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僕は頭の悪い猿だけど音楽がしてみたい  作者: 星狼


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5/11

わからないまま、繰り返す

スタジオの空気が、急に重くなる。

ジャッキーの声が、静かに響いた。


「よし、それじゃあ、合わせてみようか」


録音された音楽が、再び流れる。

心地良いリズムが、床を震わせ、壁を伝う。

でも、今はそれを味わう余裕などない。

隣の四人は、もう踊り始めている。

揃った息遣い、鋭いステップ、鏡に映る影が一つの生き物のように動く。

猿吉は、慌てて体を動かす。

見様見真似で。

ただ、必死に追いつこうとするだけ。


鏡に映る五人の姿。

その中で、自分の影だけが、浮いている。

『自分の踊りだけ違う』

猿吉は、気づく。

でも、何が違うのか。

どこが違うのか。

なぜこんなに、ずれているのか。

頭が悪いから、わからない。

わからないまま、体だけが動く。


音楽は止まらない。

踊りも止まらない。

このまま、続けるしかない。

見様見真似のままで、必死に。


ティトが、踊りながら、笑い声を混ぜて言う。

「ハハハ、猿吉の踊りだけ、ワンテンポ遅れてるな」


その言葉が、胸に刺さる。

遅れている。

一つ、理由がわかった。

でも、それをどう直せばいいのか。

猿吉にはわからない。

最初にみんなが踊った振り付けを、覚えていない。

記憶に残っているのは、ただの心地良いリズムと、勝手に揺れた体だけ。

今、ここで、鏡の中の自分が、遅れて揺れている。

恥ずかしい。

苦しい。


音楽は流れ続ける。

猿吉は踊り続ける。

一時間。

ただ、一時間。

音楽は好きだ。

この曲は、心地良いはずだ。

でも、今は違う。

胸の奥が、締めつけられるように痛む。

いつも感じていた温かな震えが、冷たい棘に変わっている。

体は動くのに、心が追いつかない。

わからないまま、ただ繰り返す。


鏡に映る自分の姿が、汗で濡れ、息を乱す。

四人の影は、完璧に揃い、静かに輝いている。

猿吉の影は、遅れ、乱れ、必死に追う。

尻尾が、重く垂れる。

スタジオの空気が、冷たく、静かに猿吉を包む。

音楽は、まだ終わらない。

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