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第34話 暫しの別れ



『第一王子達が本格的に“2人組の冒険者”を探し回っている』




そう教えてくれたのはロナルドさんだった。私たちは険しい顔でテーブルを囲む。





「今朝から急に探し回り始めてな。まるでこの町に居ると確信している様だ」





ロナルドさんが硬い声でそう言った。



なんで…昨日まではそんな様子じゃなかったんでしょ?もしかして、誰か王宮側の人間に私たちの姿が見られた?……でも町の人から報告を受けてから認識阻害マントは羽織っていたし、後をつけられていないか何度も確認した。アレクの索敵スキルから逃れられる人間はそうそう居ない。




なら、誰かが情報を漏らした?……それはあまり考えたくない。ここ暫くグライスで過ごして、ここに住む人たちの良さは十分に知った。私たちを……というより、私たちを匿うと決めたロナルドさんを裏切る様な人が居るとは思えない。




「___昨日、カイン王子と…恐らく騎士団長と思しき人間は俺とずっと話していた。アイツらがギルドから出て行ったのはアレクと嬢ちゃんが隠れ家に着いて随分経ったあと。その後は宿屋に真っ直ぐ帰ったのをメリアンが見ている。



勿論、俺を含めギルドに居た連中はお前らの事を一切話してない。宿屋の主人にも確認したが、昨日は特に何も聞かれなかったそうだ」

「___けど、今朝になって急に動いた」




ロナルドさんの言葉を受け継ぐようにアレクが呟く。その声に温度はない。




「……正直な話、僕はロナルド達は信用しているけど、それ以外はまだ信用し切れていない。誰かが情報を漏らしたんじゃないの?」

「まぁ、無くはない。町の奴らだって誰もが皆、お前らを受け入れてる訳じゃねえし、俺に反発する奴も少なからず居る。金や成果に目が眩む奴も。


そもそも、冒険者ギルドがある以上、この町にはお前らみたいに冒険者として来て暫く滞在する奴も居る。そういう奴らにとってこっちの事情はお構いなしだからな。そういう奴らに情報が回らない様気を付けてはいるが、どうしたって完璧に伏せるのは難しい」




ロナルドさんはアレクの言葉に怒るでもなく、淡々と続けた。




「___だが、今回に限っては誰かが情報を漏らしたからバレた訳じゃねぇ」

「___根拠は?」

「宿屋の主人、そして町の奴らの話じゃあカイン王子は度々懐から方位磁針を取り出して確認してたそうだ。



方位磁針自体は旅人が持っていてもおかしくねぇ道具だが、森の中でも迷宮の中でもねぇこんな町中で何度も確認する必要は無いだろ。



となるとアレは方位磁針じゃあなくて___魔道具だろう」




___魔道具。ソレが私たちがこの町に居ると確信した理由?



アレクはロナルドさんの話を聞いて、数秒、何かを思い出す様に目を閉じる。そして目を開けた彼は静かに呟いた。




「___追跡の魔道具。それもこうしてここまで追ってこれるという事は、王宮に保管されている、国宝級の魔道具だ」

「あぁ。俺たちも同じ見解だ」





追跡の魔道具?しかも国宝級……。そんなものゲームには登場した記憶はない。追跡の為の道具だとして、どうやって使うもの何だろう。



私の疑問を察してか、アレクが簡単に説明してくれた。




「カイン王子が持っているのは、恐らく王宮に保管されているハイランクの魔道具だよ。


ソレに追跡したい者の痕跡を入れれば___たとえどこに居ても、どれだけ離れていようと、その者が居る方向を指し示してくれる」

「え……」




何その激ヤバ魔道具!?私たちにとって天敵とも言える魔道具じゃん!



