誤配送 2
シャツを脱いで視線を下に向けると、
ええ、付いていましたとも。
胸元にばっちり。
例のセンスのないアイテムが。
突起の部分が完全に俺の体に食い込んでいて、半球の中には人魂みたいな光がチラチラとゆらめいている。
呆然としている俺の胸元、つまり例のアレからまた女の子の声が出てきた。
「初期設定中。パーソナルデータ登録。初期エラー…………結構一杯。まあ気にすんな。セットアップ完了。今日から君はインフェルノレッドだ! ……たぶん?」
「すまん。どこから突っ込めばいいかわからねえ」
「突っ込む? ああ敵のアジトだね。んーこの周辺には登録されているアジトはないわねぇ」
「なにい!? じゃあ俺は何と戦ったらいいんだぁ! ってそうじゃねえ!」
だめだ、ノリ突っ込みをしていたら全く話がすすまねえ。
落ち着くんだ俺!
「はーーーーーふーーーーーー。……よし、お前は一体何なんだ?」
「玩具」
簡潔明瞭だ! だけど事態は一つも進展していない。
「なんでそのおもちゃが俺の胸にひっ付いているんだ?」
「仕様」
「…………お前、説明する気ないだろ。……まあいい、とりあえず俺から離れろ」
「なんでそんな事言うのよ!? 私の事嫌いになったの?」
「好きか嫌いかという次元にすら達していねえよ」
「べ、別にアンタに付いていたいとかそんなんじゃないんだからね!? 外したければ説明書でもみればっ! ふんだ!」
何と言う安っぽいツンデレキャラ。
なるほど、箱の中にはペラペラの説明書らしきものが入っていた。
(遊び方 本機に触れるだけでセットアップします。その後の動作はAIによって説明されます)
んー?、アレで説明といえるのだろうか?
(外し方) おお、これだ。
(付属のキルスティックのボタンを押すと外れます)
ネーミングが凄く気になるが、あっさり解決しそうでほっとした。
箱を調べると、確かに10センチくらいのスティックが入っている。
「よし。これを押せばいいんだな?」
「ちょ! あんた本気で外すつもり!? 私とは遊びだったの!?」
「うるせえ! 遊びだよ! だってお前おもちゃだろうが。それじゃぽちっとな」
スティックの上に付いていた髑髏マークのスイッチを思いっきり押し込む。
「………………」
「………………」
なんの変化も起こらなかった。
「ちょ!? なんで?」
何度も押しなおすがやっぱり外れない。
「ははははー、ばーか、ばーか」
俺の胸元から響く悪態に耐えながら説明書をもう一度確認してみた。
(注意。キルスティックの電池は別売りになります)
なんだ、そういう事か。サイズからして単三かな?
(電池は必ず、核融合型単三電池をご利用ください)
「わーい。単三って予想的中だぁー、って核融合!? 核と核が融合しちゃうの? ねーよ! 分裂させるだけで手一杯だっての!」
「あははははー、ばーか、ばーか」
「うるせぇ! 馬鹿って言った奴が馬鹿だよ!」
色々むかついたので胸のペンダントを掴み無理やり引っ張ってみた。
「いてえええええ!」
「無理に外せるわけないじゃん。アンタってほんとバカね」
「くそおお……どうすりゃいんだよ」
うなだれている俺に、少し甘えるような声でペンダントが話しかけてきた。
「……ねえ、私おもちゃなんだけど……」
「押し売りまがいのな」
「なんて言うか、遊んでもらえないと私のプライドが傷つくというか、アイデンティティが崩壊するというか……」
「だから?」
「べ、別にアンタに遊んで欲しいとかそんなんじゃないんだからね! だけどせっかく装着したんだからちょっとくらい遊んでくれてもいいじゃない!」
「だからなんなんだよその安っぽいツンデレキャラ。今どきその程度の個性じゃ生き残れねーぜ」
「いいからアンタは私で遊ぶの! これは決定事項なの! 死ぬの!」
胸元でギャーギャー喚かれると五月蝿すぎる。
「わかったよ。遊べばいいんだろ? たくっ」
はーこの歳になってヒーローごっこかよ。泣けてくるぜ。
「で? どうすればいいんだ?」
「もちろんヒーローだからまずは変身よ! 極め台詞と共にかっこよく変身するの!」
「まあお約束だな。で? 極め台詞って?」
「こうよ『我は天と地を統べし一振りの刀! 邪悪為る者に正義の永眠を与える者! 撃滅戦隊ジェノサイダー、インフェルノレッド参上!』」
「なげぇ! そして痛ぇ!」
「ほら言いなさいよ!」
「この歳になってそんなこっぱっずかしい台詞がいえるか!」
「じゃここは飛ばしましょう」
「いいのかよ! おもちゃ的にはここ大事じゃねーの!?」
「はんっ、本当に大事なものは言葉じゃなくて中身よ! つべこべ言ってないで変身!」
その瞬間、胸のペンダントが光り、中から色々なパーツが出てきて俺の体を覆ってく。
ものの数秒くらいで俺はインフェルノレッドになっていた。
リビングの隅に置いてある姿見で確認してみる。
正直に言おう。
結構格好いい。
「アンタ今、格好いいと思ってたでしょ」
意地悪な口調のすでに聞き慣れた声が、頭を覆うヘッドギアから聞こえてくる。
「べ、別にかっこいいなんておもってねーよ! ちょっとスマートな造形だな、とかフィギア化しないかな? とか思ってねーし」
まずい、安っぽいツンデレキャラが感染してしまっている。
「さて、どうしましょうかね? この辺には悪のアジトは無いみたいだし……、とりあえず飛びましょうか」
「飛ぶ?」
その質問に答える代わりに、俺の体がいきなり離陸した。
そのまま1階と2階の天井をぶち破り、すさまじい勢いで俺の体は空の彼方へと突き進んでいったのであった。




