File No.6 言わせておけばこのネズ公そこに直れ
訳アリの中年なりかけ、ニンゲンかもわからない老人、謎の中年男
役者は揃った?
かすみくん「ヤなメンバーだな」
「うーん」
香純は胸の前で腕を組み、思案のポーズだ。
「ママさん、女の子が腕組みはお行儀が」
「誰が女の子でママさんだ」
(えええ……言ってたのと違う、わたしにどうしろと)
明梨は早くも半泣きだ。
「よかったらこっち座って」
香純はカウンターの奥からサンジ、侘助、イチの順に3人を座らせる。
「おじいちゃん、何飲む?」
カウンターの奥にはウイスキー、ブランデー、ウォッカ、テキーラなどが一通り並べてある。
その下には日本酒や焼酎の瓶もある。
四合瓶しか出していないメーカーも多いので、一升瓶と混ざってでこぼこした山になっている。
「洋酒が並んでおるのはキレイじゃの……いまは一刻者をいただけるか」
「はいよ、飲み方は、ロック?」
「ちょい水を足してくれ」
「わかってるう、イチイチ[酒1;水1]って香り立つよね」
「あんたはこれ」
不遜のようで、それでも香純は年齢の順に接客している。
イチはおそらくサンジより上であろうし、初見でもあるので先にした。
「なんなのこの坊や、ボクにも聞いてよ」
「鬼殺しのいいほうだ、飲め」
「飲むけどね」
明梨が割って入った。
「すみませんえーとママさんはこういうなんていうかキャラ立てなんでひとつどうか[錯乱]」
サンジは天を仰いでいる。
香純と二人の時間は楽しかったが、ここまでわかりやすく天国と地獄を体現している男もいない。
「まあまあ、うんおいしいね」
「ならいい」
初対面でこれとはハブとマングースだろうか、かろうじて平和を維持している。
「サンジさんは同じでいいかな」
彼に関しては、お客のなかでは手のかからない『いい人』だと香純は思う。
何を知らされているということもないので、いまの事態はよくわからない。
明梨がテキーラのソーダ割をつくってサンジの前に置く。
「ボクとサンジさんはねー」
「ガチホモの痴話ゲンカなら聞かん」
香純はストレート用のショットグラスを取り出し、自分のためにとくとくとラム酒を注いだ。
イチさんはめげない。
「ボクも長いこと飲み屋やっててね、そこでこの人の世迷い言を聞いてたんだよ」
サンジが苦笑いしている。
「指をさすなよ」
「もう人妻とできて七転八倒するやら、お水の性悪女を深追いしてサンフランシスコの裏町でよれよれ、それから」
あきれた香純は、こう考えた。
(あー……カサブランカとかそういうの? ちょっと違うか)
たまらずサンジが手を上げる。
「異議あり、開示請求」
イチはかまわず続ける。
「……だからこのくらい序の口だよ、こんな男と乳繰り合いませんー」
(そう願いたい、ココロから)
サンジと香純が、同時にそう考えた。
「でもさすがマニアだね、行き着く先が」
イチさんはよく回る口を止めて、頬杖をついて香純の顔を見る。
「サンジさん、見る目だけはあるんだねえ」
香純はぐいとラム酒のグラスを傾ける。
「で、あるか」
「この子、何者なのよ」
少し落ち着いた明梨が最前線に出る。
「ああえーとママさんはですねかわいい人なんですけど営業中お酒が入るとですねなんか魔王とかになるらしくて」
落ちついていない。
「ちょこざいな」
イチさんは愉快そうに笑った。いうことが辛辣なわりに、いい笑顔である。
「ち、ちょこざい?」
若い明梨にはなんのことかわからない。
「イチさん、そのくらいでよかろ」
それまで微笑みながらグラスを舐めていた侘助が両方の掌を開き、鍵盤を叩くような動作をする。
「ああ、もう」
イチさんはアリスの猫のように、不満そうに唇をとがらせたまま消えていった。
「ええええええ」
明梨は額を押さえながら店の外に出ていった。キャパシティを振り切ったのだろう、気の毒だ。
よく見ると、カウンターの上に白いハツカネズミらしい動物が立っている。
「こういうのを役不足っていうんだよ」
イチさんの声だ。
「わしが山から下りるとき、こやつが下から登ってきたのよ、店を畳んで隠居するというのでな、まだ若いのに何を言うとるのかと諭して従者にした」
香純はショットグラスを空けて、首を振った。
「ファンタジーかよ」
明梨「こんなファンタジーないですー、被害者の会つくっていいですか」
香純「是非も、なし」




