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ワン 27

―――…


 それからというもの……


「……」


 蒼からの連絡がない。起きてから、仕事の前、昼食の時、仕事後、帰宅後、夕食後、寝る前……チェックしてるのに来ない。


『もっとさーやが欲しい!』


 この間いじめすぎたからだったりする? それとも……いや、私に飽きたというのはないだろう。まさか嫌いに……いや、蒼は私のことが大好きなはず。


 う~ん…どうしたんだろ。


 一日、二日、三日……一週間……時間はどんどん過ぎていった。初めて会ってから何かと理由を付けて会ったり部屋に入ってきたり連絡してきたりしたのに…。


 そうか! 蒼は釣った魚に餌をやらないタイプなのかな……。私のことを手に入れたから、もう必死に連絡取らなくてもよくなったとか! 体を繋げられたから満足したとか!


 ……寂しい。そんなのあり!?


「……」

「どうしたの? そんな顔して」


 同僚が笑いながら話しかけてきた。手には湯気を立てているマグカップを持っている。


「……いや……なんでもないです」

「彼氏?」

「あー…えっと……」

「よく分からないけどさ。信じてあげなよ」

「……信じる……」

「せっかく彼氏彼女になったんだからさ」

「……」


 確かにそうだ。なんだ。連絡がこないだけで弱気になって。私は弱いなぁ。強くならなきゃ。


 重いのはどっちだって話。私の方が重くなってどうする!


 待とう! 連絡来るまで待とう! 私は彼女!! 蒼の、彼女!!!


「お先に失礼します」


 パソコンをシャットダウンしてさっさと帰る。ちらっと見たスマートフォンにメッセージは入っていなかった。


 働いた体を解すように首や腕を回しながら歩く。信号が赤だなと思って、反対側の信号を見ると強調されたビッグボイン。ギャル系の見た目で気の強そうな……リカだった。

 白のタートルネックに短パンとタイツを合わせていた。アイラインとアイシャドー、つけまつげがしっかり施された目が私を見た。


「……」

「……」


 リカが歩いてくる。足が地面に付くたびに、大きな胸は揺れていた。


 何か言われるだろうと思ったが、何も言わずに通りすがる。見なかったことにする気なのだろう。


「……」


 と思ったら。くるりと向き直して私と対峙した。


「蒼、忙しいでしょ?」

「……」

「なんでか分かる?」

「……」

「分からないわよね。あなた何も知らないもの」

「……リカさんは何か知ってるんですか?」

「当たり前じゃない」

「……」

「だからあなたじゃダメなのよ」

「……」


 交差点を走るバイクや車に声量が負けていないリカと若干負けている私。リカの自信ある態度は見習うべきかもしれない。


「蒼の秘密、知らないんでしょ? あたしは知ってる」

「……」

「教えないけどね」

「……」

「あなたなんて捨てられちゃえばいいんだから」

「……」


 蒼が多忙の理由。蒼の秘密。捨てられちゃえ。

 分からないワードばかりで、防御もろくにできなくてぐさぐさと言葉が私に突き刺さった。


 私じゃダメなのかな。好きって気持ちだけじゃダメなのかな。


『似合わないよ。すぐ終わるに決まってる』


 遼の言葉が浮かんできた。



 連絡は来るまで待つと決めたからしない。だとしたら、どうする? ……蒼をストーカーする? そしたら多忙の理由も秘密も分かる。


 蒼は私が嫌がってても近づいてきたし、無視しても連絡してきた。強引にデートにこぎつけたり、襲ってきたりもした。


 私は何の努力をした? やってないことがあるんじゃないの?


 自分の部屋に辿り着き、夕飯を食べてお風呂に入った。それから厚着をし、部屋を出る。


 隣の蒼の部屋は暗い。まだ帰ってきていないみたいだ。


 ドアの前に腰を下ろす。外は寒く、一気に手がかじかんだ。鼻先も冷たくなる。


「……」


 帰ってくるだろうか。もしかして、どこかに泊まったりなんかして。


 どこに?


『浮気でもしてるのかもね』

『隣には女が…』


 未希の声が蘇る。……違う!


 ここにいると分かったら、蒼、びっくりするかな。ストーカーみたいなことをして。


『あなたなんて捨てられちゃえばいいんだから』


 ……蒼はこんなことで私を捨てたりしない!! 蒼……蒼に会いたい。



「さ……さーや?」


 それからどのくらい経っただろう。頭上から蒼の声が聞こえてきた。

 顔を上げる。戸惑っている様子の蒼がいた。


 見たかった顏に涙が溢れてくる。視界がぼやける。

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