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僕は頭の悪い猿だけど音楽がしてみたい  作者: 星狼


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2/11

踊るだけなら、いいですか?

陽の光が、木々の隙間を抜けて地面に細い線を描く。

猿吉はブルーノの前に立ったまま、尻尾の先を小さく揺らしていた。

胸の奥で、何かが弾けるように鳴る。

ただ、声をかけられただけで。

それだけで、こんなに嬉しいなんて、その理由は猿吉にはわからない。

わからないままだけど、ただただ嬉しい。


「ブルーノさん、こんにちはだッキ! 僕に頼み事って何なんだッキか!?」


声が、弾むように出る。

猿吉の瞳が、期待で輝く。

ブルーノは、いつもの穏やかな笑みを浮かべて、ゆっくり言葉を紡ぐ。


「あのさぁ? 猿吉、うちのライブをよく見に来てくれるじゃん? 猿吉、音楽好きなんでしょ?」


「うん! 僕、音楽、大好きだッキ!」


即答だった。

言葉にできない好きさを、ただ叫ぶように。

ブルーノの目が、少し細くなる。

優しく、しかし確かな光を宿して。


「だから、猿吉にうちのバンド手伝って欲しいんだよ。一緒に音楽やらない?」


その一言が、猿吉の胸を強く突いた。


「えっ!? 本当っだッキか!? 」


大好きな音楽を、大好きな人と一緒に。

そんなことが、あり得るなんて。

胸の奥で、温かな波が広がる。

弾む。

弾みすぎて、息が少し苦しい。


でも、すぐに。

現実が、冷たい指で猿吉の肩を押さえる。


「あっ……でも、僕、ブルーノさんみたいに楽器出来ないッキ……」


声が、急に小さくなる。

表情が、翳る。

頭の悪い猿吉でも、この程度の現実は見える。

指先で弦を弾くことも、鍵盤を叩くことも、できない。

自分は、ただの猿。

モンキー。

音楽の輪の外側にいるだけの、役立たず。


ブルーノは、表情を変えない。

変わらぬ穏やかさで、猿吉を見つめる。


「あ〜、大丈夫。猿吉は楽器はしなくていいのよ。猿吉には踊って欲しいのよ。踊るだけだったら、楽器出来なくても大丈夫でしょ?」


「僕、踊るッキか?」


猿吉は目を丸くして、ブルーノを見上げる。

踊る。

その言葉が、頭の中で反響する。

自分にはブルーノの考えていることが、わからない。

頭が悪いから。

何を、どうして、自分にそんなことを頼むのか。

理解できない。


それでも。

それでも、胸の奥で、何かが疼く。

興味が、ゆっくりと芽吹く。

わからないまま、惹かれる。

ブルーノの瞳に映る自分が、少しだけ大きく見える気がした。


風が、木の葉をそっと揺らす。

猿吉の尻尾が、もう一度、小さく揺れた。

まだ、わからない。

でも、もう少しだけ、近づいてみたい。

そんな気持ちが、静かに、猿吉の心に根を張り始めていた。

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