第20話 ヤンデレ幼なじみとヒロインの謎
馬車に揺られながら、アレクは横にいるルミナを盗み見る。聖女の力を高める修行中の彼女は、真剣な様子で瞑想を行っている。
いつも通りの光景。いつもなら、そんな彼女の傍で、その真剣な顔を眺めつつ、食事の用意をしたり、魔法薬や魔道具の点検をするところだが、今はどうにもそんな気になれない。
先刻森の奥で助けた一団は、ルミナ曰く、第一王子らしい。アレクは第一王子の名前は勿論知っていたが、姿までは覚えていない。というより興味がなかったので覚える気すらなかった。
村を出た後も、まさか第一王子が王宮から出て聖女を探しに来るなんて思っておらず、積極的に情報を集めようとはしなかった。
___でも、ルミナは気付いた。
アレクはルミナの事をよく知ってる。確かに彼女は人の名前と顔を覚えるのが不得意な訳ではない。しかし、いくら索敵スキルでハッキリ見えたからといって、あんな直ぐに第一王子だと分かるものなのか。
村に居た頃、アレクはルミナの行動を大体把握していた。流石に家の中___特にルミナの自室やお風呂___での様子はあまり見ていなかったが、それ以外の時は魔法や魔道具、スキルを駆使してストーカーという名の見守り活動をしていた。
幼少期はまだ使える魔法もスキルも少なく、またルミナに釣り合う男になる為に自分磨き中だったので、そんな暇なかったが、完成チート化してからはほぼ毎日、見守っていた。
だからこそ、分からない。いつ、どこで、一目見て分かるほど、第一王子の姿絵を見ていたのか。
可能性があるのはアレクが自分磨きに忙しくしていた幼少期か、あまり見ないようにしていた彼女の家の中か。
幼い頃に見ただけの姿絵一つで第一王子の顔を鮮明に覚えられるとは思えない。幼少期という可能性はない。ならば家の中で見ていたのか。となると彼女は第一王子の姿絵を持っていた事になる。
いや___それだけでなく、顔を鮮明に覚えてしまう位何度も見ている、という事だ。
____気に入らないな。
ルミナの心を奪う第一王子。興味も警戒もしていなかった男に対して、アレクは今、明確な敵意___いや殺意を持った。
早急に排除すべき対象はフェンだと思っていたけど、第一王子が最優先だね。絶対にルミナに会わせないようにしないと…。というか腹が立つから今からあの森に戻ってでも排除したい。まぁ流石に相手ももう移動してるだろうから、仮に戻っても無駄足だろうけど。
まぁ、第一王子はいずれ痛い目を見させるとして、今の所ルミナは第一王子を見ても特に浮かれた様子もない。それどころか、第一王子を視認した瞬間、逃げようとしたくらいだ。王宮から逃亡中の身としては正しい選択だけれど。
と、ここでアレクの頭にひとつの疑問が浮かんだ。
___第一王子に憧れているのなら、何でルミナは王宮に行くのを嫌がったんだろう。
聖女として王宮に行けば大手を振って第一王子と会える。それどころか、聖女という自分の価値を利用して自分を売り込めば、第一王子と結婚する事だって出来るかもしれない。なのに、何故彼女は「王宮に行きたくない」と言ったのか。何故危険を侵してまで逃亡する道を選んだのか。
ルミナを手放したくないアレクとしては好都合だったこともあり、今まで気にしていなかったが、何故彼女は「王宮に行きたくない」と行ってアレクの手を取ったのだろう。そんな疑問が浮かぶ。
まぁ、たとえルミナがアレクの手を取らずとも、元より彼はその手を無理矢理とって連れ出すつもりであったが。
第一王子の事を頭の隅に追いやり、アレクはルミナの行動原理について考える。
“村に居たいから”という理由ではない。無断で村から、そして国から逃げ出せば、二度と故郷の村には帰れないのだから。だったらまだ村に居ながら聖女の仕事をこなせる方法を探る方がマシだ。
というかそもそもの話、あの状況で「王宮に行きたくない」と思う方がどうかしている。聖女として王宮に赴けば大切にされるだろうし、憧れの第一王子とも懇意に出来る。豪華絢爛な部屋で、ふかふかのベッドで寝て、豪勢な食事を食べ、綺麗なドレスも着れるかもしれない。
“聖女としての務め”を果たすのは大変かもしれないが、それに見合うだけのリターンはあると思うけど。
むしろこうして逃げ出した方が、危険に晒されるし、見つかればどうなるか分からない。聖女である以上殺されはしなくとも、一生監禁されて“聖女の務め”を果たすだけの存在になってしまうかもしれない。本来ならリスクが大き過ぎる選択だ。
まぁ、僕が一緒に居る以上そんなリスクは無いに等しいけど。
でもルミナは僕が声を掛ける前から王宮に行くのを嫌がってたんだよね。流石に逃亡までは考えてなかったみたいだけど…。
うーん…分からない。聞いてみても良いけど、はぐらかされそうだな。無理矢理吐かせるのも嫌だし……。
___ルミナが転生者で、ゲームの知識を持っている事を、当然ながら知らないアレクは、暫く頭を悩ませたものの、素直にギブアップする。
まぁ、結果的にこうして2人きりで居られるからそんな事はどうでも良いか。ルミナが王宮に行く事にどんなリスクを見出したのかは知らないけど、それが“第一王子に会える”をはじめとした各種メリットを打ち消すくらいのものである以上、この先も彼女自ら王宮に赴く事は無い。
____まぁ、元よりそんな事はさせないし、思わせないけど。
一先ず彼女が僕の元にある事に変わりは無いから、それで良しとしておこう。
まぁそれはそれとして、第一王子とはいずれ“お話”させて貰うけど。
2人の生活の大きな障害になるからではなく、完全な私怨で、アレクはカインを敵視した。“ルミナが第一王子に憧れている”______それが盛大な勘違いとも知らぬまま。




