似ている、安心
森の夕闇が、ゆっくりと木々の間を染めていく。
猿吉はブルーノの言葉を、ただ黙って受け止めていた。
ブルーノの声は、途切れ途切れに、しかし熱を帯びて続く。
言葉が、うまくまとまらないまま、溢れ出る。
「だから、俺はその頭を使うプログレバンドがねぇ……ちょっと色々感じるもんがあって、やめて……今のパンクロックスタイルになって、売れたわけなんですけどぉ……でも、そのバンドが大きくなってきてさぁ? 今日のダンサーさん達がそうだったけど、凄いカッチリしてる感じだろ?」
猿吉は、黙って聞く。
ブルーノの瞳が、遠くを見ているようで、でも猿吉をしっかりと捉えている。
「今のこれはいいと思うんだよ……? だけど、俺からしたら、昔みたいな、キチキチのカチカチになってるんじゃないかなぁって思ってさ……? 俺、こういうのやりたいのかなぁ……って、感じるもんがあってさぁ……?」
説明は、わかりにくい。
言葉が、迷子のように彷徨う。
でも、猿吉は感じる。
ブルーノの胸の奥で、何かが疼いている。
完璧さを求めた過去と、今の輝きとの間で、揺れている何か。
「それで、この前さぁ? ライブの最前列で踊ってる猿吉見てさぁ……? これなんじゃないの!? 俺が求めてるのはこういうのじゃないの!? って思ったわけなんだよ」
ブルーノの説明は、要領を得ない。
途中で息を継ぎ、言葉を探し、迷う。
それでも、猿吉にはわかる。
感じる。
ブルーノの熱意。
ブルーノの想い。
言葉にできない、ただの熱。
それが、猿吉の胸に、静かに染み入る。
「だからさ? 俺、頭悪いからさ? 上手く言えないよ!? 猿吉に求めてるのは、他の皆みたいなキッチリしたダンスじゃないんだよ!? もっと、なんと言うか……魂のこもってるダンスみたいな感じ!? 今日のダンスみたいなのが良かったんだよ! ああいう感じのダンスが欲しいんだよ!」
ブルーノの声が、震える。
『頭悪いから』
その言葉が、猿吉の心に落ちる。
皆、頭が悪い。
ブルーノも、自分と同じで頭が悪い。
言葉でうまく説明できない。
伝えきれない。
それなのに、必死に伝えようとしている。
その姿が、猿吉の胸を、温かく締めつける。
ブルーノは、凄い人だ。
売れた。
音楽を、みんなに届けた。
でも、頭が悪い。
自分と同じ。
猿吉は、頭が悪い猿。
でも、きっと。
同じような、凄い猿になれる。
言葉にできない何かで、繋がれる。
全てを言葉に出来なくても良い。
感じるだけで、十分だ。
猿吉の胸の奥で、静かな音が響く。
森の風が、木の葉を優しく揺らす。
ブルーノの瞳が、猿吉を捉えたまま、止まらない。
二人の間に、言葉のない、確かなものが生まれる。
わからないまま、でも似ている。
それで、いい。




