第39 意外な関係性
クエスト攻略も無事終わり、ギルドに戻って来た。リーダーが報告を済ませ報酬を受け取り、その間にまた別のパーティーメンバーの1人が素材を売って換金している。
私を含め残りのパーティーメンバーは打ち上げの為の店の確保を命じられた。正直行きたくないが、報酬の分配もその場でするのなら行かざるを得ない。お金は欲しい。
効果が薄れてきているとはいえ認識阻害は発動しているし、報酬の分配が終わったらこっそり抜け出そう。
キースさんとはなるべく距離をとってパーティーに付いていく。適当な酒場の前で足を止めた女剣士が「ここはどう?」と聞いてくるので私は小さく頷いた。どうせ抜け出すから場所はどこでもいい。
酒場に入り、大きなテーブルを確保する。そろそろ報告も売却も終わる頃だろう。豹の獣人の少年がリーダー達を迎えに行くため一度酒場を出る。
「先に注文しておくか」
この世界の飲食店は提供に少々時間がかかる。それを見越してパーティーのタンク役が、特に時間が掛かる料理を中心にいくつか頼む。
手の込んだ料理を作るのに時間を要するのはどこの世界も同じだけど、それに加えてこの世界には圧力鍋とか、そういう手軽に時短出来る調理器具が少ないから、前世の世界以上に時間がかかる。それに加えて保存の技術も遅れているから、事前に作り置きしておく事も中々難しい。
私は息を殺して和気藹々と談笑しているパーティーメンバーを眺める。うーん…正体を隠すためには仕方ないとはいえ少し寂しい。楽しそうにしている人たちを見つめているだけってクラスの輪に入れない苦い経験が蘇ってくるし……。
「ハナコさん、大丈夫?」
「うぇっ!?」
頬杖をつきながら『早くリーダー達戻ってこないかなー。帰りたいなー』と思っていると、キースさんが声を掛けてきた。心配そうにこちらを窺っている。
「ずっと黙っているから、体調でも悪いのかと思ってね。気分が悪いなら少し横にならせて貰おうか?ボクから店の人にお願いしてみるよ」
「い、いえ…大丈夫です」
___まずい。こうして私に気付くという事は、かなり認識阻害の効果が薄れてきている。キースさんとはクエスト攻略中、メイジ同士として____非常に不本意ながら___関わる事が多かったし、多分キースさんのステータスやスキル的にもこうした魔法を看破しやすいのだろう。現に他のパーティーメンバーはキースさんの言葉でようやく私に気付いた、みたいな顔してるし。
「ホントに大丈夫?」
露出度の高い鎧を身にまとった女剣士さんも、私に気が付くと心配そうに眉を下げた。タンクの青年も「無理はするなよ」と私を案じてくれる。
……クエスト攻略中も思ってたけど良い人の集まりだよね、このパーティー。しかしその優しさが今は困る。もっとビジネスライクというか、用が済んだらはい解散、みたいなパーティーだったら良かったのに……。
会ったばかりの私を心配してくれる優しさを無下には出来ず、「ちょっと緊張して」と曖昧に笑う。実際、攻略対象が近くに居て緊張しているのは事実だし。
「そういえばハナコさんはパーティー組んだ事無かったんだっけ?」
「そうですね…少なくともこんな大人数でパーティーを組んだ事はありません。大体幼なじみと2人なので…。偶に知り合いが1人、手伝ってくれる事もありますけど」
「へぇ…2人だけってのも珍しいな。大体5人以上で組む事が多いが」
「それだけ優秀って事なんだね、ハナコさんもそのパーティーメンバーも」
「あはは…」
2人だけでどうにかなっているのはアレクがチートだからだけど。それは口に出さず笑って誤魔化す。
緊張をほぐそうとしてくれているのか、皆が私に話し掛けてくる。しかしそれはあまり人の印象に残りたくない私にとっては大迷惑だ。
どうにか興味を逸らせないかな…と考えていると、「お待たせ」とパーティーリーダーと素材を売りに行っていた女武闘家、そして彼らを呼びに行っていた豹の少年が戻って来た。
「これが今回の報酬、そして素材を売った金だ。事前の話し合いの通り、均等に分けるって事で良いな?」
リーダーの言葉に、各々が頷く。事前に計算を済ませていたのだろう、リーダーは「少し待っててくれ」と言うと人数分の小袋を取り出し、お金を分けていく。
さて、報酬も受け取った事だし今すぐにでも立ち去りたい所だけど…認識阻害の効果が薄れている今、こっそり居なくなるのは難しいかな……。かといって素直に一声かけて去るのも変に印象に残りそうで嫌なんだよね………。
少し考えた末、取り敢えず暫くは飲み食いする事にした。酒が入って騒がしくなればこっそり居なくなっても誰も気にしないだろう。
それから1時間が経った頃。どうにか逃げ出す隙を窺っていると、ほろ酔い気分のリーダーが、助っ人としてパーティーに一時加入した私とキースさんを褒めちぎり始めた。
「キースさんは流石エルフなだけあって知識も豊富で助かった」 「ハナコさんも、コントロールには難があるけど、その分威力が高くくて凄い。まだ16歳とは思えない」……などなど。褒め上戸なのか、酒が進む毎にリーダーによる褒めちぎりは加速し、果ては「生きてるだけで偉い」みたいな所までいった。
