腕を組んで、左足を二回
ギターソロの音が、ステージを切り裂くように鳴り響く。
猿吉は、真ん中に立った。
体が、勝手に動く。
理屈などない。
計算などない。
ただの本能。
宙返り。
回転。
尻尾を鞭のように振り、床を蹴って跳ぶ。
アクロバティックな動きが、次々と零れ落ちる。
観客の息が、一瞬止まる。
そして、爆発する歓声。
「うおおおお!」
「アイツ、すげえ!」
叫び声が、波のようにステージを叩く。
猿吉は、感じる。
自分が何か行動を起こすたび、観客の驚きが、熱い風のように吹きつける。
胸の奥で、何かが震える。
音楽が、出来ている。
自分が、音楽の一部になっている。
体が熱く、息が荒く、心臓が破裂しそうに鳴る。
でも、怖くない。
今は、ただ感じるだけ。
隣にいるブルーノの姿が、視界の端に映る。
満足そうな笑み。
瞳が、輝いている。
猿吉の動きを、見つめている。
その視線が、猿吉の体をさらに軽くする。
大暴れの時間が、終わる。
ギターソロの音が、ゆっくりとフェードアウトする。
猿吉は、息を整え、隊列に戻ろうとする。
ズレたダンスを、再び続けるだけだ。
でも、突然。
ブルーノが、猿吉の腕に自分の腕を絡めてきた。
強く、確かな力で。
猿吉は、隊列に戻れない。
二人は、腕を組んだまま、ステージの中心に留まる。
ブルーノは、マイクを片手に、ステップを踏み始める。
左足を二回。
右足を二回。
単純で、素朴な動き。
猿吉は、慌てて真似をする。
左足、二回。
右足、二回。
二人の足が、揃う。
息が、合わさる。
音が、シンプルに響く。
観客の歓声が、一瞬、静まる。
そして、次の瞬間。
信じられない光景が広がった。
観客たちが、隣の観客と腕を組み始める。
左足、二回。
右足、二回。
波のように、会場全体が動き出す。
照明の下で、無数の腕が絡まり、足が揃う。
猿吉の後ろには、ジャッキーたち四人がいる。
彼らのダンスは、優雅で、完璧で、洗練されている。
なのに、観客が真似しているのは、猿吉たちの単純なステップ。
ズレた、素朴な、ただの動き。
猿吉は、頭が悪い。
それでも、わかる。
この瞬間、自分は音楽の一部だ。
ズレたダンスが、みんなを動かした。
完璧じゃなくても、感じたままのものが、伝わった。
胸の奥が、熱く、痛く、喜びに震える。
涙が、込み上げる。
泣くな。
今は泣く時ではない。
今は笑って、このモンキー・ダンスを楽しむ時間なんだ。
泣くのは、この時間が終わってからでいい。
猿吉は、笑う。
満面の笑みで。
ブルーノと腕を組み、左足を二回、右足を二回。
観客の波が、ステージに向かって押し寄せる。
歓声が、天井を突き破る。
照明が、激しく明滅する。
音が、体を貫く。
猿吉の尻尾が、喜びに大きく揺れる。
今、ここで、すべてが繋がっている。
わからないまま、でも感じる。
それで、十分だ。




