第37話 ヒロインと世界の修正力?
アレクがグライスを経って直ぐ、カイン王子たちが動き出した。
方位磁針___追跡の魔道具を確認したカイン王子は、グライスでの聞き込みを止めると直ぐに宿に戻って支度をし、騎士団を連れて町から去った。
ロナルドさんの予想通り、カイン王子たちが追っていたのはアレクの痕跡だった訳だ。アレクがシーガイドに向かった事で、王子たちも彼を追って行った。
一先ずの危機を乗り越え、隠れ家でホッと息をつく。アレクなら上手いこと彼らをあしらってくれるだろう。
さて、アレクはそのままダンジョン攻略も済ませてから戻ってくる。海底ダンジョンが攻略されない限りシーガイドから船を出すのは危険なので、どのみちダンジョン攻略が終わるまで国を出る事は出来ない。コタローさんとも『ダンジョン攻略が終わってから集合』という話で纏まったらしい。
そんな訳でダンジョンが攻略されるまで___つまりアレクが戻ってくるまで私には時間がある。この時間を有効活用しないと。
レベル上げを兼ねたクエスト攻略はリリカが付き合ってくれる。基本的には私一人で行い、手が必要な時や、どうしても助けが必要な場合リリカが割って入る、という形に落ち着いた。
ロナルドさんの娘的存在なだけあって、リリカの実力はかなりのもの。加えて、私はまだ直に見た事がないが相手の魔力を奪う“奥の手”も存在する。私の友だち優秀過ぎない?
そんな訳でカイン王子が居なくなったあと、少し休憩してから私はリリカと一緒にクエストを受けた。しかも少し難しいクエストだ。
クエスト内容は【鉱石採取】というありふれたものだが、如何せん場所が少々グライスから離れた洞窟で、魔物もダンジョン程ではないけど存在する。
場所が遠い以上、途中で野宿をしなければならない。また、道が悪いので馬車を使う訳にもいかず、泊まるのはテントだ。
ここに来るまで野宿はしてきたけれど、殆どアレクが改造した馬車でのものだった上に、彼による結界や、ミラによる見張りも無いので普段よりも危険な野宿となるだろう。いや、今までが快適過ぎただけなんだけどね………。
国を出て、アレクと別れたのならその後は自分一人で生きていかなければならない。住処だって早々に見つかるものではないし、野宿にも慣れておかないと。そんな思いもあって今回のクエストを受けた。
「ルミナも真面目だよね〜。第一王子騒動で大変だったんだし、少しくらい休めばいいのに」
「そうもいかないよ。アレクだって囮役をやってくれてるんだし、その後にダンジョン攻略だってあるのに…。私だけ休んでられないよ」
クエストに赴く為の準備中、リリカが呆れたようにため息をつく。その顔には『仕方ないなぁ』と書いてある。
「そんな心配しなくても大丈夫だよ。もし何かあれば依頼放棄して戻ってくるってマナリスさんとも約束したし」
リリカもマナリスさんも、そして町の人たちも。カイン王子の登場による私の精神的負荷を心配してくれるのはありがたいけど、ちょっと過保護過ぎやしないか。アレクの過保護が移ったのかな…。
今回のクエストだって私一人で行くつもりだったのに、リリカを連れて行かないと許可出来ない、と言われてしまったし。リリカは頼りになるし、二人でのクエスト攻略も楽しそうだから良いけど……。
「ま、ルミナの事はアタシがしっかり守るから、大丈夫だと思うけど!
