第15話 ヤンデレ幼なじみは警戒を強める
クレイモンに着いたアレク達は、二手に分かれてそれぞれ情報収集と買い物に臨んでいた。アレクとしてはルミナと離れたくなかったが、彼女の望みはなるべく叶えたいし、二手に分かれた方が効率的な事も事実だ。アレクは渋々二手に分かれる事に賛同した。
アレクの担当は情報収集。盗聴系の魔道具やスキルも保有しているし自分の方が適任だろう。何より、僕が居ないところで不特定多数の人間、特に男とルミナが話すのは耐えられない。店の人間ならまだギリギリ、百歩譲って許せる。向こうは仕事として話してる訳だし、そもそも買い物だけなら会話も殆ど無いし。
お金と一緒に魔道具のカバンもルミナに渡してあるので彼女が大荷物で困る事も無い。不安がないと言えば嘘になるが、まぁ大きな問題が起きる事もないだろう。念の為、魔道具で姿を隠したミラを護衛につけておいたし。素直に「ミラを護衛として連れて行って」と言ってもルミナは断るだろうから、こっそり護衛につけるしかない。
アレクは1人町を歩く。情報収集といえども、ルースラの町の時のように酒場に行くのは得策では無い。まだ日の高いこの時間帯では客も少ないだろう。一先ず町を歩いて噂に聞き耳をたてる事にする。
聞こえてくるのはなんてことの無い世間話ばかりだが、それらに混じってアレクの耳に一つの話が舞い込んだ。
「そういや“聖女”はまだ見つかってないのかね」
「みたいだな。ギルドにもまだデカデカと“聖女探し”の依頼が張ってあるよ」
「見つけたら多額の報奨金とレアな魔道具や素材が貰えるんだったか」
「そうそう。報酬に目が眩んで、適当な奴を“聖女だ”って偽って連れて行く奴もいるらしいぜ。他にも、人売りの連中が「この娘が聖女です!王宮に引き渡せば多額の報奨金が受け取れます!」って若い娘を高額で売ってるらしい」
「んなの直ぐバレるだろ」
やはり聖女が逃亡した事は既に国中に広まっている。王宮は各地に依頼を出して、随分と必死らしい。しかもそれを利用した詐欺まで横行している。
ルミナの足元にも及ばない、凡愚な娘達を「聖女だ」とのたまうのは腹立たしい。だが、アレクは聖女詐欺を止める気はない。少しでも世の中を掻き乱してくれた方が、こちらとしては動きやすい。
この調子で情報を集めつつ、冒険者ギルドでも覗いてみようか。“聖女探し”の依頼もある事だし、もう少し情報が得られるかもしれない。聖女を探している冒険者がどういう風に動いているかも観察したい。
アレクは町の噂を集めつつ、冒険者ギルドへと足を進めた。
・・・・・
アレクは認識阻害を発動したままギルドに入る。冒険者やギルドの職員と話して情報を得る方が効率的だが、顔を覚えられるのはマズイ。酒場とは違い、実力のある者が集まる空間では、アレクの素性を看破する程の鑑定スキルを持った人物がいる可能性もある。
何より、ギルドでは見慣れない人間というのはかなり注目を集める。品定めをされるからだ。
加えて、初めて来る人間であれば職員に冒険者カードの提示や、持っていなければ作成を求められる。アレクは既に冒険者カードを持っているが、本名で作られたソレを提示する訳にはいかない。ランクも高いので変に注目を集めるのも困る。
聖女と一緒に姿を消したアレクの事も当然捜索対象になっているだろうから、ここからはなるべく自分の顔と名前も残さない立ち回りたい。
認識阻害は問題なく発動している様で、ギルドに居る誰一人としてアレクに気付かない。彼はなるべく物音を立てない様に注意しつつ移動し、ギルドの壁にもたれ掛かる。集中する為に目を閉じ、“聞き耳”スキルを発動させ、情報を取り入れる。
パーティーメンバー募集の話やクエスト攻略の話に混じって、聖女の話もいくつか聞こえる。
「“聖女探し”、皆やってんだな」
「そりゃあ報酬が良いからな。国に恩も売れるし」
「王宮の諜報部隊も動いてんだろ?隠密組織だから大々的に活動はしてないだろうけど」
