ワン 7
偶然同じになってしまっただけなのに、傍から見たらペアルックしている人たち(もはやカップル)に見えてしまうだろうか。
違う! 違いますからね!! そんな周りにイチャイチャを見せつけようなんて思ってないし、そもそもカップルでもないですからね!!!
こんなことになるなら、チェックじゃないのにすればよかったかな。その方が、周りを気にしなくてもよかったのに。
「今日も舐めまわしたいくらい可愛いよ」
「……」
「生足さーや最高」
「……」
お巡りさん! 変態がここにいます!! 逮捕してください!!!
まだ学生なのに、変態の発言がおっさんなんだよな……。蒼のこと、おっさんって呼ぼうかな。
「ん」
手を差し出してくる。じーとそれを見つめていると、待てないかのように手を取られた。
「手!」
「握らないってば!」
「もう握っちゃったもんね」
いたずらっ子のような、あどけない笑顔を見せる蒼。初めての二人の遠出に、はっちゃけているようにも見える。
今日は外だから、そんなに変態行為もしてこないだろう。一先ず楽しんで、時が経てばすぐ解散となるでしょう。
繋いだ手をぶんぶん振り回す蒼。上機嫌だ。私に歩幅を合わせるように、入口まで歩いていく。
「あ、あそこチケット売り場だって」
「もう買ってあるよ」
人差し指と中指に挟むように、チケットをひらひらさせる。確かに二枚分ある。
「準備いいね~いくら?」
お金を払おうと鞄に手を掛ける。それを、蒼が軽く押さえつけた。
「さーやの分はもらわないよ」
「え、なんでよ! 私、社会人だよ?」
「社会人とかそういうんじゃなくて……僕の奢り」
「……蒼ってバイトしてるんだっけ?」
「してないよ」
「じゃあどこから……」
「まぁいいじゃん! 行こう、さーや!!」
疑問がわいたけど、すぐに消えた。遼と来た以来の水族館に胸が高まったからだ。
―――…
「コンペイトウっていう魚、可愛い~」
「さーやの方が可愛いよ」
「あ、ヒメっていう魚いるよ! 僕の姫はさーやだよ」
「カレイの仲間だって……って“華麗”にスルーしないで、さーや!」
変態行為はないが、言葉攻めが辛い。甘い言葉やダジャレが飛んでくる。それを聞いた周りの人がくすくすと笑いながら通り過ぎていく。
「さーや! クラゲだって!」
「さーや! アザラシだって!」
「さーや! ペンギンだって!」
繋いだまま手を引っ張り、あちこち回る蒼。表情はとても楽しそうで、生き生きしていた。水族館が好きなんだろうな。
「さーや! ……ってあれ?」
水槽の陰に隠れるように、目に手を当てて俯いている小さい子がいた。小学生くらいで、髪の毛をツインテールにしているかわいい女の子だった。
「さーや…迷子かな?」
「そうかもしれないね」
女の子に向かって駆けていくと、その子は体をびくっと揺らした。見上げた瞳には、涙が浮かんでいる。鼻も赤くなっていた。
「どうしたの? お母さんとお父さんは?」
私は声をかけた。けど、大粒の涙を零して俯いてしまった。
「大丈夫? 怖くないよ~」
「うっ…えーーん」
声を上げて泣き出した女の子。声をかけるたびにひどくなる状況に困惑した。すると。
「よーし! 高い高い」
蒼が女の子の脇に両手を置き、高く持ち上げた。二、三回すると泣き声は笑い声へと変わり、笑顔が見えた。
すごい。私じゃ全然ダメだったのに一瞬で……
頼もしい。女の子を持ち上げている背中が頼もしすぎる。
「さ。お母さんとお父さんは?」
蒼は、女の子の高さに合わせてしゃがんだ。女の子との目線が近くなる。
「……いない。どっかいっちゃった」
「そっか。ここではぐれたのかな?」
「ここにいた」
「少し探そうか。見つかるかもしれないし。名前は?」
「まい」
「まいちゃんか! 行こっか」
立ち上がり、こちらを見る。蒼はにこっと私に笑いかけた。
「さーや! 手を繋いであげて」
蒼と女の子が手を繋いで歩いてくる。私は女の子の反対側の手を握った。
小さい手。簡単に潰れてしまいそうで、でも離れちゃいけないから加減しながら握る。
「おにーちゃんのすきなひと?」
つぶらな瞳が私を見上げて言った。蒼は私を視界に入れてから、女の子に大きく頷く。
「そうだよ~大好きな人」
「どこがすきなの?」
「んーとね、全部」
「ぜんぶ……まいもおにーちゃんがすきだよ」
「ほんと!? おにーちゃんもまいちゃんがすきだよ。でもね、まいちゃんへの好きとこのお姉ちゃんへの好きはまた違うんだ」
「えー…なにがちがうの?」
蒼は私を見て得意げに笑った。嫌な予感がする。まさか変なことは言わないよね?
子どもの前だぞ? 考えろよ!?
「まいちゃんへの好きは見守っていたいって感じなんだけど、このお姉ちゃんへの好きはめちゃくちゃに乱したいって感じなんだ」
おい! やめろ! 何言いだすんだこいつ!
「めちゃくちゃにみだしたいってなに?」
「誰も知らない、自分でも分からないいろんな表情をみたいんだ」
「ふーん」
「その人のことをもっと知りたいってことかな」
「おにーちゃんはまいのおーじさまじゃないの?」
「そうだね。まいちゃんにはもっと素敵な王子様が現れるよ」
イルカのショーが行われる会場まで着いた。もうすぐ始まるようで、座席は多くの人で埋めつくされていた。
「麻衣!」
ご夫婦らしき人がこちらに駆け寄ってくる。
目はまいちゃんに向けられていて、ほっとしたような表情を浮かべていた。




