被り物を被った仲間たち
数ヶ月が過ぎた。
ライブの夜の熱気が、まだ胸の奥に残っている。
あの歓声の波、あの光の嵐、あの腕を組んでステップを踏んだ瞬間。
すべてが、猿吉の体に刻まれていた。
大成功だった。
ブルーノのバンドは、さらに輝きを増し、猿吉は正式に一員となった。
猿吉は思う。
自分が頭が悪い。
モンキーだから。
楽譜は読めない。
振り付けは遅れる。
言葉でうまく説明できない。
それでも、何も出来ないわけではない。
頭が悪くても、心で何かを行うことは出来る。
感じたまま、動くこと。
ズレたステップで、みんなを動かすこと。
あの夜、観客が腕を組んで真似してくれたように。
だから、ブルーノと共に、その何かを行っていこう。
わからないままでも、感じるだけでいい。
それが、自分の味だ。
今日は、ダンサーチームのスタジオ練習の日。
猿吉は、扉を開ける。
いつもの冷たい床、壁一面の鏡。
でも、今日は違う。
ジャッキー、ティト、ジャーメイン、マーロン。
四人の姿が、そこにあった。
全員が、猿の被り物を頭に被っている。
ふわふわの茶色い毛、丸い耳、コミカルな表情。
猿吉の姿を、真似た被り物。
「み、皆……その被り物……どうしたッキか……!?」
猿吉の声が、驚きで上ずる。
尻尾が、ぴくりと跳ねる。
ジャッキーが、被り物の下から笑みを浮かべて言う。
「次の新曲は、猿吉みたいに、もう皆が自由に踊る感じでやろうと思うんだ。だから、猿吉が真ん中ね? 俺達も猿吉に合わせる感じにするから」
「ぼ、僕が真ん中ッキか……!?」
猿吉の目が、大きく見開く。
真ん中。
ステージの中心。
照明が、すべて自分に注がれる場所。
みんなの視線が、集中する場所。
緊張が、胸を締めつける。
尻尾が、震える。
頭が悪い自分が、そこに立つ。
ズレたダンスで、みんなを引っ張る。
うまくいくかわからない。
失敗するかもしれない。
わからないことが、まだたくさんある。
でも、それでいい。
猿吉は、ゆっくり息を吐く。
頭が悪いなりに、頑張って行こう。
感じたまま、動いてみよう。
ブルーノが、みんなが、信じてくれたように。
自分も、自分を信じてみよう。
スタジオの鏡に映る姿が、少しだけ大きく見えた。
猿の被り物を被った四人。
そして、被り物を被っていない、ただの猿吉。
でも、今は、同じだ。
みんなで、自由に。
猿吉の胸の奥で、新しい音が、静かに響き始める。
わからないまま、でも前へ。
それで、いい。




