誘拐 2
綺麗な青空のもと、ようやく事態が呑み込めたオリバーとモロゾフが再起動した。
「お、落ち着けボーイ…………」
「冷静に話し合おうじゃないか」
「黙れ! こっちはマジでむかついてんだよ!!俺の言っていることが信じられないなら今から手始めにワシントンとモスクワを地図から消してやんよ」
「待ってくれ!」
「それは!」
「人の大事な物には手を出すけど自分の物には手を出すなって? そんな理屈通る訳ねえだろ。更地になった首都の前で、ごめんね~僕のせいでこうなっちゃったって土下座でもしてろ」
「待ってくれ!」
「それは!」
壊れた家電みたいに同じ言葉を繰り返す二人。
「それが嫌なら誓え! 二度と俺の知り合いに手を出さねーと!!」
オリバーもモロゾフも泣きそうな顔でちょっと震えている。
「返事は!」
「「了解しました!」」
「それじゃとりあえず武器を全部捨てろ」
CIAとSVRのエージェント達が名残惜しそうに武器を捨てていく。
「あの武器を壊すくらいの攻撃力の技とかねーの?」
「それならジェノビームがおすすめよ! 指さした方向へ弱めのビームが出るわ」
「じゃ、ジェノビーム」
俺の指先から飛び出したビームが武器の山に当たった瞬間、強烈な爆発と共に武器がバラバラになって飛び散って行った。
「弱くねーじゃん!」
びっくりだよ。
「ジェノキャノンより弱いわよ!」
「まあいいか。それじゃえーとオリバー。俺たちを家まで送れ」
「イエス、サー!」
「あとモロゾフ? ここちゃんと掃除しとけよ」
「ダー!」
なんか気持ち悪いくらい態度が変わったなこいつら。
それはさておきくるみに掛けられていた縄を解いてやる。
「スーツが邪魔だな。変身解除してくれ」
「鯖に当たって死んじゃえ!」
「…………ぶれないな、お前……」
元の姿に戻った俺はくるみを抱きかかえて、例のワンボックスに乗り込んだ。
「それでは荒川様。ご自宅までお送りさせていただきます」
やたら丁寧な運転で車が走り出した。
「くるみはどれぐらいで目を覚ますんだ?」
「そうですね。あと小1時間くらいかと」
「はあ、しかしこれどう説明したらいいんだ……」
「我々は登校中のくるみ様を非常に手際よく拉致させていただいたので、ほとんど記憶に残っていないと思われます」
非常に手際よく拉致って……まあいいか。
俺とくるみを乗せたワンボックスはそのまま何事も無く無事家に到着した。
「それでは失礼致します。サー」
文字通り失礼の極みみたいな連中だった訳だが、とりあえずくるみも無事だし、まあ結末としては悪くないだろう。
くるみの家も俺の家と同じで両親が共働きなので今は家に誰もいない。
俺は合鍵を使ってくるみの家に入った。
ちなみにくるみも俺の家の鍵を持っている。
「そういやくるみの部屋に入るのも久しぶりだな」
久しぶりに入ったくるみの部屋は以前とあまり変っていなかった。
可愛らしいベッドと参考書だらけの勉強机。
くるみのスマホについていたキャラクターのでかいぬいぐるみがベッドの脇に座っている。
唯一変ったところは、机上の写真立ての中身が、高校入学の時に校門で俺と撮った写真に変わっているぐらいか。
とにかく俺はそのままくるみをベッドに寝かせてやった。
なんか幸せそうな顔で眠てやがる。
いい夢でも見てるんだろうけど、こっちは悪夢だっての。
しかしくるみにどう説明したものか。
「……まあくるみのことだから、学校に行ったつもりが間違えてもう一度ねちゃった、とか勝手に勘違いしてくれるだろう」
いやさすがにそれはないか。
しかし落ち着いてみると俺すげえ格好だな。
勢いでシャツを破ったからほぼ上半身裸だ。
傍から見たら完全に変質者だな。
「ん、ん……ゆっくん?」
なんでこのタイミングで起きる!? お前はもっと寝覚めの悪い、いい子だったはずだ!
「あれ? なんで私制服で寝てるの? あれ? 学校?」
「おおお、俺は何も知らん! お前が学校休んだから心配になって見に来てやっただけだ!」
「あれー? じゃ私学校行くつもりで間違えて寝ちゃったんだねー」
くるみが馬鹿でよかった!
こいつ学校の成績は結構良いんだが、なんというか根本的な所で馬鹿なんだよな。
「えーと、ゆっくん。何でそんな格好なの? 変態さん?」
「違う! これはアレだ、暑かったから脱ごうとしたら引っかかって破けちまったんだ!」
「慌てんぼうさんだね」
「うるせえ。とにかく病気じゃなさそうだな。安心したから帰るわ」
「わざわざごめんねー」
くるみが謝る必要なんてまるで無いのでちょっと良心が傷む。
でも自分が拉致されたなんて覚えていないならそのほうが良いに決まっている。
妙な罪悪感と共にくるみの家を後にした。
ようやく我が家に帰宅。
だが期待していた荷物の不在届けはなし。
「早く電池届かないかなー たった3日で信じられないくらい疲れたぜ」
「もういっその事このままこの国を支配しちゃおうよ?」
「やっぱりお前、悪側だろ」