とまぁリーダーの褒め上戸は置いておいて、それに倣う様に他のメンバーも私たちに対して口々に礼を言い、褒め始めた。
褒められるのは素直に嬉しかったけど、あまり他人と仲良くし過ぎてはいけない身としては、大っぴらに喜ぶよりちょっと感じが悪い位の方が良い。そう思い、「はぁ」とか「ありがとうございます」など気のない返事をする私とは正反対に、キースさんは丁寧にお礼を言いつつも、驕る訳でもなく、寧ろ彼が知る“自分より優秀な人間”について話始めた。
____その話で、私は驚愕の事実を知る事になる。
「ボクがここ最近で一番印象に残ってるのは__アレクという少年なんだ。
彼は私が引きこもっていた森にやって来て、『修行をつけて欲しい』と言ってきたんだ。ボクは人と深く関わる気が無かったから断ったんだけど……問答無用、と言わんばかりに襲い掛かってきてね。応戦する形で、結局彼の相手をする事になった」
キースさんが知る“自分より優秀な人間”の話__その最初に語られたのが、まさかのアレクだった。
これには心底驚いた。まさかアレクがキースさんと関わりがあったなんて…。驚き過ぎて思わず飲んでいたウーロン茶を吹き出してしまったが、皆キースさんの話に夢中だった為気付かれずに済んだ。
問答無用で襲い掛かるなんて、アレクにしてはバイオレンスだなー。虫の居所でも悪かったのかな…。そんな風に思いながら、キースさんの話に耳を傾ける。
「戦って分かったけど、彼は本当に強くてね。その時は知識と技量の差でギリギリ勝てたけど…。
それで、ボクに負けた彼は悔しそうに歯噛みして、もう一度『貴方くらい強くなりたい』と修行を頼み込んで来た。
ボクは聞いたよ。『何故強さを求めるのか』って。そしたら彼は『大切な人を守る為』だと答えた。
……陳腐な話だけど、ボクはその言葉に心を動かされて、彼に修行をつける事にした。
といっても彼は既に十分強かったから、ほんの少しの間___それこそボクらエルフにとっては一瞬と言える時間、魔法の知識や扱い方、魔法薬の調合についてとかを教えただけなんだけど。
でも彼に出会ったお陰で、ボクはある出来事から立ち直ろうと思った。もう一度外に出てみようと。そういうきっかけをくれたって意味でも、印象深い人間だよ」
穏やかな顔でアレクとの思い出を語るキースさん。本当に大切な記憶だったのだと分かる。
キースさんの、「旅の途中で会えたら良いな」という言葉でアレク話は締めくくられ、また次の人物へと話題が移った。その話を右から左へと聞き流し、私は考える。
アレクとキースさんが知り合い___というか師弟関係にあった事には驚いた。アレクからはそんな話は聞いた事がない。けど、キースさんが今この場でそんな嘘をつく必要はないし、嘘をついている顔じゃない。私が知らなかっただけで、多分今の話は真実なんだろう。
____なら、キースさんは私たちの<協力者>になり得るのでは?
キースさんはアレクに対して好印象を持っていた様だし、まだ王宮側の人間では無いので聖女を追い求める理由もない。実際“聖女探し”には不干渉みたいだし。事情を話せば協力してくれそう。
キースさんが味方になってくれれば、いざという時の戦力が増えるし、今回みたいにリリカが一緒にクエストに行けない時に頼れる人が増える。
そして何より、ゲームでヒロインを指導してくれたように、私の事も鍛えてくれるかもしれない。
アレクは私の修行に非協力的だし、ロナルドさんやリリカ、メリアンさんはどちらかと言えば物理寄りなので魔法の修行は難しい。マナリスさんは、ただでさえ受付嬢として忙しいのに最近では魔道具の作製も教えて貰っているので、それに加えて“魔法修行”という負担を増やすのは憚られる。
でも、キースさんはアレクが師事しに行く程魔法に長けてるし、言っちゃなんだけど特に目的もなく旅をしている暇人だ。修行をつける時間はあるだろう。
____攻略対象である事には変わりないけど、ルートに進まないよう注意すればいけるのでは…?
話をするにしても、内容が内容なだけに他に人が居る状況じゃ話しにくい。私もそうだけど“アレク”の存在もあまり印象付けたくないし、この場で深掘りするのは止めておこう。
打ち上げが終わって解散してから、改めてキースさんと2人で話をしてみよう。
ヤンデレスイッチ押さない様に気を付けながら、上手く話して協力を仰がないと。
打ち上げに最後まで参加する事にした私は、遠慮せずに好きな物を注文した。
お代は置いていくつもりだったとはいえ、こっそり居なくなると代金を押し付けるみたいになるから最低限の飲み物だけに留めてたけど、こうなったら晩御飯も兼ねて好きなだけ飲み食いしよ。クエスト攻略でお腹空いてたし。ひたすら食べて空気になっていれば打ち上げも無事終わるでしょ。
そんな事を思いながら、私はテーブルに置かれていた串焼きに手を伸ばした。




