エージェント 4
「お前はSVRのモロゾフ!」
オリバーが憎憎しげに叫んだ。
「えすぶいあーる?」
全く聞き覚えのないヒーローだ。
「あ? ああ、こいつはロシア対外情報庁のエージェント、つまりは我々の商売敵だ」
ヒーローじゃなくて悪役その二かよ!
「この件は既に我々CIAと日本政府との間で話が付いている。手を出さないでいただこう」
「心配するな。こちらも色丹島に核ミサイルを配備すると脅したら快く日本政府が話を聞いてくれたよ」
ちょ! もっと頑張れよ日本政府!
国民をそんなに簡単に売るんじゃねえ!
「……全くこの国の政治家どもはこれだから信頼できん」
そこは同意する。
「さてどうするカウボーイの旦那。この倉庫の周りは既にSVRの狙撃手で固めてある。大人しくその少年をこちらに引き渡すなら、あとで返してやるぞ? もちろん自白剤などは使わんよ。ロシアにはいい拷問法がそろっているのでな」
こんなに嬉しくないトリビアも珍しい。
「断る。これは合衆国の問題だ。ウオッカの飲みすぎで頭が解けたお前らの出る幕ではない」
場の温度が一気に下がる。
素人の俺が見てもはっきり分かるほど両者の間の緊張が高まってゆく。
なにか小さな物音、それ一つで場が動くそんな緊迫した雰囲気の中、
「へーんしんっ! ミラクル、オラクル、明日くる?」
まったく場に沿わない、甘ったるい少女の声が響き渡った。
派手派手しい光と共に例のパワードスーツ姿になった俺に全員の目が釘付けになる。
「なんでこのタイミング!? さっき反応しなかったじゃん?」
「寝てた!!」
「フリーダムすぎるわ!! それじゃなにか? 俺はお前の昼寝で危うく死に掛けたのか?」
「なになに? あんた死に掛けてたの? だっせー」
むかつく!
なにこいつマジでむかつくんですけど!
「ハ、ハイスクールボーイ……」
ようやくオリバーが我に返ったようだ。
「それはなんなんだ?」
こうなったら正直に言って諦めてもらうしかないな。
「これは未来の機械なんだよ。あんたの言うとおり、俺はこいつで衛星を打ち落とした。それは悪かったと反省している。だけどあれはわざとじゃないというか事故みたいなもので悪気があった訳じゃないんだ」
「悪気が無ければなにやっても許されるなんて大間違いよ!」
「お前が言うなーーーーー!」
「未来の機械だと? ……にわかには信じられん。しかし、確かにそれは我々の理解を遥かに超えている代物だ」
さすがCIA。
飲み込みが早くて助かるぜ。
「どこでそれを手に入れたのかね?」
「それは秘密」
オリバーがあからさまに不快感を顕わにした。
未来からの誤配送とか言ったらまたややこしくなりそーだし、オリバーの顔は怖いけどここは秘密で押し通すぜ。
「極東の少年。それを我がロシアに譲る気はないかね?」
いつの間にかすぐ近くまで来ていたモロゾフが話しかけてきた。
「金銀石油天然ガス、なんでも望むだけの量と交換するぞ?」
「ふざけるな! ならばこちらは州を一個やる! どこがいい? ユタか? コロラドか?」
「どっちもお断りだ。これは本来ここにあっちゃいけないものなんだ。俺はこれを使うつもりはねーし、誰かに渡すつもりもねー」
「ならば方法は一つしか残されていないな」
オリバーとモロゾフの目に物騒な光がこもる。
「とりあえずこのガキは殺す。そのあと改めて所有権を賭けて戦う。それでいいなボルシチ野郎?」
「了解だハンバーガー野郎」
おいおいお前らホントに敵かよ? と、つっこみを入れたくなるほどの見事な連携プレーで一斉に俺に向けて銃が放たれる。
倉庫の窓の外からも弾が飛んできた。
だがそれらは俺の半径50センチ辺りで次々と浮かび上がる光る輪のようなものにぶち当たり、力なく床に落ちてゆく。
「おーすげー」
「なにこいつら? 火薬の爆発力で金属の弾を飛ばしてるの? これ攻撃のつもりよね? もしかしてふざけてる?」
「ふざけてねーよ。この時代じゃ一番ポピュラーな攻撃方法だと思うぞ」
「ふーん。じゃこいつらこの私に向かって本気で攻撃してるんだ。へー、こんな武器しか持ってない下等生物が私に。…………よし、殺そう!」
「短絡的すぎるっ! 絶対ダメ! そんな事したら未来が変るかもしれねーだろ?」
「えーじゃあどうするの?」
「殺さずにこいつらやっつける方法とか無いのかよ?」
「あるけどー」
すげえ不満そうだな、おい。
「どんな方法だ?」
「精神にだけダメージを与える攻撃があるわ。喰らっても半日意識が飛ぶ程度ね」
「それでいこう!」
「えー、これ地味だから嫌いなのよねー」
「つべこべ言わずにいくぞ!」
「仕方ないわね。ブレインバスター起動」
すると俺を包み込むようにして緑色の半透明な球体が現れディスプレイとなった。
そしてCIAやSVRの人間がいる所に次々と印がついてゆく。
「ターゲットオールロック完了。いつでもいけるわよ」
「発射!」
「yes! My lord!!」
その言葉と共に、俺の背中に付いていたパーツがファンネルのように飛び散り、エージェント達の頭めがけて七色の光を浴びせた。
それだけで全ての男達が膝をガクンと折り、そのまま床に倒れこんだ。
倉庫の外からの銃撃も完全に沈黙している。
「これは……すげえな。まさかとは思うが死んでないよな?」
「気絶してるだけよ。疑い深いなー」
確かに倒れている男達の胸がゆっくりと上下している。
「しかしよく考えてみるとこれかなりめんどくせえ事になってるよな。こいつらこれで諦めてくれないかな?」
「無理じゃない? かなりしつこそうなタイプっぽいわよ二人とも」
「だよなー。んー困った。お前がある限り平気だろうけど、ずっと付き纏われるのも嫌だなー」
「やっぱり殺してさっぱりするのが一番じゃないの?」
「…………お前、正義のヒーローって設定完全に忘れてるだろう?」
「あら? 撃滅戦隊ジェノサイダーは正義のためならばどんな犠牲も厭わないのが売りなのよ?」
「もはやそれは悪だよ……」
建物の外に出るとやはりここは倉庫だった。
場所も知っている所だ。
前に釣りに来た事がある。
俺の家から少し離れた港の一角だ。
「此処からなら電車で帰れるな」
「飛んで帰ればいいじゃない?」
「これ以上騒ぎを起こせるか! 変身解除だ」
「どぶに落ちて死んじゃえ!」
「なんで毎回死ななきゃならんシチュなんだよ!?」




