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僕は頭の悪い猿だけど音楽がしてみたい  作者: 星狼


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4/11

鏡の中のズレた影

ダンススタジオの床は、冷たく、硬く、森の土とはまるで違う。

猿吉は、初めての場所に立っていた。

壁一面の鏡が、無情に自分を映し出す。

尻尾が、緊張でぴくりと動く。

周りには、四人の男。

ジャッキー、ティト、ジャーメイン、マーロン。

彼らの名前を、猿吉はまだうまく覚えきれていない。

でも、ブルーノが『彼らが俺達のダンスを支えてくれてる』と言っていたから、大事な人たちだということだけはわかる。


リーダーのジャッキーが、穏やかに声をかける。

「猿吉君だよね? ブルーノから話は聞いているよ。新メンバーとしてよろしくね」


「はい、よろしくだッキ!」


猿吉は、元気よく返事をする。

声が、少し上ずる。

ジャッキーは微笑んで続ける。


「それじゃあ、まぁ、最初は見て覚えようか? 俺達はもうダンスの振り付けを完成させてるから、皆で合わせて踊るよ。猿吉君は俺達の踊りを見て真似してよ」


「わかったッキ! 僕、頑張るッキ!」


録音された音楽が、スタジオに流れる。

聞いたことのない曲。

でも、心地良い。

肩が、自然と揺れる。

体が、勝手に動き始める。

これは、ブルーノの新曲なのかな?

猿吉は、そう思う。


四人の動きが、揃う。

鋭く、滑らかに、力強く。

何がすごいのか、猿吉にはわからない。

言葉にできない。

ただ『格好いいダンス』。

それが、精一杯の表現だった。


ライブの最前列で、無数の人の中で踊っていた自分とは違う。

ここには、誰もいない。

ただ、四人の完璧な動きだけがある。

猿吉は、その凄さに、息を飲む。

胸の奥で、何かが小さく震える。

自分は、無意識に踊っていたらしい。

でも、あれは人ごみの中で、音楽に紛れて揺れていただけ。

今、ここで、鏡に映る四人の姿は、違う。

洗練され、計算され、息がぴたりと合っている。

猿吉の体は、ただ、勝手に揺れるだけだ。


曲が終わる。

静寂が、スタジオに落ちる。

ジャッキーが、猿吉に視線を向ける。


「じゃあ、今の僕達のダンスと同じように踊ってみて」


「……えっ?」


不安が、胸に生まれる。

ぽつりと、冷たいものが落ちるように。

でも、その不安をどう解消すればいいのか、わからない。

今の自分の感情が、何なのかさえ、わからない。

何を聞けばいいのか。

誰に、どう言えばいいのか。


猿吉は、ただ立ち尽くす。

四人の視線が、優しく、しかし重く、自分に注がれる。

スタジオの鏡に映る自分の姿が、急に小さく見えた。

尻尾が、力なく垂れる。

ここは、森ではない。

音楽は、心地良いのに、胸の奥が少し、痛む。

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