File No.9 サンジ逃亡ヨウジ陥落! 女性には逆らわないほうがいいよ
やっとかすみくんが登場しました
「おしまいにちょっとだけね」
いよいよ真紀が『綺羅』に乗り込んできます
サンジはイチさんと何やら話したあと「それじゃ次の仕事に行くから」と言い残し、『吾妻』から出ていった。
マウンターの隅にいたヨウジは、ひとり残った真紀に話しかけられてしまった。
「さっき聞こえたかすみちゃんって、どんな人なのかな」
(ヨウジさんをいじめちゃったかな)
人形町の駅を目指しながら、真紀は苦笑していた。
『友人を売るわけにはいかない』というヨウジの矜持を無にしたようで申し訳ないとは思う。
浮気していた夫を問い詰めて離婚に持ちこんだ胆力と話術は、できれば使いたくなかった……。
店を出る時『そのうち行ってみるかも、今日はどうもありがとう』と挨拶したのだが、ヨウジは『ありがとうございました』と頭を下げたままだった。
(そのうち埋め合わせしなくっちゃ、それにしても)
真紀は声に出して言いたくなった。
「どいつもこいつも優しいだけが取り柄って、どうなってんのよ」
ジャケットを脱ぎ腕にかけ、足早に歩く。
(『かすみちゃん』の顔を見てやるんだ)
『優しくて不器用なんて流行らない』というイチさんの煽りが効いてしまったのだろうか。
(あのつかみどころのない男が、どんな女性に惹かれるのか見てみたい)
そんな探究心のようなものに突き動かされたのか、自分でもよくわからなかった。
一週間が過ぎて、真紀は娘を実家の両親に預けて出かけてきていた。
夕闇が降りかけた新橋の駅前で、やや途方にくれている。
離婚してから働いてはいるが、こんなサラリーマンの吹き溜まりは昔からあまり来たことがない。
ひさびさの人波に気圧されて、先週末の意気はかなり削がれている。
(せっかく来たんだし、お茶でも飲んでケーキ買って帰ろうかな)
本来は穏和といっていい性格なのだ。
性に合わないことをしてしまうところだったのか。
そうやって母親の顔に戻りかけたとき、自分の名前を呼ばれた気がした。
「真紀ちゃん」
自分をそうやって呼ぶ、限られた人間。
先週あの店で何年ぶりかで会った、イチさんだった。
後ろには小柄な老人が笑みをうかべて立っていた。
古いが仕立てのいいスーツを着て、なんともいえない黒いマントのようなものを羽織っている。
イチさんの連れだろうか。
(どういう偶然なのよ)
詫助たちが介在している因縁かもしれないとは真紀の知り得ないところだ。
「さあ一緒に行こうか」
「あっ、でもわたしは」
「野暮はいわない、かわい子ちゃんに会いに行きましょう」
柔らかく言われているようでなぜか、有無をいわせない調子がある。
(ここまで来たんなら、しょうがないじゃない)
その『ママさん』はかわい子ちゃんと言われるような人なのか、やはり見てみたい。
(話題のあてはないけど、一杯だけ飲んで帰ってもいいよね)
真紀は老人とイチの後を追った。
奇妙な3人組が雑踏を割って行く。
「アカリちゃん、一番上の取ってよ」
今日も『綺羅』の開店準備をする香純と明梨の二人。
香純は、背の高い明梨が取って下ろしてくれたボトルをしみじみと見る。
「ジャック、ハケてくれないなー」
ジャックダニエルズはバーボンの中でも独特な趣きの酒だ。テネシーウィスキーといってバーボンとは別物だともいわれる。
封を開けたときにフルーティーな香りがたつが、それはその日限りだ。
大酒飲みは今日のうちに飲んでしまえとワインのように空けてしまったりする。
香純は昨日開けたその残りをどうにかなってくれないかと思案していた。
「はあい、寄せてもらうよー」
入ってきたのはイチさんだ。
(来たかネズ公、もう巻き込まれんぞ)
香純が居住まいを正して構える。
ファーストコンタクトが失敗だったのか、謎の敵愾心だ。
(美人ママはソツなくあしらっちゃうのだ)
明梨「ママさん、もう魔王はやらないんですよね」
香純「あれはやるもんじゃないんだよ、降りてこなくなった、JAS○ACにいわれたのかなあ」
明梨「登録してないと思いますよ、音楽じゃないし」




