第5話 誓い
アレクと合流し、彼の先導により誰にも見つかる事も無く、拍子抜けするほど簡単に村から逃げ出させた。後で聞いた所によると、こっそり気配遮断の魔法をかけていたらしい。うーん、相変わらずのチート。心強い事この上ない。
夜中、堂々と2人で街道を歩く。森の中とか通った方が良いんじゃない、と私は言ったが、「大丈夫。夜は人通りは少ないし、何かあれば僕が守るから」とキメ顔で言われてしまった。イケメンにイケメン台詞言われるのは心臓に悪い。自然と頬が赤くなってしまう。今が夜で良かった。
それにしても、辺りは驚く程静かだ。いや、夜中だし当たり前なんだけど。寧ろ人が居て騒がしい方が逃げ出しにくいから困る。
しかし、こう静かだと色々と考えてしまう。原作の事とか。世界の修正力によって逃亡は失敗して王宮に連れて行かれ、結局ヤンデレに囲まれてのブラック労働に身を投じる事になったらどうしよう。
他にも、王宮からの使者が村に着いたとして、聖女が逃げ出した事によって村の皆が罰せられたら…とか。原作の印象からすると国王は別に悪人という訳では無いし、民の事を考えない独裁者では決して無い。しかし、国の為に聖女を酷使する様に、大きな利益の前では多少の犠牲もやむなし、と考えるタイプだ。聖女の行き先を知っている人間は居ないか確かめる為に拷問とか普通にやりそう。
今更ながら、不安や村の皆に対する罪悪感が湧き上がってくる。両親に応援されて、“絶対逃げ切ってやる!”なんて思ったけど、無事村を出て頭が冷静になるにつれ、自分がした行動の罪深さに心が苦しくなる。やっぱり逃げない方が良かったのかな。でもブラック労働は嫌だし、ヤンデレの相手をするのも嫌だ。
ぐるぐると考える内に、いつの間にかどんどん俯いてしまう。そんな私の顔を、アレクは心配そうに覗き込む。
「大丈夫?疲れた?少し休もうか」
大丈夫、と答える暇もなく、アレクは肩にかけたポシェットからテーブルと椅子を取り出す……テーブルと椅子??
「…なんでポシェットからテーブルと椅子が!?」
先程までの暗い気持ちも吹き飛ぶほど驚く。だってアレクが持っているのは本当に小さなポシェットだ。元の世界の感覚で言えば小銭入れとスマホ、ティッシュとハンカチが入る程の大きさ。なんでそれからテーブルと椅子が??
「あぁ、このポシェット魔道具で、見た目より収納出来るんだよ。けど、いくら入れても重さは見た目通り。凄いでしょ?」
「いや本当凄い」
そりゃファンタジー世界だし魔道具くらいあるし、そもそも家にもコンロの様に火が出せる魔道具はあった。ゲームでも主人公は【アイテムボックス】という名の魔道具を使っており、そのお陰で沢山のアイテムが持てていた。でも実際に目にするとビックリするわ……。手品の様に小さな入れ物から大きな物が出てくるんだもの。
私の驚きようが面白かったのか、アレクはくすくすと笑いながらテーブルと椅子を街道の左右に広がる草原に設置していく。
準備が出来ると座るように促してくるので、私は未だ呆然としながらも椅子に腰掛ける。直ぐさま膝掛けとブランケットが掛けられた。何だこの快適空間。とても野外とは思えない。テーブルの上にはランタンが置いてあるので夜中だが灯りも問題ない。
「あんまりゆっくりはしてられないけど、身体を休める事も大事だからね。おばさんから貰ったお弁当でも食べる?それともお茶だけにしておこうか?」
「じゃあお茶で…」
アレクはポシェットから水筒とカップを取り出してお茶を注ぐ。もはや驚くまい。お礼を言って差し出されたお茶を受け取り、口に含む。ほんのりとした甘さが漂うお茶は私の心を少しだけ癒してくれる。
「………ちょっと落ち着いた。ありがとう、アレク」
「なら良かった」
優しく微笑むアレクにまた心臓が跳ねた。落ち着け、私。ポーカーフェイスだ。自分の気持ちを飲み込む様にぐいっとお茶を飲み干す。頭を切り替えよう。
村の皆への罪悪感はある。しかし、私はもうアレクを巻き込んで、両親にも背中を押されて村を出た。今更戻るなんてそんな事、アレクにも両親にも顔向け出来ない。何より、やっぱり戻る気にはなれない。大人しくゲーム通りに物語が進むのは嫌だ。自己中心的だと罵られようが、私は聖女として一生国に使われるのも、ヤンデレ達のルートに入るのもお断り。
______この罪悪感を一生背負う事になっても、私は私の人生を生きたい。
改めて決意を固める。私はアレクを真っ直ぐに見据え、揺るぎない思いを宣言する。
「私は絶対、逃げ切ってみせる。何を犠牲にしても、誰に迷惑をかける事になろうとも」
聖女とは程遠い、なんとも自分勝手な宣言。それを聞いたアレクは、椅子から立ち上がり、私の傍に移動すると、騎士の様に跪く。
「僕は絶対に君を国の手から守ってみせる。_____いいや、国からだけじゃない。ありとあらゆる魔の手から、一生、君を守るよ」
アレクが手を差し出す。その手を取る様に私は手を重ねた。そして_____
彼は重ねた私の手の甲に、そっと口付けをした。
暗闇でも分かるくらい赤くなった私を見て、アレクは満足そうに微笑んだ。




