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第4話 ヤンデレ幼なじみは根回しをする

 ルミナとここを立つのは明日の夜。アレクとしては直ぐにでも彼女を連れ去って行きたかったが、逃亡の為にはある程度の準備が必要だ。ろくな準備もせずに出て行って国に捕まる訳にはいかない。折角僕だけのものに出来たのに。



 ルミナとの安全安心な逃避行を続ける為に、出発の前に出来る限りの事はしておかないければ。アレクはまず教会へと足を向けた。





 「神父様、今よろしいですか?」

 「おや、アレク君。どうしましたか?」

 「ルミナの事何ですけど…彼女が聖女だって話は現時点でどこまで広がっていますか?」

 「まだこの村と、報告をした王宮の方々しか知りませんよ。国王もルミナを聖女だと大々的に伝えるのは彼女が王宮に着いてからでしょう」



 つまり、まだ周辺の村や町には伝わっていない。変装は十分して逃げるとはいえ、これ以上情報が広まると身を隠すにも支障をきたす。情報統制と、この後ルミナが姿を消してもなるべく違和感のない様に情報操作が必要だ。アレクは頭をフル回転させ、神父を上手く操る為に言葉を紡ぐ。



 「…神父様、ルミナが聖女だという話はこれ以上広まらない様にした方が良いと思います。王宮からの使者が来るまでの間に、彼女の力を狙う悪い人間がやって来ないとも限らない。彼女がそんな人間に攫われてしまう事だってあるかもしれない」

 「…ふむ。確かに、聖女の身に何かあっては大変だ」

 「それに、王宮からの使者がこの村に来る所を、反王国派がここぞとばかりに襲撃してくる可能性だってある。

 勿論、王宮側もその事を考えているでしょうし、大切な聖女をお迎えするのですから、警備も磐石だとは思います。でも、襲撃が無いに越したことはない。



 ___その為にも、村に箝口令を敷いてルミナが聖女だという話をこれ以上広めない方が良いと思います」

 「……よし、私から村長に話を通しておこう」

 「ありがとうございます!」




 これでルミナが聖女だという話はこれ以上広まらない。次はルミナが居なくなっても不審がられない為にこの神父を操作しなければ。アレクはまた口を開く。



 「それと…ルミナの安全を考えて、僕、使者が村に来るまで彼女に身を隠す様にしたらどうか、と提案しようかと思ってるんです。箝口令を敷くとはいえ、もう既に村の誰かが他所の人に話してしまっている可能性もありますし。ルミナも、聖女として認められた途端、色んな人に囲まれたり擦り寄られたりしたら疲れてしまうだろうし…。



 だから、ルミナが身を隠している間、彼女は教会で修行をしているという事にして貰えませんか?」

 「良いですよ。村の者にはその様に話しておきましょう」

 「重ね重ねありがとうございます。とはいえ、彼女は王宮へ向かう為の準備も必要ですし、身を隠す事になってもその準備も終わってからだと思いますけど」




 「使者が村に着いたら僕が彼女を連れて来ます」とアレクは笑顔で嘘をつく。これで村から彼女の姿が消えても暫くは問題ない。情報操作も済ませ、アレクは用が済んだ、と言わんばかりに神父に適当に挨拶をし、教会を出る。





 次に向かうのはルミナの家。ルミナに会いに行く訳では無い。用があるのは彼女の両親。その人達に、自分がルミナを連れ去る事を話しておく為だ。



 アレクがルミナの両親に全て話すと決めたのは、ルミナの気が変わらない様にする為だ。万が一、家族と過ごした事で、(やっぱり両親に迷惑はかけられない)なんて彼女が思ってしまったら、そして大人しく王宮へ行く事を決意してしまったら。もしくは出発して直ぐ、両親と離れがたくなって家に戻ってしまったら。もしそうなっても、当初の予定通り攫って閉じ込めるだけとはいえ、なるべくそんな事態になるのは避けたい。

