第33話 隠れ家へ
第一王子がこの町に来ている。
それを聞いた私の顔は多分真っ青になっていたと思う。先程までの楽しさや気恥しさはどこへやら。自分でも分かるくらい血の気が引いた。
なんで、どうして。確かに道中彼の事は見掛けたものの、こちらの姿は見せていないし、あれから殆どどこにも寄らず、グライスへと一直線に進んで来た。私たちの目撃情報を集めてここに辿り着いたとは考えられない。なら、偶然?それとも世界の修正力?
いや、そんな事よりこれからどうしよう。カイン王子が居なくなるまでここから離れた方が良いのかな。それともどこかに匿ってて貰う方が安全?
ぐるぐると考えが巡る。目を回しそうになった私を引き止めたのは、アレクの声だった。
「ルミナ、落ち着いて。取り敢えず移動しよう。
ロナルド達の事だから、こういう時の隠れ家は用意しているでしょ?君、その場所知っている?」
「あぁ。マナリスさんから教えて貰った。こっちだ」
「行こう、ルミナ」
アレクが私の手を引いて歩き出す。お陰で急に現れた攻略対象に動揺していた気持ちが少し落ち着いた。
それにしても、隠れ家まで用意してるなんて…流石アレクの友だち、用意周到。
町の人に案内され、隠れ家へと向かう。長年この町に住んでいないと知らないような抜け道を通り、町の隅っこに辿り着く。そこには古びた平屋が建っていた。蔦に覆われていて、一見すると家だとすら分からない。
「ここだ。町の奴らで修繕したとはいえ、ボロ屋で申し訳ねぇが…」
「十分です。ありがとうございます」
礼を言って中に入る。見た目はボロいけど、中は意外と整っていた。床は少し軋むものの、今すぐに抜け落ちてしまいそうという不安はない。掃除もされていたみたいで、埃っぽいという印象も受けない。
「暫くはここで身を潜めよう。早く王子達が出て行ってくれると良いけど」
「うん…」
町の人に話を聞いた所、カイン王子達は積極的に私たちを探し回っている訳ではないそうだ。“2人組の冒険者”について聞かれた人もいたらしいけど、明確に“聖女”について尋ねられた人はいない。仲間と思しき騎士団の人たちも、ただ羽を伸ばしている様子で聖女について聞いて回っているわけではない。それとなく聞いてくる人もいるみたいだけど、「知らない」と答えればそれで話は終わるらしい。積極的に調べている訳じゃないなら、ここに立ち寄ったのは本当に偶然なのかな……。
聖女探しの途中で立ち寄っただけなら直ぐに移動してくれるだろう。というかそうでないと私の胃が死ぬ。既にキリキリと痛むのに、これが何日も続いたら胃に穴が空きそう。
「______大丈夫だよ。何かあったら僕に任せて。絶対に君を渡さないから」
私の緊張を察してか、アレクが強い意志を込めた言葉を投げ掛ける。………「絶対に」が強調され過ぎててちょっと背筋が震えた。私までブルってしまうほど気合い入れなくても良いんじゃないですかねアレクさん………。
ちょっとだけ第一王子達に同情しそうになりつつ、夜は更けていく___。
・・・・・
隠れ家にて一夜を明かした私たち。寝具は用意されていたけれど、不安もあって結局一睡も出来なかった。朝日が目に染みる…。
特に何を話すでもなく、アレクとテーブルに座ってぼーっとしていると、徹夜明けの頭を覚ます様な元気な声が響いた。
「お邪魔しまーす!
あ、2人ともおはよう!早起きだね」
元気よく入ってきたのはリリカだった。手にはバスケットを持っている。
「リリカ、一応僕達隠れている身なんだから、あまり大きな声を出さないでくれるかな」
「あ!ごめん…」
アレクが顔を顰めてリリカを諌める。途端にしょんぼりするリリカ。
確かにアレクの言う通りではあるけど、多分リリカはわざと明るく振舞っているんだろう。自分まで不安そうな顔をしていたら余計に私たちを不安にさせると思って。その優しさが今の私にはありがたい。現に彼女の笑顔を見たら少し気持ちが晴れた気がする。
「朝ごはん持ってきたよー。マナ姉は忙しそうだったからアタシが作ったやつだけど…味は保証するよ!」
「ありがとう」
リリカは手早くバスケットから朝食を取り出す。紙に包まれたハンバーガーだ。カリカリに焼かれたバンズに、肉厚なパティ、フレッシュなレタスやトマト、とろけるチーズが挟まったシンプルなハンバーガー。
そういえば昨日は夕飯を食べそびれていた事に気付き、正直な私のお腹がグゥと鳴る。それを聞いたアレクとリリカはふふっと笑った。……肉体的には16歳で食べ盛りなんだから仕方ないでしょ。
「デザートもあるから、たーんとお食べ!」
「……頂きます!」
お腹が空いているのは事実なので開き直ってハンバーガーにかぶりつく。ジュワと肉汁が溢れるパティと、それを包み込むチーズと野菜。ジャンキーな美味しさが空腹に染み渡る。
黙々と食べ進めていると、ふと視線を感じて顔を上げる。……こちらをジッと見ているアレクと目が合った。彼は食べ盛りの子供を見つめる親の様な顔をしていた。今にも自分の分も分け与えてきそうだ。
「僕のも少し食べる?」
…………本当に言ってきた。勿論丁重にお断りしたが、何故かアレクは至極残念そうだった。本当に親の心境になってないかこれ。
朝食を食べ終わり、デザートのクッキーも平らげ、リリカから昨日の話をかいつまんで聞く。
幸いにも第一王子と騎士団長はロナルドさんに興味があったらしく、昨日は町に来てから殆どの時間、彼の話を聞いていたらしい。色んなエピソードを引っ張り出して___勿論アレクが出てくる話はナシで____頑張って足止めをしてくれていた。ありがたい。
ロナルドさんの話が終わると真っ直ぐ宿屋に帰ったみたいで、今の所その後の動きはない。騎士団員と思しき人達の動きから、この町にはただ補給の為立ち寄った説が濃厚だ。鍛冶屋のおじさんの話によると、剣のメンテナンスに来た人が「明日までに終わるか」と聞いてきたらしい。
「このままここで大人しくしてれば大丈夫だと思うよ」
リリカの言葉にほっと息を吐く。居場所がバレたのかと戦々恐々だったが、ひとまずバレては無さそうで安心した。このまま立ち去ってくれれば、暫くは安心してこの町に居れるかも。
____そんな考えを覆す報告が来たのは、それから僅か1時間後だった。