でもでも、その代わり絶ッ対にはぐれないでね!」
「子供じゃないんだから大丈夫だよ……」
と言ってから、『あれ?コレってフラグ??』と思ったのは内緒だ。
・・・・・
____見事にフラグを回収しました。
入り組んだ洞窟内で私は一人立ち竦む。
グライスを出て、野宿をして、目的の洞窟まで来れた所まで良かった。テントの設営や、いつもはアレクが勝手に進めてしまう薪拾いや焚き火などもリリカに教わりながらも自分で出来たし。
一夜明けていざ鉱石採取をしに洞窟に入り、鉱石を採る所までも順調だった。度々魔物に遭遇したものの、大体1匹や2匹で群れではなかったので問題なく対処出来た。
必要な量の鉱石を採取し、さてそろそろ帰ろうかとリリカと二人で洞窟を移動していたら___
突然、蜘蛛の群れが現れた。
普通の蜘蛛ではなく魔物の一種で、力は強く無いものの数の多さと糸が厄介だった。加えて、唐突に物凄い数の蜘蛛がワーッと這い出てきた為、ちょっとパニックになってしまい、魔法のコントロールも滅茶苦茶になってしまった。
故郷の村でも野宿の最中も散々虫を見てきたので前世よりは大分虫に慣れたとはいえ、流石に突然大量に出てきたらビビるよ……。今思い出しても背筋が震える。
パニックになる私を見てリリカも焦ってしまい、二人で蜘蛛を散らしつつ、てんわやんわと逃げ回っていたら見事にはぐれました。そして洞窟も結構入り組んでいたのでもうどこからどう来たのか、出口はどっち方向なのかも分からない。完全に迷子である。
困ったな…。リリカも大丈夫か心配だし……。
こうやって逸れるのを防ぐ為、外していた認識阻害マントのフードを被る。これで魔物にも気付かれにくくなるので、襲われるリスクは減る。
しかし同時にリリカから見つけて貰うのも難しくなるので、私が彼女を見つけるしかない。念の為、逸れたら入口集合という約束をしていたので、取り敢えずは入口に向かいたい所だけど…。
「その入口がどこだか……」
三つに別れた道を見て、私はため息をつく。どこから来たんだっけ。そもそもさっき蜘蛛の魔物が現れた場所はどんな所だったか、それすらも覚えていない。
クッ…こんな事ならちゃんと目印でも付けておけば良かった。何事もなく採取まで済んだから完全に油断していた。
こういう時に使えそうな道具も魔法もスキルも私は持っていない。ただひたすらに勘で歩いて回るしかないか…。
索敵スキルを発動させながら、右へ左へ前へ後ろへと勘で歩く。時折立ち止まって風の音から入口までの道を見付けられないか試してみたけれど、上手くいかない。
心細くなって、頼りになるチート幼なじみが恋しくなる。その度に沈みそうになる気持ちに、『1人で生きていけるようにならなきゃいけないんだから』と喝を入れる。
そうして進んでいると、少し先に人影が見えた。もしやリリカ!?と一瞬期待したものの、影は彼女より背が高い。違うみたいだ。
………どうしよう。いっその事あの人に声を掛けてみようか。私の事がバレないか不安ではあるけど、このままじゃ洞窟から出られる気がしない。危険を承知でもあの人に道を聞いた方が…!
覚悟を決めて、私は件の影に声を掛ける。
「あの!!」
「…っ!?」
認識阻害マントのお陰で私に気付いてもいなかったその人は驚いて振り向くと、暫く不思議そうにキョロキョロと辺りを見回す。そんな彼(もしくは彼女)に向かって私はもう一度声を掛ける。
「ここです。驚かせてごめんなさい。
あの、私冒険者で…依頼でこの洞窟に来てたんですが、仲間と逸れて迷ってしまって……もし、洞窟を出る道を知っていたら教えて貰えませんか?」
「あぁ、そういう事ならボクも洞窟から出る所だから、一緒に行こうか」
そう言われて、逡巡する。一緒に行動か…。この人からしたら私の姿はよく認識出来ていないだろうし、道中余計な事を喋らないように気を配れば大丈夫かな…。
どのみちこのままじゃ洞窟から出られないし、ここは私の正体がバレないように気を付けるしかない。気を引き締め、私は「お願いします」と頷いた。
予想に反して特に会話も無いまま、私は同行者(仮)の少し後ろを歩いて付いていく。
同行者(仮)は、私のように深くフードを被っていて顔はよく見えない。声のトーンと身長から男性だとは思うけど。
無言で歩くのはかなり気まずくてしんどいが、だからといって私から話しかけたら余計な事まで言ってしまいそうで押し黙るしかない。
同行者(仮)も、そんな私の雰囲気に何か感じ取ったのか、はたまた単純に認識阻害マントのせいで私の存在が頭の隅に追いやられているのか分からないが、特に喋りかけてくる事もなく、コツコツという足音だけが響き渡る。
「___もうそろそろ洞窟から出られるよ」
「ふぁ!?
