11 異物
伊東甲子太郎の人気は日々上がっている。
8名の門弟を連れ上京した。その費用を近藤局長は出そうとしたが伊東は入隊前であるとして断った。
近藤局長はその潔癖さに感心したが、その横で土方副長は苦笑いをしていた。
伊東は育ちが良いのだろう。土方副長はやはり気に入らないようであった。
伊東の入隊により新撰組は活気付いた。
今まで曖昧な主義だったのが尊王派と見られるようになった。
実は主筋の松平容保でさえ、京都守護職で尊王と言う事になっていたが、幕府の為の尊王であり京都守護職は隠れ蓑であった。
新撰組はどっち付かずな状態にしておくべきであったのだ。
伊東は上手くそれを利用した。
近藤はとにかく武士の対面にこだわる。そして政治が大好きである。
田舎の侍が京に来て舞い上がっているだけ。と伊東にはわかっていた。
まず近藤をおだて政治に参加させ、隊から切り離しにかかった。
そして伊東はその知識、弁の巧みさで隊士たちに尊皇攘夷を大いに説いた。
そして長州に繋ぎをつけ、薩摩の動きを探る為とし薩摩の人間を入隊させた。
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副長の部屋前に立つ。
「島田君か?入れ」
「失礼します」
「どうだ?いの字は?」
「入隊させた薩摩の富山を通じて、大久保一蔵に近付いています」
「やはりか、さすがに目障りだな」
「薩摩にこちらの動きが筒抜けになりますね」
「薩摩っぽうは長州のように目立つ反幕府行動をして無いのがタチが悪い」
「まだ幕府の敵では無いですからね。まだですが・・」
「京都守護職の方も、もう味方とは見て居ないようだな」
「薩摩も伊東も腫れ物ですね」
「うん、島田君は上手い事を言う」
「しばらくこのまま継続します」
「うむ、あと斎藤君ももうそろそろ動くと思う」
「わかりました」
斎藤一が伊東一派に入っているのだ。藤堂は同門だから分かるが斎藤はどうやって入ったのか・・・
「ん?斎藤君の事で何かあるのか?」
「いえ、どうやって近づいたのかと思いまして」
「ああ、簡単だ俺の悪口言ったらすぐ入れたらしい」
「は?」
「伊東は近藤さんと俺を口説くのを諦めたんだろう」
「それは・・・そう言う事ですね」
「間違い無く敵対しているってぇわけだ」
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薩摩に近付き過ぎた伊東を不愉快に感じた京都守護職は、近藤に「伊東に真意を聞け」と通達した。
伊東一派と近藤一派と激論が飛び交う。
伊東は「我々は隊を脱退するのではなく、別れて新撰組の為に働くのだ。薩摩長州の動きをさぐり新撰組の役に立ってみせる!」っと言い切った。
上手い、これだと局中法度に触れ無い。
慶応3年3月10日、伊東一派15名、孝明天皇御陵衛士として、五条橋東詰めの長円寺に移った。