そんなものを持ち出してくるとは……カイン王子も相当本気だ。





「王子が追跡の魔道具を使ってるとして、問題はいつ何処でお前達の“痕跡”を手に入れたのか、だ。心当たりは?」

「………一度だけ、カイン王子たちとすれ違った事はあります。喋るどころか顔も合わせてませんけど…」




心当たりと言えば、ドラゴンに襲われていた王子たちを助けた時くらいだ。遠くから魔法で助けて、私たちは姿を現す事なく立ち去ったけど……。




そうした経緯をロナルドさん達に簡単に説明する。話を聞き終えたロナルドさんは「ふむ」と顎に手を当てる。




「話を聞く限り、助けてくれた人間が“聖女”だとはその時点では確信出来ない。にも拘わらずあの魔道具を使用した事には疑問があるが……一先ずそれは置いておく。



現状分かるのは、カイン王子はその時“痕跡”を手に入れたって事くらいか」





“痕跡”はその人固有のものなら割と何でも良いらしい。体液でも、皮膚でも、髪の毛でも、魔力でも。カイン王子があの場で“痕跡”を手に入れたとしたら、可能性が高いのは髪の毛か、魔力か。





「___今俺たちで推測出来る事はこんなもんか。



じゃあ次はどう対処するかって話になるが…」

「その魔道具破壊すれば良いんじゃないの?」




今まで黙って話を聞いていたリリカがそう提案する。確かに魔道具を破壊してしまえば彼らはもう私たちを追っては来られない。けど___




「破壊には賛成だけど、今じゃない」

「どうして?」

「多分、彼らは僕達がこの町に居るとは確信出来ていない。そう断言出来る程の材料が向こうには無いんだ」

「何でそう言えるの?」

「簡単な事だよ。彼は第一王子だ。その気になれば権力を振りかざして町中を検める事だって出来る。でもそれをしないで、彼らは自分の身分すらも明かさずに嗅ぎ回っているだけ。



もし本当にルミナがこの町に居ると確信しているのなら、出し惜しみしてる暇は無いはずだ。直ぐにでも身分を明かして詰め寄るだろう。



___それをしないって事は、まだ確信出来ていないって事」





その通り。本当に居るかどうかも分からない聖女の為に権力を振りかざして町中をひっくり返して探して、町の人々に尋問して……それでも見つからなかったら、第一王子の信用は落ちるし、王宮の外聞も悪くなる。確信していない以上、あまり権力を振りかざす訳にもいかない。




そして彼らがまだ私たちがここに居ると心の底から信じていない以上、焦って魔道具の破壊に乗り出すのは良くない。それをしてしまえば、少なくともこの町の人間が聖女()と関わりがあると___私を助ける為に動いていると分かってしまう。そしたら第一王子としての権力を振りかざす理由も出来てしまう。





同じ事をアレクがリリカに説明し、焦って魔道具の破壊に乗り出すのは得策ではない、という結論に落ち着く。





ならどうする?魔道具を破壊するにしても、グライスから離れてからじゃないと町に被害が出てしまう。

そもそも、相手が追跡の魔道具を持っている以上、ずっとここに居る訳にはいかない。何日も魔道具がこの町を指し示していたら当然、疑いは増していく。




___そうなると、やっぱり……。




「___この町から離れる。それが一番の対処法だな」




ロナルドさんは頭を掻きながらそう言った。途端にリリカが驚き、そしてしょんぼりと眉を下げる。




___やっぱり、私たちが今すぐここを立つのが一番良い。そして隙を見てカイン王子が持つ魔道具を壊せれば……。



ここから離れる事になるのは寂しい。急すぎて全然心の準備も出来ていない。……でも、元々いつかは立つつもりだったんだから、それが早まっただけだ。





「___そんな顔すんな、嬢ちゃん」




ロナルドさんは優しい声でそう言った。そして予想外の言葉を紡ぐ。






「ここから出るのはアレクだけだ」

「___え?」




アレクだけ?何で??寧ろ私の方がカイン王子たちにとって本命なんだから、去るべきは私では??