……あ、はい」
沈黙にひたすら耐え抜いていたら、急に声を掛けられて変な声が出てしまった。同行者(仮)はそんな私を見てクスクスと笑う。
「驚かせてゴメンね」
「いえこちらこそ…奇声を上げて申し訳ないです……」
「奇声だなんて。可愛らしい鳴き声だったよ」
フードの奥でいたずらっぽく笑いながら彼が言う。何だか言動がアレクを思わせる。…アレクの場合はルミナ《私》への好意からくるものだけど、この人の場合はリップサービスに近いものだろう。
____そういえば、【王宮ラビリンス】にも女性へのリップサービスが得意なキャラが居たような…。
そこまで考えた所で、同行者(仮)が「ほら、見えてきたよ」と前を指さす。前を見れば、外の明かりが見える。その奥には洞窟の出入口。
そこから洞窟を出た私は、久しぶりに感じる外の空気を目一杯吸い込むように深呼吸をする。
「ありがとうございました。お陰で無事洞窟から出られました」
「気にしなくていいよ。…それより、あそこで誰かを心配そうに待っている女性が、キミの仲間かな?」
「あ!」
同行者(仮)が指をさす方を見ればそこにはリリカが心配そうに眉を下げて洞窟を見ていた。やっぱり認識阻害マントのせいで私には気付いていない。
「リリカ!」
「!ルミナ!!」
私が声を掛けて漸く私の存在に気付いたリリカは、慌てて駆け寄ってくる。
「心配したよー!怪我してない?大丈夫!?」
「平気だよ。リリカこそ大丈夫?」
「うん!」
二人でキャッキャウフフと無事を確かめ合っていると、ふとリリカが「こちらは?」と同行者(仮)を示して尋ねてくる。
「この人にここまで案内して貰ったんだ」
「そうなんだ…。
あの、アタシの友だちを助けてくれてありがとうございます」
深々と頭を下げるリリカに、同行者(仮)は「構わないよ」と手を振る。
「無事合流出来たみたいだし、ボクはこれで」
そう言って同行者(仮)がこの場を去ろうとすると、突然突風が吹く。私は慌ててマントをフードを抑えた。
リリカも手伝ってくれたお陰で私のフードは脱げなかったものの、同行者(仮)のフードは外れてしまった。露わになった彼の顔を見て、私は目を見開く。
サラリと風に靡くプラチナブロンドの髪と、エメラルドグリーンの瞳。そして何より特徴的な、尖った耳____。
隠し攻略キャラクター、エルフのキーツさんでは!?
「いきなり凄い風だなぁ…。キミたちは大丈夫だった?」
キーツさんは気遣うように私たちを見る。私は動揺していてコクコクと無言で頷くことしか出来ない。
幸いにもキーツさんはそんな私を不審に思う事なく、「それじゃあね」とフードを被り直すと今度こそ去っていった。
「凄い風でビックリしたね〜
って、ルミナ!?顔色悪いけど大丈夫!?」
「……ダイジョブ」
「いや絶対大丈夫じゃないでしょ!」
「早く帰ろ!」と言ってリリカが私の手を引いて駆けていく。されるがまま付いていきながら、私はボンヤリと考える。
エルフのキースさんは、実は何代か前の“聖女”と知り合いで、キースさんは彼女に恋心を寄せていた。しかし、その聖女もヒロインと同じ様に王宮へ連れて行かれ、戦いの中で戦死してしまう。
それを知ったキースさんは深く悲しみ、暫く引き込もって俗世から離れて生活していたが、漸く立ち直ってまた人の世に出た。
しかし如何せんエルフなので時間感覚が狂っており、彼が出てきた頃にはもう100年程が経っていた。
変わった世の中についていく為情報を集めていた彼は、今代の“聖女”___つまりヒロインの事を聞き、かつての“聖女”を守れなかった罪悪感からヒロインの助けになろうと王宮へやって来る。
エルフだけあって魔法の才能も高く、知識も豊富だったキースさんは無事魔術師として採用され、ヒロインのお助けキャラとして___魔法関連のステータスやスキルを強化していくと出現する___奮闘する。
お助けキャラなので、正規に進めているだけではちょっとしたイベントに出てくる程度であるが、実は攻略可能な隠しキャラクターであり、キースさんの出現条件を満たし、育成を通じてイベントを起こしていくとルートに入る。そしてかつての“聖女”の話などを聞く事が出来るのだが…。
キースさんは“聖女”の話が広まってから王宮へ来るので、登場自体は大分終盤だ。そしてこうしてここで出会ったという事は、まだ王宮に着いていないのだろう。
彼は王宮に向かう途中なのか、それとも〈聖女失踪〉の話を聞いて単独で聖女を探し回っているのか…。今の段階じゃ分からない。
____というか、リリカと逸れてキースさんと出会った事といい、さっきの突風といい…なんか…考えすぎかもしれないけど、世界の修正力みたいなものが働いている気が…。
国から出る日までもうそう遠くないというこのタイミングでの、カイン王子とヴァン団長のグライス訪問と、キースさんとの出会い…。何かの意思が働いている気がしなくもない。
………取り敢えず、キースさんがグライスに来ない事を祈ろう。…物凄いフラグな気もするけど。
不安に包まれながら、私はグライスへと戻って行く。




