1 京都レモネード屋
ぼちぼち書いています。
「これが檸檬の蜂蜜水のレモネードってやつですか?」
慶応から明治と元号が変わっただけではない。兵庫の津にある外人保留地からの影響だろうか?このような店も開けるようになったとは、京も変わったもんだ。
「酸っぱくて甘くて美味しいでしょう?なかなか客の評判も良いのです」
六尺も(180センチ)ある大男の店主は得意げに言うのだが、この店内の閑散さは嘘を付けない。
(これは酢味が強過ぎて好まれまい…)
俺が困った顔をしていると店主は、「ではこっちなら行けますかな?」そのガタイに合わない細やかな気を利かせ汁粉を出してくれた。
やはり甘味はこれが良い。
汁粉腕を取り一口啜ると・・・
(甘い!甘いすぎて吐きそうだ!これが杉村さんが言ってた島田汁粉か!)
「どうですか美味しいでしょ?自慢の汁粉なんですよ」
「ゴホッ!いっ、いやコレは好きな人にはたまりませんな」
「ところでお客人・・・」
空気が凍る・・・
首に刃を突きつけられているようだ。
恐ろしい圧で息をするのも苦しい・・・
(これで3回目だ!全く、これだから狼の生き残りは怖い・・・)
「で、貴様は本当は何をしに来た。身内の仇討ちか?敵討禁止令は明治政府より出たはずだが?」
「いえいえ、違う!違います!」
「では?」
「元・新撰組伍長の島田魁さん、いえ今はさきがけさんとお呼びすれば良いのですか?」
さらに空気は冷える。
「・・・呼び名などどうでも良い、いかにも島田だが何用だ?」
「杉村義衛殿と藤田五郎殿より、こちらのお店を聞きしました」
「杉村、藤田?・・・あぁ永倉さんと斎藤さんか・・・」
フッと圧が抜け気配が緩んだ。
「拙者、死んだ師匠の遺言により、ある刀を探しております」
「師匠の切銘は何と申すのだ?」
「清麿」でごさいます。
「すがまろ?あぁ清麿か」
「初銘の正行か秀寿かの頃に作刀した物で、足取りを追って参りましたがどうやら新撰組の方のお腰の物になったようで、藤田殿と杉村殿にお聞きしたところ、副長の片腕だった島田なら知ってるかもしれん、何やらあの頃の事をまとめるらしい。との事でございました」
「全くあの御二方には参るの。確かにあの頃の話は書き残そうとしておる。世間は新撰組を悪のようにいうがそれは少し違う。と言うのを後世に伝えたい」
「まぁよい、それで清麿だが近藤局長の気に入っていた虎徹の偽銘が入ったアレか?斎藤さんが「ありゃ清麿だな」と言っていたが?」