第31話 ヤンデレ幼なじみと束の間の幸せ
デート当日___。
「それじゃあ行こうか」
アレクは誰が見ても分かる程ご機嫌な様子でルミナの手を取る。
普段のルミナはアレクが誂えた騎士風の装束を身にまとっている。タイトなパンツスタイルで、アレクの意図により露出は少ない。その上認識阻害マントを羽織れば、シルエットだけなら男か女かも分からない。
しかし今のルミナはフレアスカートとブラウスを中心とした、上品で大人っぽいスタイルだ。髪も緩く巻かれている。きっとリリカ達と相談して用意したのだろう。
いつもと違う姿というのもあるが、何より自分とのデートの為にアレコレ考えてくれた事が嬉しくて、アレクのテンションは既にうなぎ登り。自分以外が作った服を身にまとっているという事実にも目を瞑れる。
きっとルミナは上品な服装をしてくるだろうと予想していたアレクも、彼女に合う様に大人っぽく見える服を選んだ。普段は汚れの目立ちにくい黒を好むが、今日ばかりは普段と違う雰囲気を出したかった事もあって白を基調としている。
「行先は決まってるの?」
「ううん。適当に歩いて買い物したり、お茶したりしようかなって」
「そっか。じゃあ先ずはあっちに行ってみようか」
ここ暫くの不機嫌が嘘のようにご機嫌に歩くアレクを見て、町民が一瞬ギョッとする。しかし直ぐに隣いるルミナに気付くと、納得した様に頷く。ヒューヒューと冷やかしたいが、下手な事を言ってまたアレクの機嫌が急降下するのが怖いので黙っていた。
手を繋いだまま、のんびりと町を歩く。それだけでこの上ない程に幸せだった。この時間が永遠に続けばいいと思う。
いくつかの店を見て回り、本屋で使えそうな本を仕入れたり、時折町の人と軽い世間話をし、ダンジョン攻略を控えるアレクは激励の言葉を受けたりしながら、デートは続いていく。
リリカがオススメしてくれたというカフェでランチセットを頂き、お腹も満たされた所でまた町を歩く。
「___ねぇアレク、あのお店見てみない?」
ルミナが指を指したのは従魔用の装備や食事が売っている店だった。アレクの使い魔、ヒポグリフのミラに何か買ってあげるつもりなのだろう。
いつも留守番させがちなミラに気を遣っているんだろうな。まぁ、僕の使い魔だし、ミラへのプレゼント位は許してもいいか。あの子とは長い付き合いになってるし。
ルミナの希望通り店の中に入る。従魔用の鎧や鞍などといった実用的なものから、食事やおやつ、果ては従魔用の爪紅やアクセサリーといった装飾品まである。
流石にヒポグリフを想定した武具は売っていないので、買うとしたらおやつか装飾品か。ミラの好みとしては食べ物の方が喜ばれるだろう。2人はおやつ棚を物色する。
「お肉の方がいいよね」
「いや、ミラは狩った魔物の肉が主食だし、折角ならもっと違うものの方が特別感があるんじゃない?
