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僕は頭の悪い猿だけど音楽がしてみたい  作者: 星狼


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8/11

似ている、安心

森の夕闇が、ゆっくりと木々の間を染めていく。

猿吉はブルーノの言葉を、ただ黙って受け止めていた。

ブルーノの声は、途切れ途切れに、しかし熱を帯びて続く。

言葉が、うまくまとまらないまま、溢れ出る。


「だから、俺はその頭を使うプログレバンドがねぇ……ちょっと色々感じるもんがあって、やめて……今のパンクロックスタイルになって、売れたわけなんですけどぉ……でも、そのバンドが大きくなってきてさぁ? 今日のダンサーさん達がそうだったけど、凄いカッチリしてる感じだろ?」


猿吉は、黙って聞く。

ブルーノの瞳が、遠くを見ているようで、でも猿吉をしっかりと捉えている。


「今のこれはいいと思うんだよ……? だけど、俺からしたら、昔みたいな、キチキチのカチカチになってるんじゃないかなぁって思ってさ……? 俺、こういうのやりたいのかなぁ……って、感じるもんがあってさぁ……?」


説明は、わかりにくい。

言葉が、迷子のように彷徨う。

でも、猿吉は感じる。

ブルーノの胸の奥で、何かが疼いている。

完璧さを求めた過去と、今の輝きとの間で、揺れている何か。


「それで、この前さぁ? ライブの最前列で踊ってる猿吉見てさぁ……? これなんじゃないの!? 俺が求めてるのはこういうのじゃないの!? って思ったわけなんだよ」


ブルーノの説明は、要領を得ない。

途中で息を継ぎ、言葉を探し、迷う。

それでも、猿吉にはわかる。

感じる。

ブルーノの熱意。

ブルーノの想い。

言葉にできない、ただの熱。

それが、猿吉の胸に、静かに染み入る。


「だからさ? 俺、頭悪いからさ? 上手く言えないよ!? 猿吉に求めてるのは、他の皆みたいなキッチリしたダンスじゃないんだよ!? もっと、なんと言うか……魂のこもってるダンスみたいな感じ!? 今日のダンスみたいなのが良かったんだよ! ああいう感じのダンスが欲しいんだよ!」


ブルーノの声が、震える。

『頭悪いから』

その言葉が、猿吉の心に落ちる。

皆、頭が悪い。

ブルーノも、自分と同じで頭が悪い。

言葉でうまく説明できない。

伝えきれない。

それなのに、必死に伝えようとしている。

その姿が、猿吉の胸を、温かく締めつける。


ブルーノは、凄い人だ。

売れた。

音楽を、みんなに届けた。

でも、頭が悪い。

自分と同じ。

猿吉は、頭が悪い猿。

でも、きっと。

同じような、凄い猿になれる。

言葉にできない何かで、繋がれる。


全てを言葉に出来なくても良い。

感じるだけで、十分だ。

猿吉の胸の奥で、静かな音が響く。

森の風が、木の葉を優しく揺らす。

ブルーノの瞳が、猿吉を捉えたまま、止まらない。

二人の間に、言葉のない、確かなものが生まれる。

わからないまま、でも似ている。

それで、いい。

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