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僕は頭の悪い猿だけど音楽がしてみたい  作者: 星狼


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3/11

自然に踊っていた、僕

森の午後の光が、木々の間を優しく縫うように差し込む。

猿吉はブルーノの言葉を、胸の奥で反芻していた。

踊る。

その響きが、まだ頭の中で小さく回っている。

わからない。

でも、わからないまま、胸が温かい。

ブルーノの瞳が、穏やかで、しかしどこか熱を帯びている。

猿吉は、ただ見つめることしかできない。


「あの、ここ最近さ? うちのバンドメンバー増えて、いつも後ろで踊ってるダンサーの人達いるだろ?」


「うん! 踊ってる人達いるッキ!」


猿吉は即座に頷く。

記憶はいつも、ライブの光景で満ちている。

最初は三人。

ブルーノのギターと歌が、ベースとドラムに支えられて、会場の空気を震わせていた。

やがて四人になり、五人になり。

ギターが増え、キーボードが増え。

猿吉には、何故増えたのかわからない。

ただ、増えるたび、音楽が少しずつ大きくなって、胸に届くものが増えていった。

それだけで、十分だった。

もっと好きになる。

理由など、必要なかった。


そして、数ヶ月前から、後ろで四人の影が踊り始めた。

猿吉は、ただ見ていた。

最前列で、体が勝手に揺れるのを、許していた。


「それでさ? 猿吉はいつも、俺達のライブに来てくれて最前列で猿吉も踊ってるじゃん?」


ブルーノの目が、優しく細まる。

猿吉は、ぽかんとする。


「えっ? 僕、踊ってるッキか?」


自分では、そんなつもりなどなかった。

音楽が体を通り抜けるたび、足が勝手に動き、手が空を掴むように揺れていただけ。

それが、踊りだったなんて。


「えっ? 猿吉、自分で気づいてないの? 猿吉も踊ってるよ? じゃあ、あれ自然にやっちゃってるんだ?」


ブルーノが、笑いながら言う。

猿吉の頰が、熱くなる。

顔が、真っ赤に染まる。

自分でやったことすら、覚えていない。

それを他の人に指摘されると、恥ずかしさが胸を突き刺す。

でも、その恥ずかしさは、どこか甘い。

ブルーノの笑顔が、優しくそれを包む。


「まぁ、でもさ? 俺、猿吉の踊り見てて、思ったんだよ。あぁ、こういう踊りこそが今の音楽に必要なんだよって思ったの。今の俺達の音楽には猿吉の踊りが必要だって確信したの」


言葉に、熱がこもる。

ブルーノの瞳が、燃えるように輝く。

猿吉には、その熱の意味がわからない。

何故こんなに真剣なのか、何故自分を必要とするのか。

頭が悪いから、疑問はすぐに霧散する。


「なぁ!? だから、頼むよ、猿吉! 俺達の音楽に協力してくれ! 俺、お前と一緒に新しい音楽がやりたい! 俺達のメンバーになってくれ!」


ブルーノが、頭を下げる。

その仕草に、猿吉の胸が、どくんと鳴る。

疑問は、もうない。

残っているのは、ただ一つの、大きな喜び。


大好きな音楽を、大好きな人と出来る。


猿吉は、満面の笑みを浮かべて答えた。


「うん! 僕、踊るッキ!」


その声は、森の木々を震わせ、どこか遠くまで届いた気がした。

尻尾が、興奮で大きく揺れる。

わからないまま、でも確かなもの。

猿吉の心に、新しい音が、静かに響き始めた。

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