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ワン 9

―――…


「で、どういう人なの?」

「一言でいえば、犬みたいな人。外見だけでいえば、キャラメル色のふわふわな髪が相まってトイプードル」

「犬……ね」

「人懐っこいし明るくて元気なんだけど、正直すぎて思っていることをそのまま行動にするというか…嫉妬深くもあり時々何やらかすか分からない危険さもある感じ?」

「あーね」

「遼の連絡先も消された」

「マジ!? やるね!」

「……未希、なんで嬉しそうなの?」

「おもしろいじゃん。聞いてる分には」

「ちょっと真面目に聞いてよー」


 喫茶店の一角。コップに入った飲み物を混ぜながら、友人に文句をつける。

 私とは違ってブラックコーヒーを飲みながら、未希は角度によって紫色に見える髪色のロングヘアを後ろへはらった。綺麗な扇状の睫をゆっくり動かしながら、だるそうな表情に顏を歪めている。


「モテるって話、つまんねぇと思って」

「違うじゃん! 相談してるんだよ!!」

「ふ~ん? 犬ならリードで繋いどけば?」


 例え、リードをつけたとしてもやられっぱなしの未来がみえる。ヤツは忠犬ではない。しっかりとしつけをしないとだめだろう。


「沙彩はどう思ってるの? そいつのこと」


 ミニスカートの足を組み替える未希。足がスラッとしてて長い。パンツが見えるか見えないかぎりぎりのところで見えなかった。


 爪には綺麗に装飾が施されている。日常生活に支障がないのだろうか。私なら、何をするにも爪が心配になっちゃって何もできなそう。


「最初は関わりたくないと思ったけど、悪い人ではないのかなって感じ」

「好きなの?」

「違う違う! そんなんじゃない!」

「好き好き言われて、その気になったんじゃないの?」

「その気になってない!!」

「好きな人も付き合ってる人もいないんだから、付き合えば?」

「やだよ」

「なんで」

「重い」

「溺愛されてるってことじゃん」

「さっぱりした付き合いがいい」

「遼のこと?」


 射貫くような未希の視線。目を合わせられず、そらす。


「そんなんじゃないよ」

「遼とは終わったでしょ」

「分かってる。思い出が輝いて見えるだけ」


 あの頃は楽しかった。自由だったけど、責任がなかった。年齢的には大人だったけど、子どもでいられた。鳥かごは鳥かごだけど、広い鳥かごの中で悠々自適に過ごせいた。


 遼も距離の取り方を分かる人だったし、ガツガツしてなかった。一緒にいて落ち着けた。


「犬の彼とはどうするつもり?」

「うーん……」

「……そんな態度だから付け込まれるんじゃん」

「……ごもっとも」

「沙彩! ボーっとしてると食われちゃうよ!?」

「食わ……!? ……あり得る」


 手を出してくるのは早かった。初日でキスしようとしてきたし、体だって……。思い出しただけで顔が赤くなった。何されるところだったんだ!?


「食われちゃってもいいわけ?」

「よくないよ!!」

「じゃあなんとかしなよ」

「うーん……」

「はぁ」

「……未希ぃ~」


 未希はテーブルに頬杖をつき、鬱陶しそうにこちらを見る。そんな目で見ないで、未希!


「……もしかして、触られたいとか?」

「なわけあるか!!」

「ちゃんと拒んでるの?」

「がっちり拒んでるよ!!」

「……嫌なの?」

「嫌だよ! ……なにさっきから遠回しに!!」

「その割には、その犬を避ける行動しないじゃん」

「したよ! けど、トイレだとか理由を付けて結局元通りだし、関わらないでって言っても嫌だって粘ってくるし」

「…主導権はあっちって感じね」

「なんかこう思い通りにいかないんだよね」

「流されてたらいいんじゃない?」

「また勝手なこと言って!」

「好きならくっつく、嫌なら拒む……簡単なことじゃん」

「好きでも嫌いでもない場合は?」

「拒めばいいじゃん。好きじゃないんでしょ?」

「そうだけど……」

「やっぱり、好き好き言われて情が移ったんでしょ」

「違うってば!」

「沙彩、周りを優先しがちなとこあるもんね」

「……」

「良く言えば、優しい」

「……」

「けど、このままだと何されても文句言えないよ。トイプードルだって猟犬なんだからね」

「……」

「犬に襲われたら、また報告して。楽しみに待ってる」

「待つな!」


 未希は妖艶な微笑みを浮かべ、席を立つ。魅惑的なナイスバディに周りの男は魅了された。


「さ。次の場所に行こう」



 徒歩で場所を移動する。通り過ぎる老若男女が未希を見て目をハートにしていた。

 その隣を歩く私。歩きにくい。


「……未希の隣やだ」

「言っとくけど、あんたへの視線もあるんだからね」

「ないよ! ほとんど未希じゃん」

「あるんだよ! ちゃんと見ろ!!」

「見てるよ!」

「……ほんと、あんたって周りが見えてないよね」

「そんなことない!」


 未希と言い合いをしていると、横に車が止まった。赤のオープンカーで、この場所では明らかに浮いていた。


 窓が下がっていく。開いた窓から顔を覗かせたのは、サングラスを頭にかけた金髪の男で、上はヒョウ柄のシャツを着ていた。


「ねぇ、君! 一緒に遊ばない?」


 未希に声をかけているかと思ったら、私だった。目がバチッと合う。


「私……!?」

「そうそう、君! もちろん隣のお姉さんも」


 未希は自分の爪が気になっているのか、爪を並べて眺めていた。ちょっと、おい! 今やるべきことがあるだろうが!! 自由か!!


「名前なんていうの?」

「えー…と……」

「あっは! 自分の名前忘れちゃった?」

「サ……サキです」

「サキちゃん! 可愛い名前だね」

「ああ……ありがとうございます」

「堅いね~…緊張してる?」

「そ、うですね…」

「俺、ショウ! 気軽に呼んで!」

「……はい」


 道の途中で停車しているため、後ろの車がクラクションを鳴らす。だけど、それを気にすることなく会話を続ける男。


「ところでさ~、彼氏いるの?」

「いませんが」

「え~いないの? 隣の彼女は?」

「……」

「……未希、聞かれてるよ?」

「今、爪の手入れで忙しい」

「……」

「彼女面白いね~」

「……どーも」

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