 ルミナの決意をより盤石なものとする為に、〈家族〉という心残りを無くす為に、出来れば彼女の両親から彼女の背中を押して貰いたい。ルミナを生み、育てたあの人達ならば、きっとルミナの意思を尊重する選択をとる。そう信じたからこそ、アレクはルミナの両親に全て打ち明け、協力を仰ぐ事にした。





 ルミナの家の前は人でごった返していた。この家の娘が聖女だと判明したのだから当然である。聖女を一目見ようと野次馬根性で群がる者、仲良くしておけば聖女の力や王宮からのおこぼれにあずかれるのでは、と打算的な考えで群がる者、単純にルミナと彼女の両親に祝いと激励の言葉をかけに来た者…。

 そういった人達に囲まれ、家の前で対応しているルミナの両親は疲れた顔をしていた。「ルミナはまだ帰ってません」と答えても引き下がらず、何なら彼女が帰って来るまで居座る気で居るのだからタチが悪い。疲れ果てるのも無理はない。




 ___ルミナが聖女だと判明した途端、彼女に擦り寄ってくるなんて。



 アレクは歯を食いしばる。腸が煮えくり返る。僕のルミナに馴れ馴れしく近付こうなんて…。



 衝動に任せて村人に向けて魔法でもぶっぱなしたい気持ちを必死に抑え、アレクは深呼吸をして心を鎮める。そしてスルスルと村人の間を抜けてルミナの両親のもとへ辿り着く。



 「おばさん、おじさん。こんにちは」

 「!?アレク君…!?いつからそこに…」

 「そんな事より、さぁ、早くお祝いの準備をしましょう。ルミナが帰って来る前に済ませておかないと、折角のサプライズパーティーが台無しですよ」

 「何の話…」



 戸惑う2人にアレクは小声で「話を合わせて下さい」と伝えた。そして未だ群がる村人達に向き直り、貼り付けた笑顔で言う。



 「そんな訳で、これからルミナの誕生日パーティーの準備をしなければいけないので、皆さんはお引き取りを」

 「パーティー!それは良いわね。ぜひ私達もお祝いしたいわ」

 「お気持ちは嬉しいですが、料理の数も限られてますし。何よりルミナはあと何日家族と一緒に過ごせるか分かりません。それなのに貴重な家族との時間を邪魔するのは如何なものかと」

 「それを言うならアレクだって部外者だろう?」

 「僕はこの誕生日パーティーの言い出しっぺなので。せめて準備くらいは手伝わないと」




 「ね?」とルミナの両親に同意を求めると、2人はコクコクと頷いた。「そういう訳で」とアレクは村人達を冷たい目で見据え___言った。




 「お引き取りを」



 怒気を含んだその言葉に、村人達の肩が跳ねる。アレクの力についてはこの村の誰もが知っている。彼がどれだけルミナを大切に思っているかも。そんな彼の前で、これ以上ここに居座って彼女達に迷惑をかけるなど___出来るわけがない。そんな度胸のある命知らずなどこの場には存在せず、村人達は「じゃ、じゃあ…」と怯えた様子で去って行った。





 「ありがとう。助かったよ、アレク君」

 「いえ」



 アレクは先程までの冷たい目が嘘の様な穏やかな顔で答える。


 そのまま家に上がらせてもらうと、ルミナの母がお茶を入れて持って来てくれた。1口お茶を含み、アレクは真剣な顔でルミナの両親に向き直る。



 「…実は、大事な話があって来ました。ルミナの事です」



 アレクは2人に全てを話した。ルミナが王宮に行きたくないと嘆いていた事、王宮から、この国から逃げ出したいと思っている事、そんな彼女の望みを叶える為に、自分はルミナと共に明日の夜にでもこの村を立ち、逃げ出すつもりである事、ルミナもそれを了承している事。嘘はつかず、しかしルミナの思いを最大限に誇張して伝えた。



 2人は、黙って話を聞いていた。そして話が終わると、ようやく口を開く。



 「…話は分かった。アレク君、本当にそれで良いんだね?ルミナを…聖女を連れて国を出るという事は国を裏切る行為だ。ルミナの為に、国家反逆の罪に問われても、彼女を恨まず、支えてくれると約束出来るか?」

