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第3話 出立の日

 アレクと逃げる事を決めた後。しっかり身支度を整えてから行こうというアレクの提案を受け、出立は明日の夜となった。ゲームでは王宮の使者が村に来るのは儀式の日から数日後。次の日ではないので大丈夫なはず。



 私はアレクと別れて直ぐに家に戻る。そして貯めていたお小遣いの半分を持って村の店を巡り歩き、必要なものを買い揃える。食料や水、回復薬…。念の為武器として短剣くらいは持っておこう。安いやつだけど。野営用の毛布…は家にあるやつで十分かな。地図はアレクが持っているし…。 

 必要そうな物を次々と頭に思い浮かべる。そしてある程度買い物が済んだ頃には夜遅くなっていた。急いで帰らなきゃ。慌てて家に戻ると「おかえりなさい」と母が声を掛けてくれる。遅くなった事を怒るわけでもなく、いつも通り晩御飯を用意してくれた。父も「おかえり」と穏やかに迎えてくれる。



 ______私を産み、ここまで育ててくれた両親。この人達と離れる事になるのは寂しい。けど、どの道素直に王宮に行っても二度と会えない可能性が高い。なら、少しでも私が幸せに暮らせる道の方が良い。そう自分に言い聞かせる。



 罪悪感からか、残り少ない家族との団欒を素直に楽しめず、私はご飯を済ませると足早に部屋に向かった。荷造りをしよう。手を動かしていた方が気が紛れる。



 買ってきた物を次々と鞄に詰め込む。なるべく身軽な方が良いから必要最低限なものだけ…。携帯食料、水、ランプ、毛布、薬、そしてお小遣いの残り半分。…うん、何とか全部入った。ナイフは一緒に買ったホルダーに入れ、腰からぶら下げる。冒険者っぽい格好にちょっと気分が上がる。割と様になってんじゃない?



 なんて浮かれている暇は無い。他にもやる事はある。

 私は買い出しの時に買って来たレターセットを取り出す。そう__手紙を書くのだ。私の両親と、アレクのご両親、そして村の中でも特別お世話になった人達に。直接別れの挨拶は言えないけれど、せめて手紙で伝えたい。騒ぎにならない様に、出発の直前に静かにポストに入れて回るつもりだ。



 今までの感謝と、勝手な事をした謝罪の気持ちを込めてペンを走らせる。途中、色々な思い出が蘇ってきて故郷を離れるのが辛くなった。でも、私はヤンデレ達から逃げる為に、ブラック企業入りを避ける為に、___私の幸せの為に、全て捨ててアレクと共にこの国を出るんだ。



 溢れ出そうになる涙を堪えながら、私は手紙を書き綴った。


 ・・・・・


 次の日、つまり出発の日。私は早々に朝食を済ませると、一目散にとある場所へ向かう。出発は夜だがら、それまでに出来る限りの事はしておきたい。昨日の内に買い出しと荷造り、手紙の執筆は終わらせたからやっておきたい事はあと一つ。



 私はヒロインの始まりの場所、教会の前に立つ。ここに来た理由は___聖女としての力を知り、鍛える為だ。



 ゲームによると、聖女は〈ルミナ〉の前にも何人か生まれている。その功績は伝承として残っており、特に詳しく載っている本は教会に置いてある事が多い。シナリオ中でも、より聖女の力について知る為に教会から取り寄せた本をヒロインが読むシーンがあった。

 加えて、神父など聖職者はバフ魔法や回復魔法を得意とする者が多い。その2つはいくつかある聖女の力の中でも、聖女が得意とする魔法だ。まぁそのせいでノーマルENDでは国の為にバフ掛けマシーンと化すのだが。



 兎に角、ゲームではコマンド一つで鍛えられた力でも、現実ではそうはいかない以上、修行方法などを事前に知っておく必要がある。ただでさえチートなアレクの力に聖女のバフが加わればもう怖いもの無しだからね。