「もしかしたらこの町にも諜報部隊の人間が居たりしてな」
「魔術師団が町を監視してるって噂、マジなのかな」
「さぁな。でもここ最近、詐欺やら窃盗やらの犯罪がよく摘発されてるよな。魔術師団が監視してるからバレてんのかな」
「悪い事出来ねぇな」
「依頼書に似顔絵はあったけどさ、実際聖女ってどんな姿してんだろうな」
「さぁな。つーかどうせ変装してるだろうし、あの似顔絵もどれだけ役に立つか…」
「鑑定スキルでもあれば楽なんだけどなー」
……似顔絵、ね。
アレクは目を開け、ギルドの依頼ボードに一際目立つ様に張られている“聖女探し”の依頼書を見る。確かにルミナの顔が載っている。アレクの目から見ても中々の完成度だ。恐らく村人の記憶を魔法で念写したのだろう。
依頼書の隅にはアレクの事も書かれており、彼の似顔絵も小さく載っていた。やはり認識阻害を発動させたままで良かった。
それにしてもこうもハッキリとした似顔絵が出回っているのは厄介だ。いっその事、適当な男女を捕まえて、僕達に見える幻覚をかけて、事故に見せかけて殺してしまおうか。そうすれば“聖女”は死んだ事になる。
……ルミナは絶対に嫌がるだろうけど、いざとなればそういう手も取らないと。その手段も視野に入れて、今の内に幻覚の魔道具を改良して、王宮の、いや国の人間全員を騙せるレベルにしなければ。
アレクはまた噂話に耳を傾けようとする。と、一組の冒険者パーティーがギルドに入ってきた。クエスト帰りなのだろう。リーダーらしき男が受付に向かい、報酬を受け取っている。それ自体はよくある光景で気に留める程では無い。しかし、アレクはそのパーティーメンバーの1人が気になった。
忍者のような装束を纏ったその人物は、恐らくトレジャーハンターだろう。一見パーティーメンバーと談笑している様だが、何かを探すように周囲に目を配っている。パーティーメンバーとの会話に適当な相槌をうちながら、周囲に気を配っている。
臨時のパーティーメンバーだった様で、そのトレジャーハンターはパーティーリーダーから報酬を受け取るとパーティーから離脱した___と思ったら直ぐに姿を消す。アレクは彼から目を離していない。にも関わらず、一瞬にしてその場から姿を消した。周りの人間は彼が居なくなった事に気付いていない。
___いや、正確にはまだギルド内にはいる。ただ認識出来ないだけだ。“索敵”スキルを発動したアレクにだけは、トレジャーハンターの姿が見えている。しかし、かなりレベルの高い認識阻害の様で、アレクでさえもかなり集中しなければ直ぐに見失ってしまう。
このレベルの認識阻害が使えるトレジャーハンター、只者じゃない。
アレクは鑑定スキルも発動させ、彼を調べる。アレクの鑑定も万能ではなく、分かるのは名前、ステータス、後は使用出来るスキルと魔法がいくつか分かる程度だ。彼が何者なのかどこまで把握出来るか。
___名前はフェン。姓は無し。この国で姓を持たないという事は、元奴隷か、スラム街の人間かな。
魔法より物理が得意な様で、魔力ステータスは低いが、それ以外は一般的な冒険者より勝っている。特に隠密性と俊敏性に長けたステータスだ。スキルも隠密スキルに索敵スキル、更に“嘘を見破り易くなる”直感スキル。魔法は状態異常系のものが使えるみたいだ。
……厄介そうな人間だ。一度この場を離れた方が良いかな。
アレクが見た限り、フェンの索敵スキルは高い。認識阻害魔法はルミナを見守る為によく使っていた事もあり、得意な魔法の一つではあるが、長時間フェンと同じ空間に居たなら見破られる可能性が高い。
___あのステータスだとただの冒険者って訳でも無さそう。なんだか嫌な予感もするし、早くこの町から離れた方が良さそうだ。あまり情報が得られなかったのは残念だけど。
アレクはこっそりと、しかし素早くギルドから離れ、ルミナとの待ち合わせ場所に向かう。
____ギルドから立ち去るその一瞬、誰かの視線を感じた気がした。