 「勿論です。彼女は僕が一生をかけて守りますし、生涯彼女のそばにいます」



 即答だった。むしろ死んでも離れない心算だ。いくらルミナがアレクから離れたいと願っても、絶対に離す気は無い。




 決意に満ちた顔で答えるアレクを見て、2人は完全に彼を信用してしまった。彼の重すぎる感情に気付かぬまま、「ルミナをよろしくお願いします」と頭を下げた。






 ルミナの両親への挨拶を済ませたアレクは自宅に戻っていた。愛用しているレターセットを取り出し、手紙を綴る。知り合いの商人や冒険者に協力を仰ぐ為だ。アレクは人情に厚い面々をピックアップし、彼らに対して手紙を送る。その文面は大まかに言えばこうだ。



『王宮に囚わそうになっている幼なじみの女の子を、この国から逃す為に村を出ます。もし、道中出会ったら力を貸して下さい』



 なるべく同情をひく文章を綴り、アレクは手紙を出した。他国に居る知り合いにも同じように手紙を出した。これでルミナの事を〈王宮に狙われる哀れな少女〉と思った彼らが手を貸してくれるだろう。



 ______これで大体の用事は済んだかな。



 明日は荷造りと有効な魔法薬作りにあてる事にして、アレクは体力を温存しておく為にもその日は眠りついた。


 ・・・・・


 次の日。アレクは朝から上機嫌で荷造りと魔法薬作りを進めていく。とうとう今日がここを立つ日。これからルミナと2人だけの生活が始まると思うと嬉しくて仕方ない。じっとしているのも勿体なく感じて、荷造りと魔法薬作りが終わった頃にはもう日が傾き始めていたが、ルミナの様子を見てこようと家を出る。


 追跡魔法で辿ったルミナの痕跡が教会へと続いているのを見て、アレクの目からハイライトが消えた。まさか一晩経って聖女としての使命に目覚めたとか言わないよね?暗い想像をしているアレクにルミナの方から声をかけてきた。ふらついた彼女を見て、アレクは直ぐに駆け寄った。



 「ルミナ、大丈夫?何だか疲れてるけど…」

 「大丈夫。ちょっと逃亡の為に鍛えてただけだから」

 「……それなら良いけど。夜に向けてちゃんと回復しなきゃダメだよ?はい、これ。疲労回復の効果がある特製魔法薬」



 聖女としての使命に目覚めたわけでない事に胸を撫で下ろし、アレクは少しの会話を交わし、彼女と別れた。家まで送り届けたかったが、ルミナが「そこまでしなくて良い」と言うのでので後ろからこっそり見守るだけに留めた。彼女が無事家に着いたのを確認すると、アレクも自宅へ戻る。





 そういえば母さんと父さんに村を出る事伝えてないな。ようやくその事に気付いたアレクは、夕食の席でその話を切り出した。



 「僕、今日の夜ルミナとこの村から出ていくから」

 「あらそう、気を付けてね」



 まるで「明日友達の家に行ってくる」とでも言う様に軽く切り出せた話に彼の両親はつい軽いノリで返してしまった。一拍遅れて言葉の意味を理解すると、2人は「……えええ!?」と驚く。「どういう事!?」と尋ねる2人にアレクは面倒くさそうに説明した。



 ルミナの両親にしたのと同じ様な話を聞いて、アレクの両親は深いため息をついた後、「お前は本当ルミナちゃんが好きだな」と呆れた様に呟いた。



 「話は分かった。好きにすると良い」

 「ルミナちゃんを泣かすんじゃないわよ」



 アレクがルミナに重い恋心を抱いている事を知る2人は_____といっても実際は2人の想像以上に重くて歪んでいるのだが_____こうなったアレクに何を言っても無駄だと半ば諦めた様子で彼を送り出した。




 こういう話が早い両親で良かった。変に騒がれたり反対されたら例え実の両親とはいえ“対策”をとらなきゃいけないところだった。

 アレクは両親に感謝しつつ、出発の時を待つ。




 _____あぁ楽しみだ。ルミナと2人だけの愛の逃避行がもうすぐ始まる。


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