ワン 28
「え…どうし「この間いじめすぎた? 私に飽きた? 嫌いになった? 釣った魚に餌をやらないタイプなの? 多忙の理由ってなに? 秘密あるの? 捨てられちゃう? 私じゃダメなのかなああぁぁ」」
「……え?」
きょとん、としている蒼。不安が止まらない私。温度差が酷い。
「えっと……」
「似合わないしすぐ終わるのかな? 浮気でもしてるの? 隣には女がいる? ストーカーみたいなことをして私のことなんて捨てられちゃう?」
「さーや、落ち着いて……」
ドン引きしてるに決まってる。信じる、連絡を待つ、だなんて言ったけど、口だけ。本心からできてない。
本当の私はすぐ不安になってしまって、弱い。自信がない。
未希の言う通りだ。これを隠したかったから蒼から逃げていたんだ。蒼に嫌われたくなかったから、嫌われて傷つくのが怖くて自分を守りたかったから。
本当の私はこんなにも臆病。恐れていたことが起きてしまった。
私はこれから嫌われて傷つくんだ。怖い……嫌だ……。
「……さーやがそんな風になるなんて思わなかった」
「っ……!」
言葉が怖い。間が怖い。この空間が怖い。
『あなたなんて捨てられちゃえばいいんだから』
嫌だ! 捨てられたくない!! 目を固く瞑った。
「さーや、明日来てほしいところがある」
別れ話!? 私はぶんぶんと頭を横に振った。断固拒否!!
「来てもらわないと困る。絶対来て」
「……行かない!」
「さーやにとって大事なことだから」
だから行かない。絶対行かない! 行ってなんかやらない!!
別れない! 別れたくない!! 私は蒼のことが……!!!
「おやすみ」
「……っ」
冷めた女に興味はなくなったのか、淡々とそう言うと閉められた扉。パタリ、と音を立てたそれは私と蒼の終わりの音のようで、私の耳には強く残った。
壁に背を付けて、ずるずると床まで落ちた。恋はこんなに呆気なく終わるのか。こんなことなら恋なんてしたくなかったよ。私の蒼への気持ちはどうしたらいいのだろう。
―――…
ピンポーン。ピンポンピンポーン。ピンポンピンポンピンポーン。
けたたましいチャイムの音に耳を塞ぐ。眉間に皺を寄せる。
うるさい。帰って。一人にさせて! 寝てない頭にはよく響いた。
ピンポンピンポンピンポンピンポーン。ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン。
しつこい。そして、丁寧に一個ずつ増やしていくな!
昨日、蒼に言われたこととこのチャイムは関係しているのだろうか。かけ布団を少し下げて目をキョロキョロさせる。もちろん、侵入されていないのだから部屋の中には変化がない。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン。ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン。
まだ続けるか! 執念がすごい。いったい誰だよ!!
床に足をつけて立ち上がる。ふらふらする体を玄関へと進めると取っ手をガチャガチャとされる。
なに!? なんなの!?
「沙彩ちゃ~ん。いるんでしょ~? 出てきて~」
……カズヤ? 想像もしなかった客にドアスコープを覗く。
金髪に黒のインナーの髪型。そして、なぜかスーツ。トラを連想させるネクタイを締めていた。
おそるおそるドアを開ける。見上げた先にはホッとしたような顔のカズヤだった。
「おはよ~!」
「……。おはようございます。なんですか?」
「いい天気だね。お出かけ日和!」
「そうですね。……なんですか?」
「俺も誰かと出かけてぇ! 遊びに行きてぇ!!」
「そうですか、大変ですね。……なんですか?」
「だけどさ」
「……」
「沙彩ちゃんには悪いんだけど、俺もあいつに媚び売っとかないと」
「な」
「前回やらかしちゃったし」
「に、を……」
にやりと笑ったカズヤは、私の手首を握ると引っ張った。予想外の人物の登場に完全に油断していた私は簡単にドアから引っ張り出され、廊下を駆ける。
寝ぐせ! パジャマ! サンダル! 鍵!! 手ぶら!!
いろいろ突っ込みたいことはあったがカズヤの思いのままになってしまった。
「待って! どこに……」
「蒼のところ」
「私……!」
「何が何でも連れてこいって言われてるから」
「こんなの誘拐……」
「ごめんね~?」
「『ごめんね~?』じゃないから!!」
階段を下り、待っていたタクシーに積まれる。ほんのり煙草の匂いがした。
「運転手さん。戻ってくーださい」
「はい」
私の気持ちは置き去りに、発車した。マンションがどんどん離れていく。
タクシーにパジャマで初めて乗ったよ! 鍵もスマホも持たずに外出したの初めてだよ!! 帰ったら泥棒に入られてるんじゃ!? 責任取ってくれるんだろうな!?




