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僕は頭の悪い猿だけど音楽がしてみたい  作者: 星狼


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6/11

無理だと思うッキ……

練習の時間が、ようやく終わりを告げようとしていた。

スタジオの空気が、汗と疲労で重く淀む。

猿吉は、鏡の前に立ったまま、息を乱していた。

体は動いた。

一時間、ただ繰り返した。

でも、心はどこか遠くに置き去りにされたままだった。


扉が開く音がした。

ブルーノが入ってきた。

彼は、皆に軽く手を上げ、猿吉を紹介する。

「みんな、猿吉だよ。新メンバー。これからはよろしくな」

ジャッキーたちが頷き、微笑む。

猿吉は、力なく頭を下げることしかできない。


ブルーノは猿吉を促し、二人でスタジオを出た。

森への道を歩く。

陽が傾き、木々の影が長く伸びる。

猿吉の足取りは、重い。

尻尾が、地面を擦るように垂れている。


森の奥、いつもの木の下に着いた。

ブルーノが、明るく声を上げる。


「ハハハ、猿吉。ダンス見たけど、いい感じだったよ。俺の理想の感じだった」


ブルーノの声は、喜びに満ちている。

満面の笑み。

でも、猿吉の心は、暗い。

胸の奥が、鉛のように沈む。


「……」


沈黙が、落ちる。

ブルーノが、気づく。


「……ん? 猿吉、どうしたんだ?」


猿吉は、ゆっくりと顔を上げる。

声が、震える。


「……本当に良かったと思うッキか?」


ブルーノは、即座に頷く。

「あぁ、凄く良かったよ! 俺の理想だったよ! あれ、絶対にライブで盛り上がるよ! 皆、絶対に楽しんでくれるよ!」


満面の笑み。

純粋な喜び。

でも、猿吉の思いは違う。

ブルーノは『皆が楽しんでくれる』と言う。

でも、自分自身が、楽しめなかった。

苦しかった。

胸が締めつけられ、体が重く、鏡の中の自分が惨めに映った。

楽しむどころか、ただ耐えていただけだ。


猿吉の目に、涙が滲む。

頰を伝う前に、声が零れる。


「ブルーノさん……やっぱり、僕には音楽は無理だと思うッキ……」


ブルーノの目が、大きく見開く。

「えっ……!? 猿吉、なんでだよ!?」


猿吉は、言葉を絞り出す。

声が、途切れ途切れになる。


「だって……僕、他の人みたいに上手に出来てないッキ……僕、他の人みたいに上手く出来てないのはわかるッキ……でも、何処が違ってて、何が悪いのかわからないッキ……」


わからない。

わからないまま、遅れていた。

わからないまま、苦しかった。

頭が悪いから。

それが、すべてを説明している気がした。


ブルーノは、大慌てで手を振る。

「猿吉はそれでいいんだよ! あのさぁ!? お願いだから、手伝ってくれよ! あの曲は猿吉が主役の曲なんだよ!?」


その言葉が、猿吉の胸に落ちる。

主役。

自分。

わからないまま、涙が一筋、頰を伝う。

森の風が、静かに木の葉を揺らす。

ブルーノの瞳が、必死に猿吉を捉える。

猿吉は、ただ立ち尽くす。

涙が、止まらない。

でも、心の奥で、何かが小さく、震え始めた。

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