は踏み潰される。

 [突貫矢]の魔法で頭を砕いて、抜いた血は魔法薬の素材にするつもりだが、魔力で[身体強化]している体は魔力を抜けば霜降りで甘みのある肉。

 焼きながら脂がこれでもかと落ちるので、それはそれで固めて蝋燭にでも加工しようと思っている。



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