例えば___コレとか?」
そう言ってアレクが手に取ったのは果物が練り込まれたボーロだった。確かに普段食べているものとは毛色が違う。
「こっちも良さそう」
ルミナが手にしたのは肉やら野菜やらを練り込んだスティック状のおやつだ。手ずから与えられる。
それぞれが選んだおやつを前に、ルミナが頭を悩ませる。
「うーん…どっちにしよう……。ボーロの方がいつもと違って特別感あるかな……でも、ミラはお肉が好きだし味的にはこっちが好みかも……」
「両方買う?ミラには僕が居ない間ルミナを守ってもらうし、そのご褒美も兼ねて」
「___そうしよっか」
結局2つとも購入し、店を後にする。「いいお土産が買えた」と喜ぶルミナを、アレクは微笑ましそうに見ていた。
・・・・・
そろそろ日も暮れようかという頃、ルミナが「行きたい所がある」とアレクの手を引いた。アレクは抵抗する事なくルミナに付いて行く。
町の外に出て、魔物に気を付けながら進む。どれ位歩いただろうか。まだ日は落ちきってないものの、段々と空がオレンジから紫へと変わっていく。
小道を抜けた先にある洞窟に足を踏み入れる。ヒカリゴケの明かりを頼りに進んで行き、洞窟を抜ける。
そこには、小さな空間が広がっていた。そこだけぽっかりと穴が空いている様に高い岩壁に囲まれた空間。空を見上げれば紫色に染まった空と、小さく瞬く幾つかの星々が見える。
「ここは___」
「覚えてる?いつだったか、採取依頼の途中で見つけた場所」
ルミナの言う通り、そこはクエストを受け始めてから暫くして偶然見つけた場所だった。先程抜けた洞窟での採取クエストで、色々と探索している内に見つけた。ジメジメとした洞窟とは正反対の爽やかな空気が印象的だった。
「勿論。ルミナとの思い出は何一つ、どんな些細な事も忘れてないからね。
でもどうしてここに?」
ルミナはそんなにこの場所を気に入っていただろうか?確かにあの時はここで昼食を取ろうと言っていたし、ちょっとしたピクニックを楽しんだが、それはそれまでジメジメとした洞窟を歩き回っていたからカラッとした空気と大空にテンションが上がっていただけだろう。何せあれ以降、足を運んだ記憶はないし、ルミナも特に行きたそうにはしていなかった。
だが態々デートの最後にここに連れて来たという事は何かあるのだろうか?アレクはルミナの返答を待つ。ルミナは何故かモジモジしていた。
やがて意を決した様に顔を上げると、アレクと繋いでいた手を離す。離れた手にアレクが寂しく思う暇なく、ルミナはアレクの手を取ると何かを彼の手首に付けた。
「___これ、あげる」
「え?」
付けられたのはミサンガだった。白・赤・オレンジの三色で作られたそれは僅かに光っている様に見えた。
「アレクのダンジョン攻略の無事を願って、私が初めて作った魔道具。聖女の加護が込められてるよ。
………アレクが持ってる魔道具に比べたら、ちっぽけなものだけど、受け取ってくれる…?」
ルミナの瞳が不安そうに揺れる。アレクは黙ったままミサンガを見る。宝物を扱う様に丁寧に、ゆっくりとミサンガを撫でる。
___ルミナの、魔力。
僅かに感じた気がする温かさに心が奪われる。実際の所、“魔力感知”のスキルを発動していない今のアレクに魔道具に込められたルミナの魔力が感知出来る筈ないのだが、アレクは確かに彼女の魔力を感じた、とそう思っている。
「___ありがとう。凄く嬉しいよ」
アレクは天使のように美しく微笑んだ。今日一日ルミナを独占出来ただけでも嬉しいのに、こんな素敵なプレゼントまで用意してくれたなんて、どれだけ僕を喜ばせれば気が済むんだろう。
「これを渡す為にここに来たの?」
「うん。町だとその…人目もあるし……なるべく人がいない所が良かったから」
「そっか」
アレクとしても自分の為に作ったプレゼントを顔を赤くして渡す可愛い彼女の姿を他の人には絶対に見られたくなかったので丁度いい。それに、星明かりがぽっかり空いたこの空間に差し込んで、いい雰囲気だ。
「そろそろ暗くなってきたし、帰ろっか」
空を見上げてルミナが言う。もう少し余韻に浸っていたい気もするが、早く帰ってミサンガに保護魔法をかけなければいけないので、アレクも「そうだね」と頷いた。
「ルミナ」
「うん?」
「___僕、このミサンガ、一生大切にする」
そう言って、アレクはミサンガに優しいキスを落とした。それを見て一層顔を赤くするルミナ。そんな彼女を見て、アレクはまた嬉しそうに微笑んだ。
・・・・・
もう一度洞窟を通り、町に戻っている途中。
2人の姿を見つけた町民が、慌てて駆け寄ってくる。
「いたいた!おい、2人とも!!」
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
のんびりと首を傾げる2人とは対照的に、スキンヘッドが特徴的な町民は慌てふためている。その理由は、彼が告げた一言により直ぐに理解出来た。
「___大変だ!第一王子かもしれないヤツが来やがった!!」




