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第6話 ヤンデレ幼なじみは上機嫌に町を歩く

 ルミナと村から逃げ出し、数時間。途中で休憩を挟みつつも、ようやくアレク達は村の近くにある町__ルースラに辿り着いた。国の中心部から見れば小規模な町だが、アレク達の村よりは広く、栄えている。



 村から殆ど出たことの無いルミナは目を輝かせて町を眺めている。そんな彼女を愛おしそうに見つめるアレク。

 彼は剣術道場の遠征やこの町で定期的に開催される腕試し大会への参加、村では手に入らない本や魔道具を手に入れる為などの理由で何度か訪れた事がある。1人の時は何の感情も湧かない風景も、ルミナと一緒だと輝いて見える。



 王宮からの使者がどこまで村に近付いているか分からない以上、村近くのこの町に長く滞在する訳にはいかない。最低限の補給を済ませて出立するべきだ。分かっているが、辺りを物珍しそうに見回すルミナが可愛くて、少し位ゆっくりしても良いかな、とアレクに思わせる。



 加えて、最初の休憩中になされたルミナの決意。あの言葉が、更にアレクの機嫌を良くさせていた。テンションが上がってつい、彼女の手の甲にキスをしてしまった程だ。本当は口にしたかったが、ぐっと堪えて手の甲に留めた。ルミナに気を遣った訳ではなく、その方が騎士の誓いみたいで良いかな、と思ったからだった。結果的にルミナの真っ赤に染まった顔を見られたのでアレクの気分は更に上昇。逃亡中にも関わらず、気分はデートである。




 「折角だから少しゆっくりしていこうか」

 「え、でもなるべく村から離れた方が…。それに、あんまり町の人の記憶に残るのも良くないよね?聞き込みでもされたら行き先がバレちゃうかも」

 「心配ないよ。はい、コレ着て」

 「これって…マント?」



 アレクが手渡したのはフード付きのマント。それには認識阻害の魔法が付与されており、それを着ている者は周りから気付かれにくくなる上に、周りの人の記憶にも残りづらくなる。話しかければ普通に気付いてもらえるが、話しかけるまでは気付かれないし、たとえ会話をしたとしても、会話の相手がどんな人物だったのかは良く思い出せなくなる。


 この魔道具を作ったきっかけは、一度村の少女にルミナに絡んだ奴等と“お話”している所を見られた事。その子はルミナと親友だった。愛するルミナの親友に良くない光景を見せてしまった反省から、今後“お話”をしている所を見つかりにくくする為に、たとえ見られても自分がやったと気付かれない為に作った。とはいえ基本的に平和な村の中で“お話”をする事はそんなに多くないので、専らルミナをストーカーする時に愛用していた。



 アレクはルミナにマントの効果について___勿論、作ったきっかけとストーカー云々の話を省いて___話す。ルミナは「凄い!」と喜んでマントを羽織る。無骨な黒いマントでも、彼女が着ると途端に美しい物に思える。




 「うん、良く似合ってるよ。


 フードを被れば認識阻害の効果が発動する様にしてあるから、基本的にフードは被ったままでいてね」

 「分かった」



 ルミナが深くフードを被る。彼女の顔が見えにくくなるのは非常に残念だが、背に腹はかえられない。アレクもマントを羽織り、フードを被る。作成者であるアレク本人には勿論認識阻害の魔法は効かないが、他にも同じくマントを羽織っている人間にも認識阻害は働かない。つまり、アレクとルミナは互いに問題なく認識出来ている。しかし、2人ともフードを被った今、周りの人達は2人の事を認識出来なくなる。



 ___まるで世界に2人だけみたいだな。アレクの気分がまた良くなる。鼻歌でも歌い出しそうな勢いだ。




 「それじゃあ、少し町を歩こうか」

 「うん」



 アレクとルミナは連れ立ってルースラの町を歩き始めた。


 ・・・・・


 まずは朝食を、と思ったが流石に夜明けから開いている店はない。市場もまだやっていないので、取り敢えずは町の広場のベンチに座って休憩する。ルミナをベットで寝かせたい気持ちもあるが、あまり痕跡を残したくないので宿屋に行く訳にもいかない。何より、宿屋もまだ開いていない。