クエッションマークを浮かべる私に、ロナルドさんは説明を続ける。




「カイン王子が手に入れた“痕跡”___それは恐らく嬢ちゃんじゃなくてアレクのモンだろう。つまり、あの魔道具は正確に言えやぁアレクの場所を示している。



どっちみちアレクは近い内にダンジョン攻略に旅立つ予定だったし、予定を早めてアレクだけシーガイドに向かえばいい。もしそれでカイン王子がアレクを見つけても、本命の聖女様じゃねぇ。


情報を聞き出す為に尋問されても、あそこは港町だし『既に聖女は船に乗って旅立った』とか言って誤魔化せる。流石の王子サマでも出航しちまった船を止めるのは容易ではねぇし、他国に渡っちまった聖女様を追い掛けるのも直ぐには無理だろ。十分時間は稼げる」




そう言ってロナルドさんは安心させる様に笑った。




「ロナルドさんの言う事は分かりましたけど……そもそも、“痕跡”がアレクのものだってなんで分かるんです?」

「状況的に使われた痕跡は髪の毛か魔力。そして状況的により確定でお前さんらの“痕跡”となり得るのは魔力だ。髪の毛じゃ、落ちててもお前達のだと確信出来ないし、そもそも森の中じゃ見つけるのも一苦労だ。



そんで魔力が痕跡とされたのなら、その“魔力(痕跡)”はアレクのもの。嬢ちゃんのバフもかかってるとはいえ、いくら国宝級の魔道具といっても、バフ程度の魔力を感知するのは無理だろ。アレクは魔力が強いしな」




成程。確かに魔力を痕跡として使用してるなら、魔道具がアレクを指しているというのも納得だ。





「てな訳で、アレクには早急にシーガイドへ向かって欲しいんだが……」




ロナルドさんがチラリとアレクの顔色を伺う。今まで口を挟まず無表情でロナルドさんの話を聞いていたアレクは___





「分かった。直ぐに準備するよ」




意外な程あっさりと、ロナルドさんの提案を受け入れた。




「ただし、もしロナルドの予測が外れて魔道具がルミナを指し示していた場合、僕はダンジョン攻略も放棄して戻ってくる。良いね?」

「あぁ。その時はそれで構わん」

「王子達が僕を目指して移動を始めたかどうかの確認はミラを通じて行おう。ある程度なら離れていても“念話”スキルが使えるし、いざとなればミラを走らせてくれれば良い」

「分かった」




トントン拍子に話が進んでいく。私は口を挟む事も出来ず、ただ成り行きを見守る。





ある程度話が纏まると、アレクは私に向き直る。そして真っ直ぐ私を見つめる。




「暫くは離れ離れになるけど……ダンジョン攻略をして、魔道具も破壊したら直ぐに戻ってくるから待っててね?」

「___うん」




私もアレクを真っ直ぐ見つめて頷く。突然ではあるけど、どのみちダンジョン攻略中は離れる事になる予定だったし、ちゃんとミサンガも渡せているので未練はない。





「行ってらっしゃい、アレク」

「___行ってきます」




私の笑顔の見送りに、アレクは微笑んで返してくれた。


・・・・・





「___随分とあっさり受け入れたな。もっと抵抗されるかと思ったが」

「ロナルドの言う事は一理あるし、ルミナに危険が及ばないで済むならそれで良い。どうせ2、3日すれば招集がかかって暫く離れないといけないし」




出立の準備をする為、こっそりとギルドに戻ったアレクにロナルドが声を掛ける。アレクは普段と変わらない様子だった。急にルミナと離れる事になったにも拘わらず、抵抗もなしに粛々と支度を始めている。




ロナルドの見解が合っているのか___アレクがグライスを出たとして、カイン達が追ってくるのか。それは分からない。だが、そうなって欲しいとアレクは思っていた。そうでなければこうして離れた意味が無い、と。








「___さて、ルミナが居ない内に無事始末出来ると良いんだけど」





アレクの呟きは、誰の耳にも入る事なく消えていった。

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