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僕は頭の悪い猿だけど音楽がしてみたい  作者: 星狼


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森の枝で、音楽を感じる

森の木々が、午後の陽を柔らかく濾す。

枝の上で、猿吉は膝を抱えていた。

猿吉は猿だ。モンキーだ。

毛むくじゃらの体に、赤茶けた心臓が、ただ静かに鼓動を打つ。

それでも、猿吉は音楽が好きだった。

バナナの甘さよりも、ずっと深く、胸の奥に染み入るように。


なぜ好きなのか。

その問いを、猿吉は言葉にできない。

誰かが尋ねると、喉が詰まる。

「あっ……それは、え〜っと……う〜ん……あの……」

口から零れるのは、意味のない音の欠片だけ。

頭が悪いから。

猿だから。

モンキーだから。

そう思うたび、心のどこかが小さく縮こまる。


楽器など、触れたこともない。

指先で弦を弾くことも、鍵盤を押すことも、想像すらできない。

それ以前の問題だ。

楽譜は、猿吉にとってはただの黒い虫の群れ。

四分音符と八分音符の違いなど、わからない。

アンダンテ、フォルテッシモ。

そんな言葉は、遠い国の呪文のように響くだけ。

意味を掴もうとすればするほど、頭の中が霧に包まれる。


今日も、猿吉は木の枝に腰を下ろし、空を見上げていた。

雲がゆっくり流れ、風が葉をそっと揺らす。

その静けさの中で、音楽の欠片が、胸の奥でかすかに震える。

感じるだけ。

言葉にできない、ただの震え。


「おぉい、猿吉。お前にちょっと頼みがあるんだけど、降りてきて貰っていい?」


下から、声が届いた。

猿吉の視線が、ゆっくりと落ちる。

そこにいたのは、ブルーノ。

ギターを背負った男。

猿吉の表情が、ぱっと花開くように明るくなる。


ブルーノは音楽をやっている。

猿吉には、その音楽が何なのか、わからない。

複雑なコード進行も、歌詞の意味も、すべて霧の中。

ただ『格好いい音楽をしている人』。

それが、猿吉に出せる精一杯の言葉だった。

胸の奥で、温かなものが広がる。

理解できないのに、なぜか嬉しくなる。

それが、猿吉の好きの形なのかもしれない。


猿吉は、枝から身を投げた。

軽やかに、木の間を滑るように降りて、ブルーノの前に立つ。

尻尾が、興奮で小さく揺れる。

ブルーノの瞳が、優しく猿吉を迎える。

その視線に、猿吉の心臓が、少しだけ大きく鳴った。

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