エージェント 1
「ふぁーーーー」
「どうした? やたら疲れた顔して。寝不足か?」
俺の欠伸に反応したのは高校に入って最初に出来た友達、来栖啓太。
「それもあるけど何というか、色々あったんだよ」
あの後、両親が帰ってきてからも当然一悶着あった。
そりゃ残り二〇年以上ローンが残っている我が家の1階から夜空が見えた日には、どんな親でも取り乱すだろう。当然の反応だ。
だけど本当の事を言って親父の好奇心に火をつけたら最後、絶対にいじくって変な改造をしようとするに違いない。
俺は改造人間になるのも死ぬのもどっちも御免だぜ。
なんかいい言い訳ねえかなー 家の屋根に穴が空く理由…………普通ねえよ…… ん?
いやまてよ、ちょっと前にテレビで空から氷が落ちてくる事があるとか無いとか言ってたよな?
ええと確か飛行機の翼とかに付いた氷がはがれて落ちてくるんだっけ?
いいじゃないか、凶器は既に解けていて証拠も残らない。
採用だ! …………うん、我ながら苦しい、苦し過ぎる言い訳だ。
信じる奴は馬鹿だろう。
「なるほど氷か。ならば仕方あるまい」
馬鹿がいた! しかも俺の親だ! 遺伝子の継承を断固拒否します。
まあ母親はさすがに半信半疑だったけど、親父がちょうどいいから此処に煙突立てて暖炉にしようって言い出したら「まあ素敵」とか目を輝かせていた。
この前向きさだけは継承してもいいかもしれない。
んー、しかし親父が作る暖炉かぁ。
まともな物が出来る気がしねーな。
恐らく完成するのは暖炉ではなく溶鉱炉だろう。
とりあえず暖炉が出来るまでそのままにしておく事もできないので、屋根にブルーシートを張ったり、床に板を打ち付けたりしたので俺の睡眠時間も体力もすっかり不足しちまった訳だ。
「色々ねぇ。やっぱりそう言う時には彼女に労わってもらうのが一番だぜ! という訳で放課後ナンパしに行こう!」
こいつは事あるごとにナンパしたがる。
何でも彼女のいない高校生活なんてなんの意味も無いらしい。
だが俺は知っている。
まだそれ程長くない付き合いだが、それでもはっきり判った事がある。
来栖は自分から女の子に声を掛ける勇気など全く持ち合わせていないチキン野郎だという事。
一人ではナンパする勇気がないから俺を巻き込もうとしてやがる。
当然、これまでに来栖に彼女がいた歴史はない。
「裕樹君、疲れてるの?」
俺たちの会話にダイレクトインしてきたこいつは幼馴染の星浦くるみ。
向かいの家に住んでいる。
なりがちいさいしちょこちょこ動くからなんというかリス的な小動物を連想させる奴だ。
「別にたいしたことねーよ。ちょっと寝不足なだけだ」
「あんまり夜更かししちゃ駄目だよ」
「へーへー」
「……なあ、お前ら本当に付き合ってないんだよな?」
来栖がこれ以上無いくらいに不審そうな目でみてやがる。
「だから何度も言ってるだろ。くるみとはただの幼馴染だよ」
「そ、そーだよ。あ、私日直だから行くね!」
そう言い残してぱたぱたとくるみは行ってしまった。
くるみはそれなりに可愛い顔をしているけど、産まれた時からの家族ぐるみの付き合いをしていたから、俺にとっては女の子というよりも妹みたいなものなんだよな。
「信じていいんだな兄弟! ならば灰色の学生生活を打破するためナンパに行こう!」
『自分のツラ、鏡で見てから言えよブサメン』
「──!」
ちょおおおおー 今の声、俺の胸から出てるんですけど!
「??? ……おい荒川。今女の声で自殺レベルの悪口言わなかったか?」
「気のせいだ! お前が女の事しか考えてないチキン野郎だから幻聴でも聞いたんだろう!」
「ひでぇ、さすがに俺も傷つくんだけど」
「とりあえずバンドエ〇ドでも貼っとけ! 俺は腹痛くなったからトイレに行ってくる!」
とりあえず人目の付かない所、屋上か!
俺は全力で屋上に向かい、誰もいないことを確認した後、自分の胸に向かって怒鳴りつけた。
「殺すぞテメェ! なに喋ってんだよ!」
「だって暇なんだもん。変身しよーよ」
「するか! お前も昨日の電話聞いてたんだろ!? 電池が届くまで絶対変身しねえ!」
「だったら一日中、叫び続けてやる!」
社会的に死んじゃう!
「やーめーてー! お前状況わかってるのか? 下手したら未来が変っちゃうんだぞ!?」
「どうなるか分からない未来より、今この瞬間を大事にすべきよ!」
「無軌道な若者かよっ! ……なあ頼むよ、せめて学校にいる間は静かにしてくれ」
「……条件があるわ」
「なに?」
「一日一回は変身する事」
「だから未来が……」
「変るような事しなきゃいーじゃん。あのねえ、私は道具なのよ? 道具にとって使われないって事は捨てられるより辛いの。わかる? わかるよね? 解れ」
まあ俺は道具じゃないけど、なんとなくその気持ちは理解できなくもない。
「…………わかったよ。その代わり人前では絶対にしゃべるなよ?」
「りょーかい♡」
はああああ、面倒くせえ事になった。
まあこれも電池が届くまでの辛抱だ。
うまくいけばもう届いているかも知れねーしな。