 私は大きく息を吸って、吐く。そして覚悟を決めて教会を扉を開けた。



 「ごめんください」

 「おや?どうしましたか、ルミナ」



 この村から聖女が出たからだろうか、いつになくご機嫌な神父に、私は内心を見透かされないよう笑顔を貼り付けて言う。



 「聖女としての力をもっと知っておきたいと思って。そういうのが学べる本とか無い?」




 嘘は言っていない。学んだ聖女の力を国の為ではなく自分の為に使うだけで。


 神父は「いい心がけですね。少し待ってなさい」と言って奥の部屋へ向かう。暫くして何冊かの本を手に持ち戻ってきた。



 「どうぞそこに座りなさい。聖女について教えてあげよう」

 「ありがとうございます」



 丁寧に頭を下げて教会の椅子に腰掛ける。ペラペラと聖女について話す神父。いつもなら彼の長話には辟易するだけだが、今ばかりは真剣に耳を傾ける。






 ある程度の話が終わると次は魔法のコツについて尋ねる。神父はまたイキイキと話し始めた。実践もさせてくれて、神父の指導のもと実際にバフ魔法や回復魔法を使った。イメージ通りのバフを掛けたり、いい塩梅に回復させるのは案外難しく、何度も挑戦してようやくコツが掴めてきた頃には日が傾き始めていた。



 「神父様、私そろそろ帰らないと…」

 「おやもうそんな時間ですか。気を付けてお帰りなさい」

 「色々とありがとうございました」



 神父に礼を言って教会を出る。大変だったがお陰で力の使い方も分かったし、行って正解だった。でも流石に昼食も摂らず没頭していたせいか疲れたな…。本番は夜だというのに飛ばしすぎた。ふらつく身体を覚えたてのバフ魔法もかけて動かす。途中、アレクの姿を見かけたので声をかける。アレクは私を見るなり駆け寄ってきた。



 「ルミナ、大丈夫?何だか疲れてるけど…」

 「大丈夫。ちょっと逃亡の為に鍛えてただけだから」

 「……それなら良いけど。夜に向けてちゃんと回復しなきゃダメだよ?はい、これ。疲労回復の効果がある特製魔法薬」




 アレクが小瓶を差し出してくる。お礼を言って受け取り、一気に飲み干す。エナジードリンクの様な味だ。確かにシャキッとするし、疲労感も軽減された気がする。



 「はぁ…楽になったよ。ありがとう」

 「どういたしまして。それじゃあまた夜に」

「うん」



 アレクと手を振り合って別れ、私は家に帰った。____恐らく、家族で過ごせる最後の時間。大切にしないと。

 私は惜しむ様に最後の家族団欒を過ごした。






 _______そしてやってきた出立の時。皆が寝静まる中、こっそりと鞄を持って家を出る……筈が、玄関にはまるで待っていたかの様に父と母が立っていた。驚き戸惑う私に、2人は微笑む。



 「____この国を出るんだろう?」

 「な、何で……お父さんとお母さんがそれを………」

 「アレクくんから聞いたのよ」



 _______アレクから?



 母の話によると昨日、丁度私が買い出しをしている間にアレクが家にやって来て、話してれたらしい。私が王宮に行くのを嫌がっている事、アレクと一緒に国から逃げると決めた事。全てを。



 「私達にとって一番大事なのは、貴女。ルミナが不幸になるなら、聖女の使命なんて果たさなても良い。貴女が幸せに過ごせるのなら、この村から、この国から出たって良い。




 私達は、貴女の選択を応援するわ」

 「ルミナ、これだけは忘れないでくれ。




 _________俺達はお前を愛している。どこに居ても、何をしいても……俺達はお前を思っているよ」




 「「だから、行ってらっしゃい」」




 2人が笑顔で言う_______母はお弁当、父はお守りのペンダントを差し出しながら。私は溢れる涙を拭う事もせず、それらを受け取った。そして______



 「わた、私も2人が大好きだよ…!




 行って来ます…!!」




 しっかりと幸せへの一歩を踏み出した。




 絶対に攻略対象達にも国にも捕まらず、逃げ延びてやる…!

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