 2人でベンチに腰掛け、朝食としてルミナの母が持たせてくれたお弁当を食べる。これはこれでのんびりとしたデートの様で良い。




 早朝も早朝とはいえ、意外と町には人が歩いている。朝から働く者、早起き過ぎる老人、逆に夜に働いていて、今から休む者。町を行き交う人々は早朝からベンチでお弁当を食べる若い男女を気にも留めない。マントの効果がきちんと発揮されている証拠だ。



 「凄いね、誰も私たちを気にしてない」

 「ふふ、自慢の逸品だからね。


 この後はどうしようか?お店はまだやってなくても、もう少ししたら市場も始まるだろうし…それまでここで休む?」

 「うーん…折角ならもう少し町を見て回りたいな。見てるだけで楽しいし」

 「そっか。じゃあ行こう」



 立ち上がったアレクはルミナに手を差し出す。「ありがとう」とその手を取ってルミナは立ち上がる。アレクはそのままルミナの手をぎゅっと握る。困惑するルミナに笑いかけ、アレクは彼女と手を繋いだまま町を見て回る。最初は居心地悪そうにしていたルミナも、アレクに手を引かれて町を歩く内に慣れたのか、その内繋いだ手を気にする事もなく、新鮮な景色に目を輝かせていた。






 市場が始まると徐々に人通りも増えていく。多くの商人が道行く人に声をかけるが、アレク達は一切客引きに捕まる事なく、ゆっくりと買い物を楽しむ。周りに認識されていない分少々人とぶつかる事が多いが、たとえどんなに柄の悪い人にぶつかろうが認識されないのでトラブルに発展する事もない。





 市場には野菜をはじめ食べ物系が多く売られている。とはいえ食べ物ばかりではなく、魔道具や魔導書、アクセサリーや雑貨類を出品している店もある。ただ、こういう店では偽物や不良品を出品している事もあるので、アレクは鑑定スキルを使い、怪しい店には近付かないようさり気なくルミナを誘導する。



 そうして市場を巡りながら、これからに役立ちそうな物を探していく___となる筈だったが、大体の道具は既にアレクがより高性能な物を持っているので結局は買い食いを楽しみ、旅の食料として干し肉や野菜、パンなどを買っていく。アレクの保存魔法を使えば食料も長持ちするするので遠慮なくどんどん購入していく。



 食料以外にも、ルミナに似合いそうなアクセサリーを購入したかったが、ルミナに止められてしまった。「余計なものは買わなくていいの」と彼女は言っていたが、僕からすれば何よりも優先すべき買い物なんだけど。しかし、ルミナが頑として拒否するので渋々諦めた。まぁよくよく考えたらどこの誰が作ったともしれないモノをルミナが身に付けるのは少し腹立たしくもある。うん、これから彼女が身に付けるものは全て僕が作ろう。


 僕が作ったものだけを身に付けるルミナ。“僕のもの”らしくて想像しただけで身体が歓喜に震える。



 そうと決まれば材料を入手しなければ。市場で手に入れても良いが、あまり材料になりそうな物は売っていない。折角作るのなら材料にもこだわりたいので、市場での買い物はそろそろ終わりにしよう。



 「とりあえず、市場で買う物はこれくらいかな?あとはちゃんとしたお店で買おうか」

 「そうだね。そろそろお店も開いてるだろうし」





 市場を離れ、2人は連れ立ってまた町を歩き出す。「今度はどこに行こう?」と楽しそうに考えるルミナを見て、アレクは幸せそうに微笑んだ。繋いだままの手をもう一度ぎゅっと強く、強く握る。




 ___こんな日々がこれからもずっとずっと続いてく。そんな幸せを噛み締めながら。


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